ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 田中章夫著 「日本語スケッチ帳」 岩波新書(2014年4月)

2014年07月06日 | 書評
言葉の使い方に正誤はない 時代をへて日本語は変わってゆく 第7回

6) スポーツの言葉
①オリンピックのシンボルマークを日本では「五輪」と言い、中国では「五環」だそうだ。五輪という言葉を使ったのは1936年読売新聞・日本経済新聞が最初だそうだ。本節の主題は5輪ではなく、日本で情報抄録アルゴリズム研究の幕開けとなったのがある記者の5輪記事であったという回りくどい筋回しによる。1957年に人工衛星と宇宙開発に後れを取ったアメリカが大量のロシア語論文の収集・機械翻訳・抄録作成等の情報科学研究を開始した。実際は図と数式中心の技術論文を読む価値があるかないかの判断に使われる程度の情報処理能力であったようだ。日本では1936年に自動抄録処理の研究が国立国語研究所で始められた。その時のお手本が5輪記事であった。アルゴリズムは1)用語頻度を調べ、2)動詞、助詞などを除いたキーワードを決定する、3)キーワードの含有率を算出し、含有率の大きい順にセンテンスを選定する、4)一定数のセンテンスを原文出現順に並べるというものであった。現在は科学技術情報センター(つくば市)で文献抄録が作られている。
②明治6年「野球」というスポーツ用語が考案され、戦前までにスポーツ翻訳語が生まれた。戦後はカタカナ語で表され明治以来の翻訳語は消えうせた。その中でも体操の用語には日本語が数多く使われているのは異色である。
③戦前は運動会での応援コトバは学習院女子部では「お勝ち遊ばせ」という上品な言葉があったそうだ。2013年有明コロシアムで行われた東レパシフィックオープンで「あー」とか「Oh-」とか言う「溜息」では選手の闘志に水を差すのでやめてほしいという「溜息騒動」があったそうだ。テニスや卓球の選手の気合いのことばもなかなかのものである。

(つづく)