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とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

消えた絵

2012-03-02 23:19:03 | 日記
消えた絵




手紙を書く婦人と召使 (フェルメール・1670年作 アイルランド国立美術館蔵)

 もともとフェルメールの現存する作品は少ない。だから、作品の価格は莫大な金額に値する。この作品は数百億円とも言われている。ところがこの作品が何度も盗難に遭ったというから驚きである。他にもそんな話はいくらでもあるという。信じられない話である。
 さて、この数日間私は体調が悪くて悶々としていました。風邪のような感じでもありましたが、熱がないので何が原因か分からなかったのです。その上、こんなことを考えてもいました。「あの絵は私が買うべきではないのか」。そうです、私が働きかけてアトリエの主たちが帰ってきて、再出発の記念すべき作品が出来上がりました。いや、私の働きをここで強調するつもりはありません。なんだか強い責任を感じたのです。「そうだ、あの店にもう一度出かけよう。お金? お金はないが、分割払いという方法もある」。私はそう決心しました。

 ない。どこへ消えたんだ。私は戸惑いました。店からあの作品がなくなっていました。

 ご主人、あの女性像はどうしたんですか。もしかして盗まれたとか・・・。

 ああ、あの古賀画伯から頼まれた作品ですね。

 そ、そうです。

 売れました。

 ええっ、売ったんですか。

 そうです。

 あの絵は売らないということに・・・。

 ああ、そうだったですね。この前店でそんな話をしてましたね。もちろん、一人の判断で売ったわけではありません。ちゃんと画伯に相談しました。画伯は困っておられましたが、佐山さんやモデルの京子さんとも相談され、結果として売ることになりました。

 そんな・・・。

 どうしてご不満ですか。

 いや、特別な思い入れがあったものですから。

 あの絵がお気に入りだったのですね。それではこの前私に意思があることを仰ればよかった。相談させていただきますよ。

 いや、この前はそこまで考えていませんでした。

 そうですか。

 で、だれが買ったんですか。

 中年の女性です。美人でした。いや、そんなことはどうでもいいですが・・・、どう言っていいか・・・、どうも京子さんが画伯を説得されたみたいですね。

 ん、ということは、京子さんの知り合い・・・。

 いや、はっきり申し上げましょう。実は京子さんの実のお母さんが来られたのです。

 ええっ、あの離婚・・・、いや、驚きました。しかし、どうして分かったのですか。

 私も事情はよく分かりませんが、京子さんが絵のことを仰ったみたいで・・・。

 ・・・。

 画伯も事情が呑み込めたようでして、私に電話して、売ってくれということでした。画伯の声が震えていましたので、ややこしい事情があるという感じがしました。

 ・・・。

 もう少しここに置いておきたかった・・・。

 で、いくら・・・。

 そうですね、画伯は五万ということでしたので・・・。

 二十号だから百万ですか。

 ええ、まあ、そういうところです。

 で、現金で・・・。

 そうでした。覚悟しておられたみたいで・・・。


 
 私は、その話を聞き、ほっとすると同時に、なんだか大きな問題につながらなければいいがと思いました。

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