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18.9.19 平成7年2月22日東京地裁判決

2006-09-19 15:34:51 | Weblog
平成7年2月22日東京地裁判決・平成6年(ワ)6280
商標権 民事訴訟事件 「UNDER THE SUN」事件

事案の概要
 本件は、原告が被告に対して、被告が、業として製造、販売している商品であるCD(シンガーソングライターである【A】の楽曲を収録したコンパクト・ディスク。以下「本件CD」という。)について、別紙目録記載の「UNDER THE SUN」という標章(以下「被告標章」という。)を付する行為が、原告の後記の登録商標に類似する商標の使用であり、原告の商標権を侵害する(商標法三七条一号、以下同法の条文の引用は単に条文のみで表示する。)と主張して、被告が平成五年九月一五日ころから平成六年二月末日までの間に被告標章を付して製造販売した本件CD四〇万枚について、通常受けるべき使用料相当額の一億〇四八六万八〇〇〇円の損害賠償と不法行為後の民法所定の遅延損害金の支払を求める事案である。

争点に対する判断
一 商標法は、二条一項において、「商標」とは、「文字、図形若しくは記号若しくはこれらの給合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)」であって、「業として商品を生産し、証明し、譲渡する者がその商品について使用するもの」(一号。なお、役務について使用する商標については、内容が重複するため、以下省略する。)をいうと規定し、この規定を前提として、三条一項において、「その商品・・・の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(一号)、「その商品・・・について慣用されている商標」(二号)、「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品・・・であることを認識することができない商標」(六号)を除いて商標登録を受けることができる旨規定している。右によれば、商標法は、立法の仕方として、「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができ」るか否かにかかわらず、業として商品を生産し、証明し、譲渡する者がその商品について使用する標章をすべて形式的に商標法上の「商標」として定義しているものと解される。
 しかし、形式的な意味での「商標」を除いて、本来的な意味での商標について考えてみると、その本質は、「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができ」るようにして、自己の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別するための標識として機能することにあるというべきである。
 このことは、一条が「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」と規定しており、三条一項が、前記の一号、二号及び六号の商標並びに「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(三号)、「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(四号)及び「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」(五号)を除いて商標登録を受けることができる旨、また二項において「前項第三号から第五号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる」旨規定し、右の出所表示機能、自他商品識別機能を有する商標についてのみ商標登録を受けることができることを認めた上で、二五条で「商標権者は、指定商品・・・について、登録商標の使用をする権利を専有する」と規定し、もって、形式的な意味での商標でなく、出所表示機能、自他商品識別機能を有する商標のみをその本質を備えた本来的な意味での商標と認めて、これを権利として保護していると認められることから明らかである。
 以上によると、三六条が右二五条の登録商標の使用権を侵害する行為、すなわち指定商品について登録商標を使用する行為の差止めを規定し、三七条が指定商品についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品に類似する商品についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用について、商標権を侵害するものとみなす旨規定しているのは、商標権者以外の第三者が、登録商標と同一又は類似の商標を、指定商品又はこれに類似する商品に使用することにより、その商品の出所を表示して自他商品を識別する標識としての機能を果たし、もって、商品の出所の混同を生ずるおそれが生じ、商標権者の登録商標の本質的機能の発揮が妨げられるという結果を生じることによるものであるというべきである。
 また、二六条一項二号は、登録要件を定める三条一項一号及び三号の規定に沿って、「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期・・・を普通に用いられる方法で表示する商標」について商標権の効力が及ばない旨を規定しているが、右規定は、第三者が登録商標と同一又は類似の商標を使用しても、その商標が商品に表示されている態様からみて、その商標が、商品の普通名称や産地、品質等を表示するものにすぎず、商標の本質的な機能である出所表示機能、自他商品識別機能を果たしていないと認められる商標について、商標権の禁止権の効力が及ばない旨を定めたものであると解すべきである。
 したがって、以上の三六条、三七条及び二六条の法意に照せば、第三者が登録商標と同一又は類似の商標を指定商品又はこれに類似する商品について使用している場合でも、それが、その商品の出所を表示し自他商品を識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されていると認められる場合には、登録商標の本質的機能は何ら妨げられていないのであるから、商標権を侵害するものとは認めることはできない。
 すなわち、二六条一項二号の「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標」に該当しない商標についても、出所表示機能、自他商品識別機能を有しない態様で使用されていると認められる商標については、右に述べた理由により、商標権の禁止権の効力を及ぼすのは相当ではない。

二 被告標章が出所表示機能、自他商品識別機能を有しない態様で本件CDに使用されているかどうかについて判断する。
1 後掲括弧内の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(省略)
2 以上によれば、被告標章並びにフォーライフ商標及び被告の社名の具体的な表記の態様をみると、被告標章は、前記認定のアルバムタイトルの一般的な表記の態様と何ら異なることはなく、また、フォーライフ商標及び被告の社名も、前記認定のアルバムにおける製造、発売元の一般的な表記の態様と何ら異なることはないのであり、したがって、本件CDに表示されている被告標章は、専ら本件CDに収録されている全一一曲の集合体すなわち編集著作物である本件アルバムに対して付けられた題号(アルバムタイトル)であると認められ、本件CDの需要者としても、被告標章を、専ら本件CDの内容である複数の収録曲の集合体すなわち編集著作物である本件アルバムについて付けられた題号(アルバムタイトル)であると認識し、有体物である本件CDを製造、販売している主体である被告を表示するのは、アルバムタイトルとは別に本件CDに付されているフォーライフ商標や被告の社名であると認識することは明らかである。
 よって、本件CDに使用されている被告標章は、編集著作物である本件アルバムに収録されている複数の音楽の集合体を表示するものにすぎず、有体物である本件CDの出所たる製造、発売元を表示するものではなく、自己の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されているものと認められる。
 なお、原告は、CD商品のタイトルは、収録された音楽情報を視覚的イメージに変えて瞬時に訴え、他の商品との識別をもたらす機能を有している旨主張するが、アルバムタイトルである被告標章が、本件CDに収録されている音楽情報を表示する機能を有しているとしても、本件CDの製造、発売元を表示する機能を有していないものであることは、右に認定したところから明らかであり、さらに、アルバムタイトルについては、その媒体たる商品を発売するレコード会社が変わった場合でも、収録曲の集合体が同一である限りそのタイトルが変更されずに使用される実例が多数存在しているとの前記認定事実等からも確認されるところである。
 また、原告の右以外の前記各主張も、以上に述べたところにより、いずれも採用することはできない。
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