tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

成長と分配の好循環:4つの課題

2021年10月05日 20時12分42秒 | 経済
岸田新総理は初の記者会見で「成長と分配の好循環を実現することで、新しい資本主義を実現したいと言われました。

新しい資本主義というのは小泉、安倍、菅政権が掲げていた新自由主義を改めるという意味で岸田政権の旗印としての構想でしょう。
そしてそれを「成長と分配の好循環」を作り出すことで実現したいという趣旨のように聞きました。
就任早々、こうした積極的に新しい路線を打ち出したという事は、これまでの路線ではやっぱり駄目なのだという従来路線の否定の上に立つという事なのでしょう。

それは大変結構なことだと思います。まがい物の新自由主義(新自由主義というのはもともと政府がやるものではありません)で、日本経済がうまくいくというのは大きな読み違いでしょう。実体経済への知識の不足のせいなのかもしれません。

岸田さんの言う、新しい資本主義を成長と分配の好循環で達成したいというのは大変まともな発言で、もし野党が政権を取っても、同じことをしようと考えることになるだろうと思うところです。

ところでこの成長と分配の好循環を実現するためには、どんなことが必要なのか、取り敢えずここではそのために揃えなければならない条件を、要点のみですが、検討しておきたいと思います。

第一に、成長と循環の関係の理解ですが、もちろん成長あっての分配ですが、分配は成長の結果としての存在だけではなく、今日の分配が明日の成長を規定するのが経済の現実です。

労働分配率という経済指標があります。マクロでは国民総所得のうち、何%を労働に分配したかという数字(残りは資本への分配)ですが、これは大変重要な数字で、高すぎても、低すぎても経済成長の阻害要因になります。この労使の専管事項に安倍さんは介入して失敗しました。
この適切な設定には労使(出来れば政も)常に意思の疎通をかかさず、いざというときは目的意識を共有出来ないと不可能でしょう。

第二に、労使それぞれの中の分配の在り方ですが。これはピケティが的確に説明していますように、格差社会化を生むような分配は、確実に経済成長を阻害します。
格差社会化は、資本主義自体をサステイナブルにしません。新しい資本主義にはならないのです。

格差社会化を避ける分配の実現は政府の再分配機能によるしかありません。資本主義自由経済にはその機能がないからです。所得税制、法人税制、付加価値税(消費税)社会保障システムのトータルの整合的な枠組み、日本の文化社会の現状に合ったシステムの模索が必要です。

第3に、極めて現実的な問題があります。アベノミクスの忘れ物というべきでしょうか、国民の所得と消費との関係、つまり日本人の平均消費性向が下がっているという厄介な問題です。
いくら賃金所得を増やしても、(一律10万円の支給もそうでしたが)それが貯蓄に回ってしまっていては消費が伸びないわけで、消費の伸びない経済は当然不況です(コロナ禍で、経済における消費の重要性はよく解りました)。

今の日本の多くの家庭(家計)の最大ともいえる問題は、将来不安でしょう。そのために増えない所得の中から貯蓄に励むのが一般家庭の姿ですが、平均消費性向をさげない(出来れば回復させる)ために必要なことは、将来不安の払拭です。効果的な手段はあるのでしょうか。

第4に、アメリカ主導のマネー経済の急速な一般化です。投資に名を借りた投機は、付加価値を生まず(GDPを増やさず)既存の富を移動させるだけです。それも通常、巨大資本に、より有利という結果になります。マネーゲームによる格差社会化の進展です。

日本人は「額に汗したカネ」と「あぶく銭」を区別する見識を持っていますが、アメリカはまったく区別しません。区別することはアメリカ経済の国際的資金循環に問題を起こしかねないからでしょう。

以上4つの問題点を挙げましたが、だれが政権をとっても、やらなければならない事は殆ど一緒で、今の日本の経済社会では、容易なことではないようです。能くこれを成し遂げる人がいるとすれば一体誰なのでしょうか。









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