tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

春闘の問題点、何を基準に賃上げを決めるのか?

2015年02月01日 21時09分13秒 | 労働
春闘の問題点、何を基準に賃上げを決めるのか?
 春闘の賃金交渉で、最も難しいのは、いかなる内容の賃上げをした場合、総額人件費はどれだけ増えるかという問題です。

 賃金体系の設計、人員構成(含採用)、ベアの内容、査定昇給の分布、手当制度の改定、国の社会保障制度の変更などなど、色々な要素が影響して、総額人件費の増加が決まって来るわけです。

 しかし企業が最終的に判断しなければならないのは、労使の話し合いで決めた賃金交渉の「結果」がどのくらいの人件費負担増になるかです。
 もちろんこれは、人件費(特に月例賃金部分)が固定費と考える日本的な伝統によるもので、人件費を変動費と考える経営では人員削減で随時調節が可能です。
 日本企業ではこうした人件費の柔軟化を残業代と賞与部分でやるのが精一杯です。

 一般的とか平均的に言えば、定昇部分で人件費が何パーセント増えるかは経験値があり、ベアはそのまま上積み、あと手当の改定や採用・退職の影響を推計などなどの手続きで総額人件費の増を推計、経営計画と賃金交渉との整合性を図ることになります。

 ところで問題は、総額人件費の増加の限度を「何を基準にして」考えて行くかという点でしょう。
 安倍さんは「賃上げをしてくれ」といい「経団連は、可能なところでは賃上げを考慮してほしい」と言っていますが、「何を基準に賃上げを考えるか」については一切触れていません。結局は「企業のご判断にお任せします」ということでしょう。

 政府が賃上げに介入するのはもともと異常ですが、経済団体は担当責任者の立場です。「賃上げをしてください」、「額や率はお任せ」では賃金政策は不明瞭で、企業の方も困ってしまうのではないでしょうか。

 昔の日経連は「生産性基準原理」などと言って、春闘の賃上げの基準は、国民経済生産性に置くべきだと言っていたと記憶します。それに企業自身の支払能力を勘案して、日本経済にも、自社にも合理性のある賃上げをと主張した資料も出ていたはずです。
 これに対して、労働側には、物価上昇をカバーする賃上げプラスアルファ(生活向上分)論があり、対立があったことをご記憶の方も多いのではないでしょうか。

 円安や消費増税で、賃上げは物価上昇に追いついていないのが現実です。この問題への対応のあるべき論はこのブログでも書いて来ました。実体経済と整合した賃金の在り方を考えた場合、賃金上昇の原資は生産性向上以外にないことも事実でしょう。
 今後の春闘が賃上げをするかしないかではなく、日本の実体経済、企業の経営分析の数字に基づいた合理的な論争になっていくことを期待したいと思います。