今年度の成果①について。
拙稿「日本学術会議「教育学参照基準」に基づく教育史教育の役割と課題」は、『教育学研究―広島大学大学院人間社会科学研究科紀要』第5号(広島大学大学院人間社会科学研究科、2024年12月、165~174頁)に掲載されました。
本学大学院人間社会科学研究科紀要の一つ『教育学研究』は、すべてオープンアクセスの論文で構成された紀要です。第5号は38もの論文が掲載されております。もともと4分冊に分かれていた『教育学部紀要』や『教育学研究科紀要』を一つにまとめたタイトルですので、それを一つにまとめるとこれだけの数の論文が集まるのですね。
さて、拙著の内容構成は以下の通りです。
はじめに
1.教育学参照基準の定義する教育学
2.教育学参照基準が求める教育史の役割
(1)教育史教育を通して身に付けるべきことが明らかな素養
(2)教育史教育を通して身に付けることが可能な素養
3.教育学参照基準に基づく教育史教育の方法
4.教育学参照基準に基づく教育史教育の単元構想
おわりに
※恥ずかしながら、校正が十分できなかった箇所があります(特に表1・2の一部)。本文は校正済みですので、表は本文と対応させてご参照いただきますようお願いします。
「教育学参照基準」とは、日本学術会議の心理学・教育学委員会教育学分野の参照基準検討分科会「報告 大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 教育学分野」(2020年8月18日)の略称として本稿で使った言葉です。拙稿は、この基準から教育史教育に関わるものを抽出して、私なりの実践も踏まえながら教育史教育の単元を構想しようとした試みです。ここで抽出した身に付けるべきことが明らかな素養をすべて取り扱えるように、教職コアカリキュラムの「教育の理念並びに教育に関する歴史及び思想」における「教育に関する歴史」の3つの到達目標に準拠した単元(全5回分)を立ててみました。
「教育学参照基準」は、様々な教育学領域の第一人者が集まって作っただけに、現代教育学の基礎的内容をしっかりおさえていて、基礎的な基準としてはよくできていると思います。教育学としての教育史教育については、まずこの基準の求める素養を育てられるように再編成していく必要があります。拙稿で枠組みとその実現に向けたおおよその方策は示せたかなと思うので、次は具体的な教材開発が必要です。教材・教科書づくりですね。これからは、教育史のどんな事実や研究成果が教育学としての教育史教育にふさわしいか、その選択と排列を具体的に考えていかなければなりません。
なお、これからの大学の教育学・教員養成における教育史教育は、教職コアカリキュラムと「教育学参照基準」の二つを踏まえながら計画する必要がありますが、その先にある人間・国民・市民育成や教育学研究者養成にどう接続するかは大きな課題です。「教育学参照基準」の参考資料1にもあったように、教員養成(およびその背後にある国家の要求)と一つの学問分野としての教育学の間には緊張関係が必要です。また、教員養成に限らず、人間・国民・市民育成と教育学の間にも緊張関係があるべきでしょう。教員養成を含む様々な人間の教育と教育学の間に緊張関係があることで、教育と教育学は、ともに高め合うことができます。その緊張関係を前提として教育学教育のカリキュラムを編成していかなければなりません。
私は教育学研究者養成を担う立場にいますので、この課題を形にしていく責任があります。講義・演習はもちろん、ゼミ(広大教育学では「特研」といいます)、卒論、修論、博論のあり方。正規の教育課程はもちろん、研究会や学会、読書会などの課外の課程も含めて、どうしていくべきか考えていきたいと思います。
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