tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

インフレの原因(その3:自家製インフレ)

2008年05月10日 10時31分36秒 | 経済
インフレの原因(その3:自家製インフレ)
 現実のインフレは複合的要素で起きることが多く、たとえば、今の中国のインフレは、輸入インフレと自家製インフレの同時進行でしょう。しかし、一般的に、最も困ったインフレは実は「自家製インフレ」のようで、これは始まるとなかなか直りません。

 「自家製インフレ」というのは日本語で、英語では home-made inflation 「ホームメード・インフレ」です。全く同じではありませんが、「コストプッシュ・インフレ」などとも言われます。つまり、国内で何らかのコストが上昇することによって、製品やサービスの値上げをせざるを得なくなり、インフレが起こるという状態です。

 国内コストといえば、生産の3要素「土地、労働、資本」の要素費用である「地代、人件費、資本費」ということになりますが、地代と資本費を資本費としてまとめてしまえば、人件費(賃金、社会保険料など)と資本費(金利、賃借料、利益など)となります。この中で総コスト(=総要素費用=国民所得)の6-7割を占めるのが人件費(国民経済計算では雇用者報酬)で、通常これが上がることが自家製インフレの原因です。

 もちろん労働生産性(当ブログ2008年4月「付加価値と生産性」参照)が上がれば、人件費の上昇を吸収してインフレにはなりません。しかし何か他の原因があってインフレが起こると、「物価が上がって生活が苦しくなったから賃金を上げるべきだ」ということで、生産性に関わりなく、物価上昇を埋め合わせすべきだということで賃金が上がり、自家製インフレを起こします。この場合「賃金コストプッシュ・インフレ」ということになります。

 前回のブログでも触れた第1次オイルショックのあとのインフレは、まさにこれで、石油値上がりのパニックで、物価が年率22パーセントも上がったことが大幅賃上げ(33パーセント)を呼び、輸入インフレを自家製インフレにつなげてしまったのです。このインフレは、その後、労使の理性的な話し合いで4-5年かけて解決に至りましたが、これには 後日談があります。

 長くなりますので、後日談はまたの機会にしますが、自家製インフレの最大の問題は、当該国ではインフレですが、他国はインフレではないということで、その国の国際競争力が落ちてしまうことです。今の中国にはその気配があります。日本でも、近年政府筋が「最低賃金を大幅に上げろ」とか「非正規従業員と正規従業員の賃金の格差を是正せよ」などと言っているようですが、そうしたコスト上昇を生産性上昇で吸収できなければ、自家製インフレの原因に十分なりえます。これらの問題については、このブログでも何回か触れてきましたが、インフレは、その原因と影響範囲を良く見極めないと、じわしわと経済を悪くしてしまう大変厄介なもののようです。