教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

教育・学びをめぐる規範的問いと教育学

2021年02月01日 23時55分00秒 | 教育研究メモ
 何を学ぶべきか。なぜそれを学ぶのか。
 何を教えるべきか。なぜそれを教えるのか。
 この規範的問いは現代日本において無視されがちである。一般的な資質能力やスキル、態度などを習得するための教育内容・教材を選択し、教育課程を編成するときにはこの規範的問いを経ることが必要である。極端なことをいうと、独裁国家のリーダーの演説原稿ですら規範意識を形成する教材になるし、銃や爆弾の使い方ですら自然現象を科学的に理解・処理する能力を習得する教材になるのである。教育や学習においては、その資質能力やスキル、態度のもつ「意味」に注目しなければならない。これは哲学的(人間学的)・規範的・歴史的な問題である。教育課程の編成や教育内容・教材の選択は、哲学的・規範的・歴史的な思考や判断を欠いてはならない。
 資質能力やスキル、態度の習得は学習者が主体的に進め、教育者・教育関係者は間接的にかかわるしかないが、そのための教育課程・教育内容・教材を提供するのは明らかに教育者・教育関係者の役割である。教育に関わる者は、学習者が何を学ぶべきか、それをなぜ学ぶか(何を教えるべきか、それをなぜ教えるか)についての規範的問いを持たなければならない。個人内の学習過程に関わる学習科学の問いだけでは、この規範的問いには届かない。経済成長のための人材育成論の問いだけでは、この規範的問いには十分ではない。人間として、国民・市民として何を学ぶべきか。文化も歴史的失敗も様々に含む過去をもち、なお変化し続けて世界とつながる現在と未来の社会を生きる現代の日本人として何を学ぶべきか。これらを問う姿勢なしに教育に関わっては、専門職として自律的な仕事をすることはできない。また、これらの問いは、教育者はもちろん、人間であり、国民・市民である人々すべてが問うべき問いでもある。すべての人間がこの問いの当事者だからである。
 教育学はこの規範的問いを問う学問である。教育学は、教員養成・教師教育において欠かせない学問であり、人間・国民・市民育成においても欠かせない学問である。
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