羽を休める鳥のように

きっとまた訪れる薄紫の夕暮れを待ちながら

蜜柑

2012年10月15日 | Weblog
母の部屋へ顔をだすと「あらっ」と驚きと喜びの笑顔を見せてくれることが
多くなった。うれしい。
「あら、ビックリしたわ~、急にくるんだもの」と必ず穏やかに可愛い表情を見せる。
わたしがムスメであることもちゃんとわかっている。
(混乱時は危うかった)

話をしてくれるのは女学生の頃の思い出と福島の故郷で育った七人兄弟の名前など。
だいたいいつも同じ話がくりかえされる。
なかでも聞くたびに胸に響くのは若くして自死を選んでしまったすぐ下の弟の話。
農協に勤めていたこと、カルモチンで山でたった一人で死んでしまったこと。
かわいがっていた大好きな弟だったけれど気が弱かったこと。

なかでもジーンとするのは母がお嫁に行くため上京するとき、
列車の窓から見ると弟が田んぼに立って「姉ちゃーん」と手をふっていた話である。
このエピソードは母の身振りが添えられるので何とも切ない情景として心に残る。

何だか芥川龍之介の「蜜柑」を思い出す。

家にいるときも聞いた覚えがあるけれど家にいるときは余裕がなくて、
ほんとうにじっくり母の話に耳を傾けることがなかった。
「じゃーね」と手を振って(ときには握手をして)母と短いサヨナラをする、なんていう事も
なかった。
ホームで暮らし始めてわたしたちはようやく微笑みながら会話をしたり挨拶したり
できるようになった。
気候もよくなったので車椅子で散歩に行くこともできる。
ここでの暮らしに慣れてきたようなので友人の助言通りいったん自宅に戻ることも
考えている。
「お母さんの部屋ね、いつでも帰れるようにしてあるよ、体調良くなったら帰ろうね。」と
話すと「そうなの、ありがとう」と安心したような柔らかい表情がみえる。

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2 コメント

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こんばんわ ()
2012-10-16 23:14:46
良い時間を過ごされましたね。

ゆっく~り歩いて行けば良いですね。

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こんばんは (すみれこ)
2012-10-17 22:49:05
雫さん、ありがとうございます。

はい、母は落ち着いてきたので良かったです。
今でも「これでよかったのか?」と自問することは
何度もありますがゆっくり支えて支えられていきたいです。
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