Straphangers’ Room2022

旧Straphangers' Eyeや習志野原の掲示板の管理人の書きなぐりです

ライトラインを見る(後編)

2023-09-27 20:54:45 | 交通
さて快調な出だしのようですが、その理由の一つは「ダンピング」でしょう。
全区間400円、ゆいの杜からで350円という運賃水準は、ベルモールや宇都宮駅周辺に出る際の抵抗感も少ない水準です。往復1000円未満ですから。駅西へのバス代を入れても1100~1200円です。(余談ですが追越駅となる平石とグリーンスタジアム前は乗り換えを想定したのか下車しても同一方向だと運賃は通算されますね。どのくらいの時間まで許容されるかは不明ですが。

一方これまでのバスは700円前後、要は倍近かったわけで、駅西への直通を踏まえても割高です。手近なロードサイドも多く、そこで済ませてしまうのでしょうし。ただそのダンピングの原資は事実上税金ですから、利用を増やして回収して税金負担を減らそうとすると、輸送力不足がさらに加速、と難題です。

そして避けては通れない公共の負担部分がどうなのか。建設費がその太宗ですが、新設軌道だけあってかなりリッチな仕様です。鬼怒川越えの区間に加え、平石とゆいの杜にある併用軌道と専用軌道の間の出入りが立体交差になっているなど設備投資もかなり太いです。他都市のように信号制御でないのを見ると、やはりバス専用道ではいけなかったのか、という思いはぬぐえません。上記の「ダンピング」とあわせて公共の負担はどれだけになるのか。

もちろん公共交通に完全な独算制は求め得ませんが、歳入は無限ではなく一定であり、そこから交通だけでなく社会保障、福祉、教育、公共インフラとあらゆるジャンルへの歳出が求められていますし、どれも必要性が高いです。ですから交通への支出が適切なのかどうか。湯水のようにつぎ込めばそりゃ良いもの、満足度の高いものが出来ますが、他のジャンルを犠牲にしてまで完璧を求めていいのか。他のジャンルを充足するために「そこそこ」で妥協する必要もあるのです。

さて、軌道優先の信号などのおかげでスムーズに進める反面、電車優先で道路側を全方向停止にしてしまう運用が清原地区で見られます。センターリザベーションの宿命で歩道から横断歩道でアクセスしないといけないのに、早い段階から横断歩道も赤信号になるので、渡れません。道路側が解除されるのは電車が電停を発車してからであり、そこまで道路交通を抑止するというのもおかしいでしょう。今後の増発時に大変なことになります。サイドリザベーションの区間でも横断する通りの前後に上下電停が振り分けられているケースでは、必ず横断が必要ですから。

これに絡んで、トランジットセンターでの乗り継ぎにも影響するわけで、芳賀町工業団地管理センターのほうは横断歩道を2回通過となるので、結構時間を食います。バスとの接続はそれを踏まえているのでしょうか。バスをトランジットセンター内に入れるのは便利なように見えて、構内の取り回しに時間を喰うのも問題です。

あとは車両にも問題点が。車内で目立つモニターには次の停留所などの案内は出ません。広告だけです。これは不便です。
またユニバーサルデザイン対応は当然と思いきや、これがダメダメです。
前後の運転台直後がフリースペースとしていますが、ここは乗降に使うスペースです。また中間車に1ヶ所フリースペースがありますが、下り方を向いて左側のドアの対面のみです。ですから相対式が多い同線においては上り電車だとここへ車椅子やベビーカーがアクセスするのは困難です。

実際家族連れで試乗、というケースが多かった休日、ベビーカーや車椅子が複数台乗車して運転台直後の出入り口を塞ぐとか、乗れずに見送るとか、けっこう弊害が出ていました。ドアを左右対称に設けてその直後に片側でいいからフリースペースを置くのがベストですが、それをするとただでさえ少ない座席定員がさらに減りますし、バスの座席定員を割り込んでしまいLRTにする意味が大きく損なわれます。また座席部が微妙に通路より上がっており、座席を撤去したとしても車椅子などのスペースにするには段差が発生するので、安直な座席撤去も簡単には出来ないのが現状です。そうそう、車両に関して言えば目立つところにモニターはありますが流すのは広告で、次の停留所などの案内は流れません。どうせ通勤客が太宗という割り切りなんでしょうが。

このあたりはLRTでなんとか成立させようとして、座席定員をユニバーサルデザインに優先したきらいが強いですね。こうした姑息な手法は、専用軌道における本来は新設不可能なはずの「踏切」が存在することにも表れており、そこだけ併用軌道としてクリアしているため、警報機や遮断機が置けず、点滅する注意標識という安全面でも非常に中途半端な(イレギュラーな)設備になっています。

併用軌道も実質片側1車線としているのみならず、電停設備が張り出すため、道路側では駐停車が全くできない幅員になっている箇所があります。人の乗降や引っ越しその他での貨物の積み下ろしとか、全く対応できません。このあたりはクルマの停車を否定する軌道系至上主義者が多いですが、マグロのように泳ぎ続けるのではなく、止まるのが前提ということが分かっていないだけであり、交通というツールではなく、電車ごっこを目的化した格好です。

今回は休日の午前中に試乗したのですが、昼前には収拾がつかない状態になっており、早めか遅めにするしかないでしょうね。試乗どころか乗れるかも怪しい状況です。平日の様子も見てみたいのですが、いつになることやら。偶然担当が変わったことで宇都宮への出張が実現しそうなんですが、朝の様子をきちんと見たら仕事に間に合わないわけで、なかなか難しいです。



ライトラインを見る(前編)

2023-09-27 20:53:14 | 交通
宇都宮のライトラインが開業しました。第二次大戦敗戦から間もない1948年に開業した富山地鉄高岡軌道線(のちの加越能鉄道、今の万葉線)以来75年ぶりに新しい都市で開業した新規軌道線です。まあクルマ社会の宇都宮で需要あるの?という人も多いでしょうが、クルマ社会ゆえの悩みへの対応という面もあっての開業です。

宇都宮で路面電車を作るなら、JR駅と東武駅の間の大通り、というのが普通の考えですが、ある意味場末の東口から鬼怒川を越えて清原、そして芳賀町に入って工業団地へ、という区間から開業したのは、工業団地への流動が目的という大義名分があるからです。専用軌道のみならず、鬼怒川に専用橋梁を架けてまで大どころの工業団地を縫って進み、最後は一大需要者であるホンダの事業所前が終点とある意味分かりやすい路線です。

開業景気というか試乗ブームが続いており、普段着の姿になるまでには時間がかかりそうですが、一方で問題も見えてきています。幸い「輸送力不足」側の問題であり、今回は暫定開業で本格開業を控えているので、そこで改善される事象もあるでしょうから、まずそれを待つ必要があります。

「輸送力不足」という意味では、LRTという交通モード自体が実はキャパが小さく、汎用性もないことからバスの輸送力にも実際及ばないわけで、足元の状況はバスを再編してLRTだけにしたことも問題を加速させている格好です。
その意味では「日本初の本格LRT」のタイトルに酔ってしまい、あらゆる規格、スペックが不足気味というのも問題であり、日本初の信用乗車(ICカードのみ)という話も、車内で移動というのが困難という状況を早いうちに見つけたからでしょう。

LRTということで最高速度もHRTのように100㎞という感じにはいきません。暫定開業では安全を見ての40㎞ということもあり安定感ある快適な走りですが、速度を向上したらLRVがスピードを上げる福井鉄道やえちぜん鉄道のように飛び跳ねるリスクはあります。もちろん新規開業で軌道敷きも新しいですが、後述する理由もあってコンクリート舗装された併用軌道区間が想像以上に長かったです。

速達性をカバーすべく平石とグリーンスタジアム前で追い越しが可能という路面電車では前代未聞のスペックですが、ややもすると小一時間かかる普通便は速度を上げても40分台と遅いです。急行運転で短縮したとしても、追い抜いた瞬間に抜かれる列車は「戦力外」になるわけで、最大の需要区間が全線通しという特殊な利用形態ゆえに、急行運転の続行で有効列車を増やすしかないようです。あるいはオール各停とするかです。

実際に平日朝は早くも「積み残し」が発生しているようで、定刻で48分という全線を立って過ごすというのはさすがに嫌われるようで、次発待ちも目立っているようです。その意味ではバスの3倍という編成定員が喧伝されていますが、着席定員比では同レベルであり、自家用車も含めて座っての通勤が出来なくなることは大きな問題です。それこそ宇都宮駅から30~40分程度でややもすれば立つしかない(とくに復路は途中から座れないでしょう)、という通勤条件の工業団地の求人が応募を集めるかどうか。

これは暫定ダイヤだけと信じたいですが、宇都宮駅東口発は6時半から8時半にかけてがピークで平均8分間隔といったところ。終点の芳賀・高根沢工業団地で見ると、7時半前から9時15分頃となるわけで、就業時間帯がどうなのかが見えませんが、一般的な事業所であれば8時から8時半の始業ですから、電停に着いて構内に入り、着替えて現場入りする、という時間を考えると、8時始業であれば6時台に乗らないと話になりません。というか事務職の標準的な始業である9時を考えても朝ピーク時の1/4は戦力外になるわけですが。

逆に退勤時のダイヤを見ると、芳賀・高根沢工業団地発で17時台中盤から18時台とピーク時が短くなっています。
これ、17時から18時には終業という前提でないと厳しいわけで、現場でも軽い残業はあるでしょうし、事務職だとさらにあり得る話で、手薄に感じます。特に18時台終盤から平石止め(入庫)が1本おきに入り、19時台は実質20分ヘッドですから。
イメージ的に一般的な就労時間に対してピークの設定が1時間短い労働時間で成立する感じです。ホンダが1日の就労時間を短くしている(休日は少ない)といった変則的な勤務体系ならわかりますが。またホンダが採用しているかは不明ですが、交替勤務への対応はほとんどない感じです。深夜勤に入る時のみクルマで通勤、なんて対応なんでしょうかね。

聞こえてくる現状を踏まえると、全区間を乗り通すホンダの需要を分離しないと他の事業所から苦情が出るでしょう。
優等列車というよりも抜かないが無停車、という「ホンダライナー」的な存在が必要です。こうしてみると輸送力不足の側に振っている感じですが、一方で増発余力はあるのか。なんかポーアイ二期の事業所需要でパンクしたポートライナーのように、バスで相当数をフォローする、という事態になりかねません。あるいは全廃したはずのホンダの企業バスの復活も迫られるかもしれません。通勤輸送以外に出張者や顧客、ベンダーの訪問もあるわけで、小一時間立ってきてください、となるのはどうでしょうか。

土休日も結構難物で、ベルモールの需要が結構ありますね。試乗がてらベルモールという需要が大勢でしょうが、定着を目指すべきところ、定着したら輸送力不足が迫ります。意外と堅調に見えたのはゆいの杜で、ヲタや家族連れの試乗と違い、試乗でしょうが住民が使ってみました、という感じの利用が目立ちました。