教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

目次詳細(道徳教育の理解を深める 第10~13章)『教育の理論④道徳教育の理論と方法―道徳を考え議論するために』

2023年02月24日 21時08分00秒 | 目 次
 続いて、テキスト第4巻の第2部では、道徳教育の現代的課題を取り上げて、道徳教育の理解を深めようとしています。現代的課題といってもいろいろありますが、本巻では「生命尊重」、「ルール」、「いじめ」、「情報モラル」の4つをテーマに考察しました。
 第10章では、生命尊重の精神をどう育てるかについて、命と食の2つに関わる道徳教育関係の実践を通して考察しました。資料にしたのは、実践記録『豚のPちゃんと32人の奨学生』(ミネルヴァ書房、2003年)としてまとめられ、映画『ブタのいた教室」(妻夫木聡主演、日活、2008年)にもなった、黒田恭史氏(元小学校教員)の実践です。黒田実践は、1990年度から92年度に大阪府豊能町立東能勢小学校で行われ、鳥山敏子氏のいのちの授業実践の影響を受けて「ブタを育てて食べる」ことを目指しました。まさに命と食にまたがる教育の在り方を考えさせる題材となっています。この章では、黒田実践のあらましと、その計画・展開段階に関する論点を整理した後、かなり踏み込んだ批判的考察を行いました。ペット/家畜問題など、黒田実践について踏み込んだ批判を行い、生命尊重の教育を行う上で本質的に気を付けるべきことを明らかにしようとしました。
 第11章では、ルール指導について、ルールを守ることだけでなく、見直したりつくったりすることも見据えた教育について考察しました。松下良平氏のルール概念「共同体道徳/市場モラル」をもちいて、ルールの問題が人間観にも通底していることを確認しながら、ルールの見直しやルール作りの実践の必要性を明らかにしようとしました。
 第12章では、いじめ問題について、防止対策としての道徳教育の可能性に注目しながら考察しました。まず、いじめ防止対策推進法の重要性や実践に与える影響を確認した上で、「いじめ」の仕組みを様々に考察しました。その上で、いじめに教師がどう向き合うべきか、よって立つべき立場を3つの観点から明らかにしました。1つ目は「いじめられる者にも原因がある」という考え方をもっていじめ問題に向き合わないこと、2つ目は発達のつまずき、3つ目は教師によるいじめの助長という観点です。「いじめられる者にも原因がある」という考え方はよくある常識的な考え方ですが、ここでは、教師がこの考え方をもつことでいじめ問題にきちんと向き合えなくなることを問題視しています。教師という特殊な立場に立った視点設定になっています。また、発達のつまずき、とくに第6章で問題にしたコミュニケーション能力・認知能力と道徳性の発達のアンバランスなどに注目したのは、いじめっ子や観客・傍観者たちを教育(更生)していく上で重要であろうと思ったからです。教師によるいじめの助長という観点は、いじめ防止には教師自身の問題に気づく必要があること、そして教師の学級経営に目を向ける必要があることなどをきっかけにしています。
 第13章では、情報モラル教育について考察しました。国立教育政策研究所の2領域5分野に注目したのは、情報社会形成への貢献という教育分野を明確にとっているからです。身を守る教育や、マナー教育だけでは情報モラル教育として不十分です。また、情報モラルを過度に特別視するのではなく、日常の人間関係上の道徳と結びつけて取り扱う必要についても考えるために、ケースメソッドをちょっと取り入れました。
 結章は、第1部・第2部の内容を、目的と方法で整理してまとめました。
 
 これまでのKindleテキスト「教育の理論」シリーズ第1~3巻も同様ですが、第4巻の内容は、私の十数年間の大学における教員養成の実践を総まとめしたものが土台になっています。今後も必要に応じて更新しながら、新しい実践を生み出していきたいと思います。本シリーズが今後の教員養成と教育をさらに推進する一助になれば幸甚です。

 
 白石崇人『教育の理論④道徳教育の理論と方法―道徳を考え議論するために』Kindle、2022年。

 第2部 道徳教育の理解を深める
第10章 生命尊重の精神をどのように育てるか? ―命と食に関する教材・活動
 1.生命尊重の精神を育てようとした実践例
 (1)豚を飼う教育のはじまり
 (2)豚を飼ってどうするか
 (3)子どもたちの結論
 (4)黒田実践の結末
 2.黒田実践から何を学ぶか
 (1)計画段階について残された問題
 (2)展開過程について残された問題
 (3)黒田実践・「ブタのいた教室」再考
第11章 ルールを指導するには? ―守る、見直す、つくる
 1.ルールの存在意義
 2.ルールの種類
 (1)「共同体道徳」としてのルール
 (2)「市場モラル」としてのルール
 (3)ルールの根源にある人間観
 3.ルールを「見直す」「つくる」
第12章 いじめを防止するには?
 1.いじめの定義
 (1)「いじめ」の問題化といじめ防止対策推進法
 (2)いじめの構造
 2.いじめにどう向き合うか?
 (1)「いじめられる者にも原因がある」という主張にどう向き合うか?
 (2)発達のつまずきという観点
 (3)いじめと教師
第13章 情報モラルをどのように育てるか?
 1.情報モラル教育の基本
 (1)情報モラルとは?
 (2)情報モラル教育の2領域5分野
 2.情報モラル教育についてケースを通して考える
 結 章
 1.道徳教育は何を目指すか?
 2.道徳教育は何をどう教えるか?
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目次詳細(道徳科指導案編成の基本 第5~9章)『教育の理論④道徳教育の理論と方法―道徳を考え議論するために』

2023年02月22日 23時55分55秒 | 目 次
 長い間が空きましたが、テキスト第4巻の紹介を進めます。
 テキスト第4巻第1部は「道徳教育の基本」について解説しています。第1部の前半で基本的方向性に関する学校道徳教育の目的や歴史をおさえ、後半では道徳科授業の内容・方法に関する基本的事項をおさえるように構成しています。

 具体的には、第5~9章では、道徳科授業のつくり方を順次解説しました。第5章では、学校の教育活動全体を通した道徳教育の中の道徳科授業、という考え方を示しています。1時間の道徳科授業の指導案を編成することを想定しているので、先に授業の主題設定の基本的方法を解説していますが、主題設定には、取り扱う道徳的価値そのものを体系的に理解し、年間指導計画や単元(ここでは一定の目標・内容に基づく教育活動のまとまりを単元と呼んでいます)のなかの1時間として計画することに留意できるように解説しています。
 第6章では、児童・生徒理解(児童観・生徒観)から出発する道徳科授業を目指して、児童期・青年期初期(思春期)における道徳性の発達をどのように理解し、授業づくりにどのように反映させるかについて解説しています。道徳性の発達については、幼児期からの発達を踏まえて、コミュニケーション能力や認識能力の発達との関連から考察しているのが特徴です。道徳性の発達に応じた授業づくりについては、コールバーグのモラルジレンマ授業の理論を基盤にしました。
 第7章では、道徳科授業にかかわる教材研究の視点や方法について考察しています。教材の特性を生かさずにしゃくし定規に定型的な授業しても、考え議論する道徳科授業は実践できません。また、教材なしで日常生活だけを題材にして授業しても、広く深く考え議論することは難しいと考え、章の内容を構成しました。
 第8章では、授業展開をどうやって計画するかについて考察しています。授業段階についてはいろいろな事例がありますが、ここでは最もスタンダードな導入・展開・終結の意味をきちんとおさえて計画できるようにしています。また、道徳科授業の展開を考える上で最も重要なものは児童生徒の活動だと考え、そのための考え方を3つ提示しています。さらに、板書案についても基本的なことを解説し、ノートに写すための板書ではなく児童生徒が考え議論するための板書を目指すことを提示しています。そして、附録として、恐縮ながら私がつくった指導案もつけました(研究用として扱ってください)。第4巻で論じていることを具体的な指導案に落とし込むとこうなる、という例で、あくまで本書の学修を助けるための資料です。
 第9章では、道徳科授業の評価について解説しました。正直言ってまだ結論が出ているとは思えない領域ですが、検討しないわけにはいかないので、最低限これだけはおさえたいというところを説明しています。道徳科評価における最低限の観点として選んだのは、「自律的思考」と「多面的・多角的視点」、「自分自身との関わり」です。なお、私の提案では、「多面的・多角的視点」は「自律的思考」の高次なものとして段階的に関連づけました。

 以上の通り、初学者向けの限界のある内容ですが、テキスト第4巻第1部は、目的から指導案の書き方までを通して道徳教育の理論と方法を考察するように構成しました。初学者はもちろん、新指導要領または2015年の道徳科設置以降の道徳授業の基本を整理しておきたい人にも、ぜひ参考にしていただければ幸甚です。

 
白石崇人『教育の理論④道徳教育の理論と方法―道徳を考え議論するために』Kindle、2022年。

 第1部 道徳教育の基本
第1~4章 [前略]
第5章 学校の教育活動全体の中で道徳教育を計画するには?
 1.主題に基づく学習指導案
 (1)日時・場所・学級に応じた主題設定
 (2)主題設定の基本
 2.価値内容の理解と項目の体系性
 (1)主題と価値内容の理解
 (2)内容項目の体系性
 3.年間指導計画・単元のなかの道徳指導案
第6章 発達に応じた道徳教育とは? ―児童・生徒観に基づく指導を目指して
 1.児童生徒の実態(児童観・生徒観)に基づく指導案
 2.道徳性・社会性の発達段階―幼児・児童期を中心に
 (1)発達とは?
 (2)児童期の道徳性・社会性の発達
 (3)思春期における道徳性・社会性の発達
 3.道徳性発達を支援する授業
 (1)コールバーグの道徳性発達理論
 (2)モラルジレンマ授業
第7章 道徳教育では何をどう教えるか? ―教材・活動観に基づく指導を目指して
 1.道徳科指導案における教材観
 2.道徳教育の教材
 (1)道徳科の教科書
 (2)読み物教材と生活経験に関わる教材
 3.道徳教育の教材研究・開発
 (1)道徳教材は何のためのものか?
 (2)道徳教材の研究ポイント
 (3)教材開発のポイント
 4.教材研究と授業展開
 (1)小学校低学年教材「かぼちゃのつる」を事例として
 (2)小学校中学年教材「大切なものは何ですか」を事例として
第8章 道徳科の授業をどのように展開させるか?
 1.導入・展開・終結
 (1)展開・終結部の布石としての導入部
 (2)考え、議論する段階的な展開部
 (3)教師でなく児童生徒がまとめる終結部
 2.子どもの反応を予想した計画
 (1)台詞集的な教授・学習過程を避ける
 (2)教材を読み、理解を深め、共通理解する
 (3)考察を深めるための話し合い・ワーク
 3.多様な板書
  附 録 道徳科学習指導案(例)
第9章 道徳教育をどう評価するか?
 1.道徳科の評価に関する基本的考え方
 2.道徳科の評価規準の考え方
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目次詳細(学校道徳教育の基礎 第1~4章)『教育の理論④道徳教育の理論と方法―道徳を考え議論するために』

2023年02月06日 22時26分00秒 | 目 次
 久しぶりにKindleテキストの目次紹介です。第4巻の目次紹介が遅れておりました。
 教育の理論第4巻『道徳教育の理論と方法』は、序章・本文2部13章・結章で構成しています。小・中学校における道徳教育の理論と方法をまとめた内容で、「特別の教科 道徳」(道徳科)の指導案を最低限のことを踏まえて編成できるようになることを目指しました。道徳科の指導案を編成するには、そもそも道徳教育が何を目指しているか、現代日本の学校道徳教育の仕組みがどうなっているか(なぜこうなっているか)を知らないといけません。第4巻第1部の第1~4章は、こういう視点から、道徳教育のそもそもを考え、現代日本の学校道徳教育の目標と道徳科独特の位置づけについて整理しています。日本の小中学校における道徳教育の理論・方法は、世界共通・普遍のものではなく、良くも悪くも日本独特の個性的なものです。日本の学校道徳教育の個性について、第1章では「道徳」という言葉から、第2章では現行の学習指導要領やその背景にある法体系における目的・目標規定から、そして第3・4章では明治から平成(令和)までの日本の道徳教育史から探ろうとしています。
 第4巻第1章では、「道」と「徳」の語源と、人間らしさとの関係から道徳教育とは何かを考えます。特に、道徳は行為であり、道徳教育は頭でわかっただけでなく行為まで及ぶ必要があることを指摘しています。第2章では、学校道徳教育の基本的な方向性として欠かせない、学習指導要領と各法令における道徳教育の目的・目標について整理します。ここでは、道徳教育が善悪を教えることではなく道徳性(道徳的な思考力・判断力・実践意欲・態度)を育てるものであることを確認することが大事だと考えています。第3章では、「特別の教科 道徳」(道徳科)がなぜ設置されたか、その設置に至る歴史と、戦前の道徳教育専門の教科「修身科」との比較から考察します。ここでは、道徳科と修身科とが異なるものであり、道徳科は現代的課題に応えるものであることを明らかにします。また、修身科の歴史を「無視」ではなく「歴史」や「教訓」として捉えていけるように道徳教育に携わる教師としての歴史認識を育てようとしています。第4章では、戦前日本の修身科以外の道徳教育の歴史と、道徳科の直接の前身ともいうべき「道徳の時間」の設置とその展開をめぐる歴史を整理しています。ここでは、現代日本の学校道徳教育の基本である「教育活動全体における道徳教育」について、確かな歴史認識を育てることをねらっています。修身科以外の学校道徳教育を含めて日本道徳教育史を捉える認識がなければ、例えば、場合によっては「アメリカに押し付けられたもの」という誤りにも同意しかねませんし、修身科廃止「だけ」で戦前日本を克服したような誤った歴史認識をもつことになりかねません。また、1958年以降数十年間積み重ねられてきた「道徳の時間」の実践を「無視」してしまったり、それらの実践から教訓や課題等を引き取りにくくなったりしてしまいます。現代日本の学校道徳教育は、その原理や歴史をきちんと踏まえることで、しっかり認識できるようになるはずです。

 
白石崇人『教育の理論④道徳教育の理論と方法―道徳を考え議論するために』Kindle、2022年。

序 章 ―道徳授業に向き合うために
 第1部 道徳教育の基本
第1章 道徳とは何か? ―人間らしさと道徳
 1.「道」と「徳」
 (1)規範としての「道」と行為としての「徳」
 (2)人間らしい生き方としての道徳
 2.人間らしさと道徳
第2章 学校の道徳教育は何を目指すか? ―学習指導要領から
 1.学校道徳教育の目標
 (1)学校の教育活動全体における道徳教育の目標
 (2)「特別の教科 道徳」の目標
 2.学校道徳教育の目標の先にあるもの
 (1)道徳性をもった「主体性のある日本人」
 (2)学校教育法・教育基本法の目的、日本国憲法の精神
第3章 「特別の教科道徳」とは? ―成立経緯と戦前修身科から考える
 1.「道徳科」設置のねらい
 (1)「特別の教科 道徳」の新設
 (2)道徳科新設の背景―いじめ問題・規範意識低下対策、「心の教育」
 2.戦前の「修身科」の特徴
 (1)和漢洋の折衷的教材
 (2)徳目主義・人物主義・暗記主義
 (3)子どもの道徳的生活に対する関心の芽生え
 3.「道徳科」と「修身科」
第4章 なぜ「学校の教育活動全体における道徳教育」か? ―戦後日本道徳教育史
 1.修身科だけではなかった戦前日本の道徳教育
 (1)学校管理法・訓練法・訓育法
 (2)修身科以外における道徳教育
 (3)課外活動も含めた道徳教育
 2.社会科から「道徳の時間」の特設へ
 (1)社会科中心の道徳教育の挫折と「道徳の時間」の特設
 (2)道徳教育の目標・内容・方法の模索
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