ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 朝日新聞経済部著 「電気料金はなぜ上がるのか」(岩波新書 2013年8月)

2014年04月22日 | 書評
総括原価方式と地域独占体制に守られ、原発推進国策を担って国民にツケを回す電気料金 第11回

4) 電力業界の思惑ー再稼働、原発輸出、電力自由化 (2)

 2012年東電の西沢社長は電力料金値上げ申請において「値上げは権利」という身勝手な発言をしてひんしゅくを買った。これまで電力会社は独占体制に胡坐をかいて値上げを欲しい儘に許したことに国民が多いに反発をしたのである。自由な競争原理に基づく経営努力をしてこなかった電力会社の体質はこの独占にあった。電力自由化は2つのルートで電気料金を引き下げるであろう。一つは従来の総括原価主義の規制下のように、無駄なコストまで料金に上乗せすることができなくなる。反面、コストを引き下げた企業はその分利潤を増大することができる。このため競争によって発電コストが下がるのである。第2に電力料金が需給のバランスで決まるようになると夏のピーク時間帯の電力料金は高くなる。夏が蒸し暑い日本では、夏の冷房電力需要量が大きく、このピーク時間帯の需要に備えて過大な送電や発電の設備がつくられてきた。ピーク時の高い電力料金によってこの時間帯の需要量が抑えられると、これまでのような過大な施設は不用になり、ピーク時以外の時間帯の電力料金は大幅に引き下げられる。電力自由化または電力市場の自由化とは、広い意味において従来自然独占(地域独占)とされてきた電気事業において市場参入規制を緩和し、市場競争を導入することである。電気料金の引き下げや電気事業における資源配分の効率化を進めることを目的としている。具体的に行われることとしては
1, 誰でも電力供給事業者になることができる(発電の自由化)
2, どの供給事業者からでも電力を買えるようにする(小売の自由化)
3, 誰でもどこへでも既設の送・配電網を使って電気を送・配電できるようにする(送・配電の自由化)
4, 既存の電力会社の発電部門と送電部門を切り離すことで競争的環境を整える(発送電分離)
5, 電力卸売市場の整備
などがある。

 今最も自由化の前提となるのは、発送電の分離といわれているが、発送電分離とは電力会社の発電事業と送電事業を分離することである。分離の類型としては以下がある。
1, 会計分離: 内部補助を禁止するため、既存電力会社の発電・送電の部門毎に財務諸表を作成する。
2, 機能分離(運用分離とも): 系統運用の中立性・公平性を確保するため、発電・送電部門間の情報を遮断する。
3, 法的分離: 送電系統運用部門を分社化する。資本関係が持ち株会社を通じて維持されることは許容される。
4, 所有分離: 送電部門全体を資本関係を含めて完全に別会社化する。
1の会計分離や2の機能分離は医薬分業と同じことで、同じ会社内でのコントロールが効いているときは書類上の分離に過ぎず実質的に無意味である。3の法的分離や4の所有分離だけがマイルドな現実的分離といわれる。望ましくは資本系列の違う会社や人事交流のない会社の競争が必要である。

 政界、財界、官僚の利害が一致した電力行政は一般に原子力ムラと呼ばれるが、旧通産省時代から問題を指摘する官僚(自由化派)はいた。「電力会社は総括原価の枠でなんでも高く買う。つまり安く競争するという発想やインセンティブは働かなかったので、プラントメーカーも商社も鉄鋼メーカーも電力会社に甘やかされてきた。円高が進んだ1990年代後半、日本企業は海外プラント受注で連戦連敗をした。国内経済でも地域経済は電力会社の動向に左右され、構造腐敗がすすんでいた」といい、1995年電気事業法が改正され、発電した電力(例えば鉄鋼会社やガス会社で発電)を既存の電力会社に卸売りする事業が認められた。また特区を決めて新規の発電会社が電力を小売りすること(特定電気事業)も自由化された。2000年には2万ボルト以上の超高圧で電力を受ける工場への電力供給が自由化された。そして2001年の省庁改編に伴い通産省は経産省へ、電力とガス事業はこれまで「公益事業部」だったのを「電力・ガス事業部」へ、原発規制はこれまで文部省管轄だったのを、経産省直轄の「安全・保安院」として推進と規制が同じ手に集約された。2003年の電力改革に向けて東電社長の南直哉氏は家庭用を含めて自由化する自由化論者であったが、発電は誰でもできるから手放してもいいと考えていた。むしろ電力会社の神髄は配送電網(系統){グリッド・システム」にあるという。しかし自由化に積極的だったのは東電トップだけで、新規参入を恐れる電力会社から猛反発を受けたそうだ。こうした守旧派電力業界は官僚主流派を巻き込んで自由派に対する総反撃に出た。2002年の電力改革第3弾は自由化の範囲を超高圧の契約にとどめた。発送電分離には、電力の自由化のために公正な競争が行われる環境を整備するという目的があった。経営努力と無駄排除、原発からの離脱で電力料金の値下げもありうる。電力会社が公益事業(国営企業)から私企業の会社になることである。自由化で真っ先に見直されるのは、経済原則から外れた国策事業である「核燃料サイクル」である。全く採算が取れない「プルサーマル発電」から撤退し、欧米がギブアップした高速増殖炉と使用済み核燃料再処理に膨大な金を注ぎ込む経済的自殺行為から一刻も早く離脱することである。もし原発発電が経済的行為であるならば、赤字垂れ流しを消費者に電気料金値上げで転嫁するということはできない。官僚は「鉄は国家なり」とか「電力は国家なり」という古い国策に正常な判断力を失っている。いまや「核は国家なり」という言葉に酔いしれてプルトニウム大国を目指すことは、すなわち核抑止力競争に巻き込まれることになる。
(つづく)