教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

これからの教師・保育者の在り方―教師・保育者論結章より

2022年01月24日 19時43分32秒 | 教育研究メモ
 下記は私が「教師・保育者論」および「教師論(中高)」、「教育学入門」で使用している自作テキストの結章です。ここには、今までの10数年間、私のいだいてきた教師観・保育者観および教員・保育者養成観が簡潔に集約されていると、我ながら思いました。しかし、今の私の気持ちは、「これでは足りない」。これからの私はこの文章・論理を超えなければならない。そんな気がしたので、公開しておきます。

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 本書は、様々な角度から教師・保育者の在り方について論じてきた。最後に本書の内容を踏まえて、これからの教師・保育者の在り方についてまとめておきたい。
 学校教員は、日本が国際的な独立を果たす上で必要な国民育成を一斉指導で実現するために誕生し、幼稚園保姆は、母親に代わって子どもの能力・社会性を開発する集団保育をするために誕生した。そのとき、子どもや地域、教材との関係や、単なる「子守」とは違う専門的な立場を新たにつくることが残された課題となって今に至る。
 日本の教師・保育者は、学校・園という制度とのつながりをよりどころとして、子どもとの関係を必ずしも必要とせずに誕生した。しかし、教師・保育者は子どもとの関係の中ではじめて重要な役割を果たす。子どもの成長・自立を目指して一時的に結ばれる教育的関係の中で、教師・保育者は教育愛をもって子どもとコミュニケーションしていく。教師・保育者は、教育愛によって子どもたちの可能性を信じて自らを専門職として成長させ、子どもたちの心身の発達を促し、子どもたちを社会的・文化的生活に導き、子どもたちの愛を目覚めさせることができる。教師・保育者は子どもや社会にそういう意味で奉仕する。子どもやその保護者に教育というサービスを提供するサービス業であるという考え方もあるが、すでにサービス業至上主義はホスピタリティという概念の登場でその足元をゆるがされており、サービス業という位置づけにこだわる必然性は今や存在しない。教師・保育者は、教材を介して知識・技能を身に付ける機会を提供するだけでなく、人間形成のモデルとなり、重要な他者として子どもの主体性を受け止め、養う存在である。AIの発展が著しく、効率的な知識・技能の習得についてはAIによって代替される可能性が今後高くなっていくとすれば、いよいよ教師・保育者の人間形成上の役割は高まってくると見なければならない。今後、教師・保育者は、学習塾やカルチャースクールの講師とは異なる存在として、ますます自立していかなければならないのである。
 教師・保育者が職業的に自立し、専門職として確立するうえで、研究は非常に重要な役割をもっている。専門職であるには、社会に認められなければならない。高度に知的な専門的技術をもち、高い職業意識や倫理観をもつためには、職能団体を強化して組織的な資質向上の体制を整える必要がある。教育技術の修得や質向上のためには、常に教育研究に取り組み、実践とその反省の中で実践的知識と実践的認識を鍛え、思考・判断の枠組みや力量を高めていくことが有効である。2012年に「学び続ける教員像の確立」が求められたが、日本の教師・保育者は今さら改めて言われるまでもなく、明治期からずっと学び続け、研究し続けてきた。今、教師・保育者が学び、研究し続けるには、子どもに向き合う時間に加えて、学び、研究する時間やサポート体制が必要である。近年、長時間労働が慢性的に続き、教師・保育者が学び、研究し続けるための基盤が崩壊している。教師・保育者がいくら使命感と専門性をもって子どもに向き合い、自身の専門性を高めようとしても、よって立つべき足元が崩壊していてはおぼつかない。学び、研究することを阻害する長時間労働問題を解消することが、教師・保育者が専門職となり、子どもたちに質の高い教育・保育を提供するために、今一番必要なことである。
 また、教育学研究と教育研究、本質探究のための研究と職務遂行・改善のための研究とは相互に影響し合っている。教育学者が教育学研究と本質探究の研究をし、教師・保育者が教育研究と職務遂行・改善の研究をするというような、単純な役割分担は実際には役に立たない。教師・保育者が両方の研究を行い、教育学者はそれをサポートし、教育学者も両方の研究を行い、教師・保育者がそれをサポートするという相互乗り入れの関係が必要である。そのためには、教師・保育者養成において、教師・保育者にとっての両方の研究の意義を理解し、両方の研究に触れる機会がどうしても必要である。理論・技能の学修や実習経験を従来通りに確保していくと同時に、研究テーマや課題の設定、文献検索・調査、レジュメ作成、論文作成、そして研究発表、質疑応答について体験し、自分の研究成果の質が高まっていく経験を確保することが、今の教師・保育者にとって一層必要になっている。大学の教師・保育者養成について、単に開放制原則に基づけばよい時代はとうに過ぎ去っている。今後、研究する教師・保育者を養成するために、新たなカリキュラムの開発が必要である。
 教師・保育者は同じ教育に携わる教育者である。教育には研究が欠かせない。これからの我々には、単に教育に従事するだけでなく、研究する教育者を目指して自らを磨き、後進と職能集団を育てていくことがますます重要になっていくだろう。

(白石崇人『教育の理論②教師・保育者論―研究する教育者』広島文教大学、2021年改訂版、121-122頁)
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新年のあいさつ、兼2021年の振り返り(オンライン授業のルール作りなど)

2022年01月03日 22時30分43秒 | 教育研究メモ
 2022年、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 昨年末は振り返ることができませんでしたので、振り返りをかねて新年のあいさつを申し上げます。
 昨年は、引き続き全学部の教務委員長を務めました。それに加えて、教育学部1期生の小学校の本実習の主任を務めることになってしまって、80人近い実習生の指導と実習運営に気を遣い続けた1年間でした。2020年に引き続きコロナ禍の影響を受けて、何かと不自由な1年でしたので、学生教育も万全とはいえず、心身の調子も優れず(回復できる状況も作れず)、かなり苦しい思いをしました。
 教務委員長としては教務事務・教務委員の皆さんと協力していろいろ仕事をしてきましたが、一番の大仕事は、オンライン授業のルール・事務手続きを整えたことです。もともと本学にはメディア授業の仕組みがなかったので、ゼロからのルール作りとなりました。オンラインの利点と欠点とを両方確実に踏まえてルール化することは、とても難しかったです。ルール化した後もいろいろあり、試行錯誤の連続でした。とはいえ、コロナ禍前の「旧に復す」ことなく、オンライン授業の欠点をカバーしながら、平時・緊急時ともに活用できるオンライン授業の仕組みを整えたつもりです。とくに、コロナ禍の先行き(ウィズコロナからアフターコロナに切り替わるかどうか)もまだ見えませんし、オンライン授業をめぐる政策・社会動向はいまだ動き続けているので、今後対応する際の軸が必要だと思いました。そのため、「学び・健康・つながりの保障」(文教生の健康・つながりを保障しながら、学びを止めない)というオンライン授業の理念を立てて、それを目的化して、ルールをつくりました。独自の理念まで備えた学内のガイドラインは珍しいと思いますが、先行き不透明のなか、本学が時代に流されず、埋もれず、緊急時にも対応しつつ、追いついていくためには、絶対に必要だと思って明文化したものです。
 実装されてからは、オンライン授業を受けさせている場合ではない欠席させるべき場合(例えば健康回復が優先される場合)や、学修習慣の形成上オンライン受講を認めるべきでない場合(例えばただの遅刻やさぼり)など、実際の運用上、判断は容易ではありません。しかし、オンライン授業の判断基準をしっかり定めて判断の経験を積み上げておかないと、今後絶対に時代に追いついていけないと思い、何とかお役目を務め続けております。

 こんな状況でしたので、研究の方は常に低空飛行といった感じでした。様々な科研費のプロジェクトに呼んでいただいているので頑張りたかったのですが、最低限のところで精いっぱいでした。とはいえ、自分の専門分野や関心の輪郭がはっきりしてきたのは収穫だったかもしれません。私は教育学者の端くれであり、専門とするのは教育会史はもちろん、教育学史、教育史教育論です。そのほかに、現代教育制度の概要・課題の研究や、日本史の探究的な授業研究にも手を出してきましたが(そのきっかけも行きがかり上やむなく、でしたが)、これらは間違いなく私の教育学・教育史研究の基礎づくりにつながっています。研究を続けて、2020年代の教育学・教育史研究史になにがしか貢献していきたいです。
 とまあ、そういう思いだけはあるので、現実として時間とエネルギーが足りないのが本当に苦痛です。何とか研究時間を捻出して、やるべき研究とやりたい研究を着実に進めていきたいです。

 おかげさまで、妻も娘(2歳半)も元気で、仲良く暮らせています。思うようにいかない毎日ですが、これだけは本当に恵まれています。今年も、みんな元気に、仲良く暮らしていけるようにしたいです。
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