週刊浅草「江戸っ子瓦版」 -のんびりHiGH句な日々-

文学と食とRUNの日々を、PHOTO5・7・5で綴るエッセイ♪

浅草生まれの作家

2013年04月28日 | ☆文学のこと☆

     
       「にげ道まよい道おれの道」
      著:今井福子 画:ふりやかよこ
     文研出版 2002年4月15日初版 

 浅草ゆかりと言えば、池波正太郎を筆頭に、荷風大人、沢村貞子、久保田万太郎、幸田露伴、山田太一などなど

 石川淳、泉鏡花、一葉や子規、鴎外もこの辺りに暮らしていたし、新しいところ!?では、吉本ばなな、山本夏彦など、題材として書かれたものをあげたら芥川龍之介までそれこそ切りがない。 

 同人の先輩に、今井福子という作家がいる。

 いまはこの地を離れているが、流れる血はまさに江戸っ子そのものだ。

 その気質は作品を読むとわかる。

 この「にげ道…」に出てくる彫師の卵の名が哲。そう、おいらの名だ。

 今井さんと知り合う前に書かれた作品なのだから、その奇遇に驚く。

 そして、表紙を開けば、わが町の全体図が見渡せる。おじいちゃんの家は、現在のおいらの家の傍だし、勇太の家はあの友だちの家、通ったプールに、母ちゃんにねだった懐かしい焼き鳥の味を思い出す。

 これでもかと随所に散りばめられた故郷のアイテムに、そこに暮らす市井の息遣いが新鮮だ。

 「まちがったことをしたらすげぇこわい、はんぱない」 彫師小暮源三を指して、暴走族あがりの哲が言う。

 「元気、やる気、その気。元気があって、やる気があれば、人間こわいものはない。その気になって本気を出せば、鬼に金棒…。」

 読んでいると本当に元気になる作品である。書けない言い訳を唱え、なよる背を押してくれる。

 源三の葬式の日、三社様に霊柩車をつけると、本社神輿が弔ってくれる。このシーンには思わず一緒になって拝んだ後、心のなかで拍手喝采してしまった。

 明日には皐月である。その三社様が下町人の肩にお乗りになって、町を練り歩く。

 お神輿と縁起を担いで、同人のお祝い会に司会として馳せ参じつもりだ。

 今井福子はまったく鯔背(イナセ)でござる。

  
          「止まったままの時計」
        著:今井福子 画:小林葉子
      文研出版 2005年8月20日初刊

 親友の自殺から始まる骨太のテーマに驚いた。

 あとがきで、作者自身が語っている。四番目の姉は戦争がなければ救えた命だったと。

 昭和19年、わずか三歳で亡くなったお姉さんは、軍歌を歌い、死ぬ直前に「天皇陛下ばんじゃい」と叫んだという。

 なんとも切ない話ではないか。

 親友大夢、通称タイムはなぜ自ら死を選んだのか。なぜ何も相談してくれなかったのか。

 翔も、帆乃香も許せないと思い、死をまっすぐに受け入れなかった。

 悲しい出来事や苦労が重なり、未だに戦時中に生きているひいおばあちゃん、アサさん。

 近所の子供たちのため、庶民価格でもんじゃを作るサナエおばあちゃん。娘として認めてもらえない辛さは幾ばくだろう。 

 病室の一室で、タイムスリップした翔と帆乃香は、それぞれツヨシとサナエになる。

 にわかに元気になるアサさんに涙を憶える。

 亡くなった後に渡された手紙は、アサさんからサナエに宛てたもの。娘はピンク色が好きだと覚えてくれていた。そのアサさんを慕う、サナエおばあちゃんの気持ちがやるせない。

 もしかしたら、タイムは翔に相談しなかったんじゃない。SOSのサインを出していたかもしれない。 見逃していたかもしれない。

 それらを抱えて、心を開こう、前に向こうと話す翔に希望を見た。

 ひとは生まれた瞬間から死に向かっている。これはどんな生き物でもおなじ。

 だからこそ、尊い命を精一杯生きなきゃ損だ。

 真の孤独を理解し、人との関わりなしに生きられない人としての業を受け入れる。

 その覚悟ができたら、まさに鬼に金棒だ。 

 今井福子の込めたメッセージに、シャンと背筋が伸びた。 


 「一刀に打ち込む魂さつき空」 海光
 
 
 
 週末、中野であった春の研究会。

 同人たちと集い、あさの代表に喝を入れられた。

 過去の作品にとらわれることなく、常に先を見つめる目を持ち続ける。

 その真摯と緊迫に痺れた。

 同人それぞれに感じたものがあったと思う。

 リアルに厳しい荒波の大海をゆく代表だからこその気合いが、カラダ中の細胞という細胞に染み渡る。

 

 源三が叱る。

 「心だ、心。この作品には、いちばん大切な心が入っちゃいねぇ。」

 一刀入魂。

 今井福子は同人のなかにあって浅草の粋を体現する先輩である。

 わが町の気っ風をここまで詳細に表現できた偉業に、感嘆とともに感謝申し上げたい。

 おいらも浅草生まれの物書きとして、しっかりとこの土地を描いていきたい。

 差し詰め、一筆入魂を肝に銘じ、新作に邁進したいものである