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キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

12人の怒れる男

2010-05-27 | 映画(さ行)

■「12人の怒れる男/12」(2007年・ロシア)

●2007年ヴェネツィア映画祭 特別獅子賞

監督=ニキータ・ミハルコフ
主演=セルゲイ・マコヴェツキー ニキータ・ミハルコフ セルゲイ・ガルマッシュ

 近頃は政治活動にも熱心なニキータ・ミハルコフ監督が、シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」を現代ロシアに置き換えてリメイクした作品。オリジナルのルメット監督作は何度も繰り返し観た映画だった。人が人を裁く難しさも描きながらも、陪審員制度を肯定的に描いてこれが民主主義だと訴えるような内容に感動したものだ。ミハルコフ監督はリメイクにあたり現代ロシアが抱える問題を織り込んだ。チェチェン紛争、民族間の差別意識、国家体制の変化、共産主義と民主主義、都市開発による問題、麻薬・・・。ニュースなどで時折聞くキーワードが散りばめられている。僕はミハルコフ監督初期の作品「オブローモフの生涯より」が大好き。マイペースで生きていく主人公を実に魅力的に撮っていた名作だった。あれから30年が経ち、巨匠と呼ばれるまでになったミハルコフ監督は、独特のユーモアも交えながら深刻なテーマを掘り下げていく。

 オリジナルが90分の密室劇で評決に至るまでの話し合いを密に描いていたのに対して、本作は2時間40分。確かに長尺なのだが12人の陪審員それぞれの人生が語られて飽きさせることはない。ただ事件の審理という本筋からしばしば逸脱するだけに、そこを冗長に感ずる人はあるだろう。だがそれがあるからそれぞれの意見の裏側に人生を感じさせ、物語を深くしているのも事実。また、オリジナルにはみられないのが被告人の少年のたどってきた過去が描かれているところ。チェチェンの現実。ロシアとの因縁の深さ。ニュースだけではわからない市民レベルでの偏見の深刻さを垣間見ることができる。映画で知る異国の現実。

※以下結末に触れています・未見の方はご注意を
 そしてこの映画の最大のみどころは結末にある。全員が無罪の評決になる・・・めでたしめでたしと思いきや、有罪にすべきという意見が出てくるところだ。それは無実の少年を無罪放免して生きていくのも厳しい現実にさらすのか、有罪にして刑務所におき真犯人にも狙われず生きていけるようにするのか。その葛藤が描かれるのだ。
「いつもみんなで話し合って終わりだ。それが法の裁きなのか。」
とミハルコフ監督は陪審員制度に疑問を投げかける。それは民主主義万歳なオリジナルから考えると驚くべき結末。映画は最後に法よりも強いのは慈悲の心という言葉で締めくくられる。今の世界に忘れ去られている寛容さ、本当の解決のために必要なこと、それを考えさせてくれる160分だ。十分に見応えを感じる力作。ところで、ラストシーンは黒澤明を意識してるのかな、やっぱり。



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