ブログ 「ごまめの歯軋り」

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文芸散歩 柳田国男著 「日本の昔話」(改訂版) (角川ソフィア文庫1960年5月)

2017年12月29日 | 書評
「日本の伝説」姉妹編、「むかしむかし、あるところに・・」で始まる全国で語り継がれた昔話106篇 第4回

21) 黄金小臼
奥州みぞろヶ沼のほとりに二人の兄弟が住んでいました。兄はすこし愚かで弟はこざかしい男でした。弟は兄を追い使って草刈りばかりさせていました。兄が沼のほとりにいると、沼から美しい女性が現れて一通の手紙を御駒が嶽のふもとにある八郎が沼に住んでいる姉妹に渡してくれるよう依頼しました。兄は手紙をもって八郎が沼に行き、手を叩くと池の中から美しい女性が現れ手紙を受け取りました。そして手紙に書いてあるとおり、何時もお世話になっている男にお礼として石の挽臼を渡しました。この臼は一粒のコメを入れて挽くと黄金が一粒でてくる魔法の臼だったのです。これを見た欲の深い弟は兄のいない時に臼を取り出し、一挙に金持ちになろうとお椀に一杯の米を入れ挽きますと臼はコロコロ転がって小池に沈みました。

22) はなたれ小僧様
肥後の国の貧しい木こりの爺がいました。薪を採って町に売りかすかな暮らしをたてていました。薪が売れない時は町の中を流れる粟に薪を投げ込んで帰りました。するとある時川から美しい女が出てきて、「いつも薪を竜神様に供えてくれてありがとう、竜神様からこの鼻たれ小僧をご褒美に上げるから、毎日えびの膾を挙げると、何でもいうことを聞いてくれます」という事でした。爺ははなたれ小僧を大事に育て、お米でもコ小遣いでも頼むと、鼻をかむようにして出してくれました。こうしてなに不自由ない暮らしができると爺は仕事もやめ安逸に暮らしました。そのうちはなたれ小僧のお世話をするのもおっくうになって、はなたれ小僧を竜神様にお返ししようとして追い出しました。すると鼻他小僧が家の外でスーと息を吸うと、家も物も全部消えてなくなりもとの貧乏な爺だけが残りました。

23) 蛇の息子

富山の町に子供のいない爺と婆が住んでいました。ある時蔵に行くと一匹の蛇の子がいました。かわいいので蔵でコメでもやって飼うことにしました。「シド―」となずけた蛇はだんだんおおきくなり、今では蔵に入りきれないほど大きくなりました。そこで因果を含めてシド―を蔵から外へ出すことにしました。シド―は何処ともなく出てゆきました。ある時神通川の舟橋に大きな蛇がとぐろを巻いて通行人も怖くて近寄れない騒ぎが起り、殿さまはこの蛇を退治したら褒美の金を与えるお触れを出しました。爺と婆はきっとシド―に違いないと思って、舟橋に行きシド―に話しかけました。みんなの迷惑になるのでここを去るように説得されたシド―は大海に向かって去りました。そこで爺と婆は殿さまより大金を戴き一生安楽に暮らすことが出来ました。

24) 水蜘蛛
奥州の沼である人が釣りをしていると、たくさんの魚が釣れ魚籠は一杯なり、もうこれでいいだろうと足を沼の水に浸して一休みをしていると、どこからともなく水蜘蛛が現れ吊り人の足の指に蜘蛛の糸を巻き付けました。釣り人ははこれに気がついて糸を柳の木に結わえました。そして水蜘蛛がみんな来いと呼びかけると魚籠の中の魚が一斉に飛び出し、エントエンヤラサーという掛け声とともに柳の木が倒されました。それからこの沼で釣りをする人はいなくなりました。

25) 山父のさとり
一人の桶屋が外で仕事をしていると、一つ目一本足の化け物が現れました。桶屋はこれが山父というものだなと思って震えていました。すると山父は桶屋の思うことがすぐにわかるらしく、桶屋は益々怖気ついて震えて、思わず手に力が入り箍の竹がはねて山父の顔を叩きました。これには山父がびっくりして「人間は時々思わぬことをやるからこわい」と言って逃げかったという事です。(なんか脳科学の話を聞いているようです)

26) 飯食わぬ女房
桶屋の男が飯を食わない嚊がほしいと独り言を言うと、その夜女が来て、よく働いて飯は食わないから嫁にしてくれと言いましたので、女房にしました。それから確かに飯は食った様子はないのですが、コメと味噌がどんどん減ってゆきます。おかしいとおもって外に出るふりをして、天井から家の様子を伺っていると、女は蔵からたっぷりの米と味噌をもってきて、おにぎりとみそ汁にして、髪をばらして頭のてっぺんの口を開いて流し込み、後は髪を元通りにして何食わぬ顔をしています。そう女は山母(山姥)だったのです。そこで桶屋は女を追い出そうとして、逆に桶の中に閉じ込められ山へ連れ去られました。なんとか逃げようとしましたが桶が深いので出られませんでしたが、山母が桶を木立において休憩しているとき枝を掴んで外に出て里に向かって逃げました。ところが気が付いた山母が桶屋を追いかけましたので、草叢に逃げ隠れました。山母が草叢に飛び込んだ時、菖蒲の葉が右目を、蓬の茎が左目を突き破って山母はメクラになり谷に落ちて死んだそうです。そこで5月5日の節句には蓬と菖蒲で屋根をふき、湯にその葉を入れて厄を落とす習わしが始まったそうです。

27) 牛方と山姥
牛方がたくさんの塩鯖を牛の背に積んで町に売りに出ました。峠で山姥に出会い、塩鯖を全部食われ、そして牛まで食われて、自分も食われそうなので必死に逃げました。沼の端の木の上に隠れていると山姥は沼に映った牛方の影を牛方と思って沼に飛び込みました。この間に牛方は必死に逃げ、山の仲の家に入り天井に隠れてたのです。この家は山姥の家で、山姥が帰ってきて囲炉裏の傍で餅を焼いて食い、木の櫃の中で眠ってしまいました。牛方はその中に煮えたぎった湯を注いで山姥を殺しました。

28) 人影花
貧しい生活をしていた夫婦がいました。盗賊に妻を盗まれ3年間妻を差がいて旅をしました。そこに白髪の老人が現れ、妻の居場所を教えてくれました。そこは盗賊の大きな屋敷で、再会をした夫を空の甕に入れて隠し蓋をしました。この家にはアスナロ―という不思議な花があって男が来ると男花が咲き、女が来ると女花が咲きます。盗賊が帰ってきて男花が二つ咲いていることに不審に思いましたが、妻は男の子ができたせいだと騙して、強い酒を飲ませて眠らせました。そして夫を甕から出して、刀で盗賊を刺殺しました。夫婦はめずらしいアストローという花を御殿様に進呈し、褒美に千人の人と千頭の馬を殿さまから拝借し、盗賊の家から宝物を全部運びだしお金持ちになったということです。

29) 天道さん金ん網
母と三人の子どもが住んでいました。母が留守の時山姥が現れ、一番小さな子を食べ、二人の子は井戸の傍の桃の木の上に逃げました。山姥は木を登り始めると、おいつめられた二人の子は「天道さん金ん網」と大声で叫ぶと天から鉄の鎖が下りてきて子供らを天に上げました。山姥も同じように叫びましたが、腐った縄が下りてきてそれにつかまった山姥は高いところから落ちて蕎麦畑の石垣に頭をぶつけて死にました。そのときから蕎麦の茎は真っ赤になったのです。

30) 山梨の実
母と三人の娘が住んでいました。母親は病気で今にも死にそうになって、最後のお願いに山梨の実が食べたいと言いました。娘たちが山梨を採りに行くと言いますと、母親は途中で嫁御が出てくるので言うとおりにしなければならないと言いました。まず一番上の娘が出かけますと、嫁御がでてきて、行けと戻れを繰り返しますので、短気を起して無視して前に進もうとするとその嫁御に食われました。一番上の姉が帰ってこないので二番目の姉が出かけると同じように嫁御は行ったり戻ったりの繰り返しを命じます。短気な二番目の姉も食われてしまいました。最後の3番目の娘が出かけ、嫁御の言う通り辛抱強く繰り返していますと前へ進めと嫁御が言い続けるので、ついに野の中に山梨の実を見つけ持って帰りました。母親はそれを食べて元気になり親娘二人は幸せに暮らしました。末子成功譚の一つです。

(つづく)