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とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

女性の力が政治を動かす

2012-03-18 22:41:27 | 日記
女性の力が政治を動かす



 私は、親戚からいただいた外国土産のチョコの箱の商標(ゴディバ)を見ていて、ふとある絵を思い出しました。
 ジョン・メイラー・コリアの名画です。女性が全裸で馬に乗っています。





ジョン・メイラー・コリア OBE(John Maler Collier, OBE RP ROI, 1850年 - 1934年)作の
『ゴダイヴァ夫人 Lady Godiva 』(1898年頃の作品・Herbert Art Gallery and Museum蔵)

 私はこの絵を見たときは、これも神話のある場面を描いたものだと単純に思っていました。
 しかし、次のような話が背景にあることを初めて知りました。
 以下は「ゴディバ」のHPから引用させていただきました。多謝。


 
「ゴディバ」の名は、11世紀の英国の伯爵夫人レディ・ゴディバに由来します。「ゴディバ」のシンボルマークである、馬に跨った裸婦こそが、重税を課そうとする夫を戒め、苦しむ領民を救うために、自らを犠牲にした誇り高き彼女の姿です。

 領主レオフリック伯爵とその美しい妻レディ・ゴディバの伝説は、1043年、英国の小さな町コベントリーで生まれました。レオフリック伯爵は、コベントリーの領主に任命され、この小さな町を豊かで文化的な都市へ発展させようと決意しました。

 大変信心深かったレオフリック伯爵とレディ・ゴディバは、初めに大修道院を建設しました。修道院はさまざまな宗教的、社会的活動の中心となり、この成功により伯爵の野心はますます燃え上がり、次々と公共の建物を建てては、領民から取る税を増やします。あらゆるものを課税の対象とし、肥料にまで税金をかけ、領民は重税に苦しみます。

心優しいレディ・ゴディバは、貧しい領民にさらに重税を課すことがどんなに苦しいことか、伯爵に税を引き下げるよう願い出ました。伯爵は断りましたが、彼女は何度も訴えます。ついに議論に疲れた伯爵は、彼女に告げます。「もしおまえが一糸まとわぬ姿で馬に乗り、コベントリーの町中を廻れたなら、その時は税を引き下げて建設計画を取り止めよう。」

 翌朝、彼女は一糸まとわぬ姿で町を廻りました。領民たちはそんな彼女の姿を見ないように、窓を閉ざし敬意を表しました。そして伯爵は約束を守り、ついに税は引き下げられました。(引用ここまで)


 「Godiva」は「ゴダイヴァ」とも「ゴディバ」とも読めます。この話には異説もありますが、ある高貴な女性の文字通り体を張った行動が為政者である夫を動かしたのです。女性は政治を動かす力を持っているという歴史的な事実を具象化したものだと思いました。
 翻って、今、私の前で展開しつつある事実に当てはめると、ぞっとします。いや、これは私の一人合点かもしれませんが、京子さんの行動、そしてお母さんの行動、これは今後大きな動きに繋がる予感がしました。
 何かが起こる。・・・私は、恐怖と期待の入り混じった感情を抑えつつ身震いしています。

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自画像

2012-03-15 23:18:00 | 日記
自画像



 二つの人物像を先ずご紹介します。






 実は上の絵と下の絵は同じ画家の自画像です。一見別人のように見えます。しかし、よくよく見ると年齢の差が出ているだけで同一人物だと合点できます。子どもを抱いている像はいかにも幸せそうで微笑ましく感じます。逞しささえ感じます。反面生活感が滲み出ています。中年のころの自画像は省略しましたが、この画家は自分を冷静に客観的に見つめています。飾るということはありません。
 この画家は彼のマリー・アントワネットの肖像画を描いたフランスのエリザベート・ヴィジェ=ルブラン(1755年 - 1842年)であります。彼女はマリー・アントワネットの寵愛を受けつつ肖像画を描き続け、王妃の運命とは裏腹に絵の世界で名声を不動のものにしました。妃が追われる身となっても権威の復活を信じて描き続けたと言われます。

 私は、いろいろと思案しましたが、意を決して京子さんと会うことにしました。
 アトリエに通されて久しぶりに京子さんを見ると、神話の世界に住んでいたはずの神聖な感じがした女性とは随分違う生身の女性が佇んでいる雰囲気に先ず気圧されました。美人だが、絵の中とは違う。私はルブランの子どもを抱いた像を連想しました。絵は化ける。改めて実感しました。
 彼女とのアトリエでの会話を次にメモしておきます。


 以前私がこの部屋に入ったときとは随分様子が違っていて驚きました。

 全部片づけてしまいましたから・・・。

 でも、よかったです。帰ってこられて。

 最初は貴方を避けようと思っていましたが、今は感謝しています。

 佐山さん、いい絵をたくさん描いてください。

 ありがとうございます。ここにまた帰ってきて初めて自分が見えてきました。

 そりゃよかったです。

 古賀さんにも感謝しています。ちょくちょく来ていただきました。

 子どもさんは?

 ええ、隣で寝てます。

 後で寝顔を一目見たいです。

 ええ、ぜひ見てやってください。

 ところで・・・。私はそう言いかけて次の言葉が出なくなった。

 なんですか。

 いや、な、なんでもないです。・・・京子さんは描かないんですか、ルブランのように。

 えっ、ルブラン。

 そうです。

 ・・・今のところ子どもが小さいので・・・。でも、いずれ・・・。

 あ、そうですか。そりぁ楽しみだ。ところで・・・。

 なんですか。

 いや、お母さんお元気ですか。

 どちらの・・・?

 いや、どう言いますか、そのー・・・。

 実母のことですね。

 え、ええ、そ、そうです。

 別れてからますます元気になりました。

 あ、そうですか。

 で、あのー、絵を・・・。

 えっ、ご存知でしたか。

 そ、そうです。画伯から聞いてまして・・・。

 父は、はっきり見えたそうです、私の絵の中の姿が。

 そりゃよかった。見えますよ、見えますよね、お父さんなんだから。私はそう言いながらこみ上げてくる感情を抑えていました。

 母は負けん気が強いので、大変なことをしてくれました。

 とんでもないです。見えてよかった、よかった。

 で、あのー、新しいお母さんは傍におられたんですか。

 いたそうです。

 で、・・・。

 敗北ですね。完全に。

 敗北?

 そうです。一言も言えなかったそうです。

 父を唆した負い目もありますからね。私も・・・、私も今にとことん・・・。

 とことん?

 ええ、やっつけます!


 私は、京子さんのその言葉を聞いてなにも言えなくなりました。


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悦び

2012-03-11 22:25:32 | 日記
悦び




プシュケとエロス(ウィリアム・ブグロー 1825年 - 1905年)ウィリアム・ブグローは、フランスの画家。ラ・ロシェルに生まれた。19世紀フランスのアカデミズム絵画を代表する画家で、神話や天使、少女を題材とした絵画を多く残した。日本語では「ブーグロー」とも表記する。

 プシュケとエロスのことについては、前回で概略記しました。佐山さんが次に描いた作品はブグローの上の絵を髣髴とさせるイメージでした。
 どこで見たか? ああ、どうもすみません。以前古泉堂という画廊でたまたま出会わせた二人の画商の中のお一方、セントラル画廊の園田さんのお店でした。
 次の絵が出来て、今度は別の画廊に出したという話を古賀画伯から聞いていましたので、古泉堂さんに問い合わせたところ詳しく教えていただきました。
 上の絵と違う点は、エロスの顔がぼかして表現してあることでした。それに空を飛んでいるという感じではなくて、並んで座っているという形でした。京子さんはヌードか? いやいや、セミヌードという感じでした。聖女というイメージで輝いていました。神になったプシュケのように。


 園田さん、この絵、どうですか?

 評判はすこぶるいいですね。早速あるお客さんが欲しい欲しいと言っていました。

 そうですか。で、ご主人はどう思われます?

 私はこういう絵はあまり得意ではないですが、日本の画家にはないものを感じています。

 そうですか。

 続いて描いていただくようにお願いしました。

 ありがとうございます。

 お客さんは佐山さんのご親戚か何か・・・。

 いやいや全くの他人です。追っかけみたいなものです。

 へえー、画家にも追っかけがいるんですか。

 いや、ごめんなさい。例えばの話ですよ。

 じゃ、お買い上げという・・・。

 いやいや、私は見ているだけで満足です。

 そうですか。

 ところで、佐山画伯について詳しいことをご存知ですか。

 そうですねえ、以前いろいろとあったみたいですね。・・・しかし、昔は昔ですよ。

 ありがとうございます。私も全く同感です。

 

 そんな話をして私は店を出ました。出てから近くのレストランで食事を注文し、腰かけて古賀画伯に電話しました。


 じゃ、貴方は作品は二つともご覧になったわけですね。

 そうです。勝手なことをしてすみません。

 いや、そんなことはないです。

 この前の話の続きで恐縮ですが、京子さんのお母さんのその後のことをご存知ですか。

 そのことは京子さんとは全く話していません。・・・第一私のようなものが口を出す筋合いのことではないですよ。

 そりゃそうです。ごめんなさい。・・・ずっと気にかかっていたものですから。

 その話は貴方が直接お聞きになってはどうですか。

 
 私はそう言われて、古賀画伯から大きな荷物を背負わされたような気がしました。


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母と娘

2012-03-08 00:18:08 | 日記
母と娘




金色の箱を開けようとするプシュケ(ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作  1849年-1917年 イギリス )


 私はウオーターハウスの絵が好きです。今回は先ず絵の中のプシュケの話から始めます。

 ギリシャ神話が背景にあります。プシュケは一国の姫で、その美しさは美の女神ヴィーナスより評価が高く、人々に崇められていました。しかし、その評判がヴィーナスの嫉妬を買い、ヴィーナスはプシュケが醜い男と恋に落ちるように仕組もうと息子エロスを派遣します。しかし、目的を果たすどころかエロスは誤って自分の矢で傷つきます。そして、エロスとプシュケは恋に落ちてしまいます。それを知ったヴィーナスは怒り狂い二人に幾多の過酷な試練を与えますが、それらを乗り越えて晴れて二人は結婚し、人間の美少女プシュケは羽根が生え、女神となりました。ーーー概略こういう話です。

 上の絵の場面について補足します。・・・過酷な試練を乗り越えていくプシュケに最後の試練をヴィーナスが与えるべく一つの箱を渡し「これを持って冥府の女王ペルセポネの所に行きなさい。病に伏せるお前の夫のために、彼女の美しさを分けてもらってくるのです」と言いつけます。死を覚悟して冥府に向かったプシュケは、無事に務めを果たし、帰路につきます。 しかし、どうしても箱の中身が見たくなったプシュケは、言いつけに背いて箱を開けてしまいました。
箱に入っていたのは美しさではなく、冥府の眠りでした。眠りにつかれたプシュケは、道の真ん中に倒れてしまいます。一方、すっかり傷が癒えたエロスは、女神の目を盗んで部屋の窓から飛び出すと、プシュケを探し求めます。
やがて眠りにつかれたプシュケを見つけると、エロスは眠りをかき集めて箱の中に閉じ込め、プシュケを軽く矢で突ついて目覚めさせました。そして大神ゼウスの所に連れ立ち、二人が永遠に結ばれるよう嘆願します。
ゼウスは恋人たちの願いを快く受け入れ、プシュケに不老不死の霊酒を与えました。神体となったプシュケには美しい蝶の羽根が生え、二人の間には「悦び」という名の娘が生まれました。
 この話は寓話として理解されています。プシュケは魂を意味し、エロスは愛を意味します。愛は魂と結ばれて初めて悦びが生まれるという寓話です。

 はてさて正直な話、私はあちこちから話をつなぎ合わせてまとめるのに疲れました。昔の画家はこういう神話の世界を好んで描きましたが、私はこういう話を持ち出して何を言いたいのでしょうか。---そうです。京子さんと佐山さんとの間のつながりです。そして、離婚して出ていった実の母親のことも話したかったのです。
 どうつながっているのか?
 いや、私もきちんと整理していませんが、京子さんは西洋美術を研究した女性、佐山さんもそうです。二人はプシュケの生き様を理解しています。次に描く作品は「悦び」。古賀画伯から聞いた今制作中の作品のタイトルの深い意味が理解できたのです。

 畝本さん、いよいよ本物になりました。「悦び」です。京子さんプシュケになりきっていますよ。

 プシュケ?

 そうです。ギリシャ神話です。

 神話、ですか。

 そうです。

 畝本さん、神話調べてみてください。

 ・・・え、ええ、そうします。

 それからね。京子さんのお母さん、あの作品を持って元の旦那さんのところへ行くと言っていました。

 場所、分かってたんですか。

 いやね、京子さんから聞き出したらしいです。

 そうですか。・・・でも、眼が・・・。

 お母さんが、京子の絵なら必ず見えるはずです、とか言ってたそうです。

 でも、そりゃまずいですよ。後妻さんに喧嘩を売ることに・・・。

 畝本さん、そこまで他人の我々が心配することはありませんよ。

 まあ、そうですけど・・・。


 数日前の電話の話はざっとこんな内容でした。




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消えた絵

2012-03-02 23:19:03 | 日記
消えた絵




手紙を書く婦人と召使 (フェルメール・1670年作 アイルランド国立美術館蔵)

 もともとフェルメールの現存する作品は少ない。だから、作品の価格は莫大な金額に値する。この作品は数百億円とも言われている。ところがこの作品が何度も盗難に遭ったというから驚きである。他にもそんな話はいくらでもあるという。信じられない話である。
 さて、この数日間私は体調が悪くて悶々としていました。風邪のような感じでもありましたが、熱がないので何が原因か分からなかったのです。その上、こんなことを考えてもいました。「あの絵は私が買うべきではないのか」。そうです、私が働きかけてアトリエの主たちが帰ってきて、再出発の記念すべき作品が出来上がりました。いや、私の働きをここで強調するつもりはありません。なんだか強い責任を感じたのです。「そうだ、あの店にもう一度出かけよう。お金? お金はないが、分割払いという方法もある」。私はそう決心しました。

 ない。どこへ消えたんだ。私は戸惑いました。店からあの作品がなくなっていました。

 ご主人、あの女性像はどうしたんですか。もしかして盗まれたとか・・・。

 ああ、あの古賀画伯から頼まれた作品ですね。

 そ、そうです。

 売れました。

 ええっ、売ったんですか。

 そうです。

 あの絵は売らないということに・・・。

 ああ、そうだったですね。この前店でそんな話をしてましたね。もちろん、一人の判断で売ったわけではありません。ちゃんと画伯に相談しました。画伯は困っておられましたが、佐山さんやモデルの京子さんとも相談され、結果として売ることになりました。

 そんな・・・。

 どうしてご不満ですか。

 いや、特別な思い入れがあったものですから。

 あの絵がお気に入りだったのですね。それではこの前私に意思があることを仰ればよかった。相談させていただきますよ。

 いや、この前はそこまで考えていませんでした。

 そうですか。

 で、だれが買ったんですか。

 中年の女性です。美人でした。いや、そんなことはどうでもいいですが・・・、どう言っていいか・・・、どうも京子さんが画伯を説得されたみたいですね。

 ん、ということは、京子さんの知り合い・・・。

 いや、はっきり申し上げましょう。実は京子さんの実のお母さんが来られたのです。

 ええっ、あの離婚・・・、いや、驚きました。しかし、どうして分かったのですか。

 私も事情はよく分かりませんが、京子さんが絵のことを仰ったみたいで・・・。

 ・・・。

 画伯も事情が呑み込めたようでして、私に電話して、売ってくれということでした。画伯の声が震えていましたので、ややこしい事情があるという感じがしました。

 ・・・。

 もう少しここに置いておきたかった・・・。

 で、いくら・・・。

 そうですね、画伯は五万ということでしたので・・・。

 二十号だから百万ですか。

 ええ、まあ、そういうところです。

 で、現金で・・・。

 そうでした。覚悟しておられたみたいで・・・。


 
 私は、その話を聞き、ほっとすると同時に、なんだか大きな問題につながらなければいいがと思いました。

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