(前回からの続き)
日本のキャッシュレス決済比率(18.4%:2015年)が韓国や中国、アメリカなどと比べて低い理由のひとつに、これら各国と違って日本には「電子マネー」が多いことが指摘できるそうです。経産省の「キャッシュレス・ビジョン」によると、日本人は平均で7.7枚のカードを保有していて、これはクレジット大国の韓国(5枚)やアメリカ(4枚)を上回り、シンガポールに次いで大きな値とのこと。その中身はおおむねクレカ2枚、デビット3枚、電子マネー3枚となっています。
このように、わたしたちは財布の中に多様なカードを持っているので、単純に想像すると日本のキャッシュレス化は進みそうな気がしますが、必ずしもそうではなく、逆にこれがその比率を高めない原因にもなっているとのこと。つまり、A社が発行する電子マネーがB社のお店やC社のサービスでは使えないといったケースが多くなるため、必然的にその活用が制限されてしまうというわけです。このあたり、A社としては当然、A電子マネーを持っているお客にはA社のお店で買い物をしてもらいたいから、同業他社のB社では使えるようにはしないし、B社だってそうでしょう。これらの結果、A、B、Cごとに電子マネーが生まれ、その使用可能領域もA社グループ、B社グループなどといったように分かれてしまい、結局、わたしたちは少額の現金がチャージされた個別カードを何枚も持つことになる、といった次第みたいです。
「このあたり、ABCの区分に関係なく、もっと広く使える電子マネーが流通すればいいのに」たしかにそう思えます。そのほうが便利かもしれないな、という気もします。ですが個人的には、わが国のこの電子マネー乱立状態は、それだけ経済にダイナミズムが息づいていることの証だとポジティブに捉えています。つまり、どこかが良いものを出したら、では負けずにウチも!という起業家精神がこの分野にも働いているということ。それぞれのキャッシュレスの枠組みは、少しでも顧客の支持を得ようと切磋琢磨して進化していくから、結果として消費者は安くて高品質な決済サービスを享受できる、というわけです。であれば、手持ちのカードが多いことはキャッシュレス進展の支障にはなり得ないし、AカードホルダーがB社のお店で買い物をするときは、共通の決済手段すなわち「現金」で支払いを済ませればよいはずです。前述した理由から、この国は(おそらく世界一)現金の取り扱いにストレスがないのですからね・・・
以上などにより、日本ではキャッシュレス決済の比率が低位にとどまっているものの、それを「遅れている」とネガティブに捉える必要はないと思っています。むしろ最近は現金決済の重要性やありがたさに気づかされる事象も多く起こっています。そのひとつが天災。今年9月の北海道胆振東部地震にともなう大規模停電によって、キャッシュレス決済の多くが機能不全になったのは記憶に新しいところ。これを含め、日本では地震や台風などの自然災害が多く、したがってこれらに脆弱な電子ネットワークに決済の多くを依存するのはリスクが大きいと思われます。次に、システムトラブル。先般の大手携帯電話会社の通信障害がその典型例です。これが起きてしまうと、いくら多額の決済ができるとしても、それを実行すべき肝心のスマホやシステムが働かなければどうしようもない、といったことです。
逆にいえば、こうしたトラブル等(天災のように予期せぬもの、そして誰かの悪意によって引き起こされるものを含む)の発生時にも現金であれば決済が可能であるわけで、その意味でも現金決済はこの種のリスクに強く、だからこそ現金の使い勝手が良い日本は「進んでいる」という見方もできると考えています。