教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

新型コロナが猛威をふるった年に卒業する皆さんへ

2021年03月20日 17時47分27秒 | Weblog
 本日、本学は学位記授与式(卒業式)でした。感染対策をしての実施、無事終了しました。写真は卒業のゼミ生からいただいたもの。ありがとうございました。ゼミでの議論は毎週刺激的で、素晴らしいゼミ生たちでした。

 今年卒業する学年は、最後の年に新型コロナの影響を受けて、様々な予定変更を受けた学年でした。オンライン授業や行事短縮などの影響を受けて、前人未到の教育環境のなかで生き抜いた学年です。世の中は新型コロナの影響を早く脱したい雰囲気ですが、コロナ後の世界はどうなっていくでしょうか。皆さんはどのように生きていきますか。
 本日の学科卒業式で、うちの学科長が「新型コロナ後は、元に戻るよりも、前よりもよい教育・保育をつくらなければなりません。」という趣旨のことを述べました。本当にその通りです。新型コロナの影響で日本の教育はズタズタにされました。そして、我々は、オンライン学習や行事・部活教育の可能性も限界も身をもって経験し、これまでにない教育のあり方を垣間見ました。もともと日本の教育は現代日本社会の現実に合わなくなっていました。これまでの教育に戻そうとしても、おそらく無理であり、できたとしても困難多くして意義は少ないものとなるでしょう。「前よりもよい教育・保育」とは何か。これからの学校は、これに回答し、形にしていかなければなりません。おそらくその時に必要なのは、己や職場の足元を見つめ直し、過去や他に学び、協働して解決策をまとめ、試行錯誤することです。その時に一番役立つのは、教育を根本的に問い直そうとする教育学的な見方・考え方であるはずです。
 「こんな時代に学生時代を送って卒業しなければならないなんて、損した」と思っている卒業生は少なくないと思います。しかし、皆さんは時代を作っていく世代です。今年度味わった苦しさを力に変えて、前に進んでください。

 元に戻すことではなく、以前よりもよい教育・保育をつくっていこう。これを、この時代に生きる我々の願いとしよう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

職業教育としての「大学における教員養成」

2021年03月12日 19時55分00秒 | 教育研究メモ
 教員養成は、他の職業のものと比べて特殊な原理を多く含むが、一つの職業教育である。職業教育は現実・現在の職業の秩序に向けて準備するだけでは、職業や使用者の論理に従属する受け身の人材を養成することになる。社会のあり方や制度の大きく変わろうとしている現代において、このような職業教育しかもたない職業は持続不可能である。職業の現実についての確かな認識をもち、職業の現実に向き合って、その改善・向上に協力して行動できるような人材を養成することが、今の職業教育の求められる姿勢であろう。
 そうだとすれば、教員養成は、教員の現実についての確かな認識をもち、教員の現実に向き合って、その改善・向上に協力して行動できるような人材を養成することである。これを実現するには、教員養成の現場は、教員の現実である教育現場とつながりながら、一定の距離をとった位置にある必要がある。教員養成が現場の徒弟制ではなく大学において行われることの意義はここにあるし、教員養成が「実習と講義・演習」の往還や、「実務家教員と研究者教員」または「教科教育学者と教育学者、親学問の学者」の協同によって行われることの意義もここにある。教員の仕事には、教育現場でしか学べないことと、教育現場では学べないことがある。現場から距離をとって体系的・研究的に学問することによってはじめて学べることがあり、教員の現実に向き合ってその改善をはかるには、そのような学びを欠かすことはできない。そのような学びが欠けたまま現場に出れば、既存のあり方に順応するしかない。
 もちろん、学問のみでは職業教育にはならない。新しく養成された新卒者が教員の現実を改善していくには、教員の仕事に関する基本的な知識・技能を身につけておく必要がある。基本的な仕事ができない者は、既存の職場のあり方に順応するか、順応すらできずに職場を去るしかないからである。教員養成は、教員の基本的な仕事に関する知識・技能を身につけながら、同時に教員の現実に飲み込まれずに自立して現実に向き合えるような能力と態度を身につけていく必要がある。教員養成は、そういう意味で、職業訓練と学問の往還の課程でなければならないし、実習と大学の往還の仕組みを充実させる必要がある。
 教員養成の現場は、教育現場と一体化しては己の役割を全うすることができない。既存の教員の仕事を学びつつ、教員の現実に協同してしっかりと向き合える力と態度を身につける独自の立場を確立した上で、教育現場と連携・往還する経路を確保することが必要である。そうすることで、学問の場である大学で教員養成(職業教育)を行う「大学における教員養成」が成立する。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする