女性画家誕生

コローのアトリエ。「画架の前に座る若い女」( 1865年-68年制作 ルーヴル美術館)
コローは印象派の若い画家に強い影響を与えたフランス19世紀の風景画家。のちのバルビゾン派の聖地となるフォンテーヌブローの森も早くから描いていた。
この絵はコローのアトリの様子を知る手がかりとなる作品で、私はそういう点からもよくよく観察している。ストーブ、壁に掛けてある様々なもの、大型のイーゼル。雑然としていて殺風景な部屋に、爽やかな後姿の若い女性が描きかけの絵が置いてあるイーゼルの前に座っている。楽器を下に置いて、じっと絵に見入っている。また、着衣に特色があるし、肩のあたりに光が当たって輝いている。すべて計算しつくした構成である。
モデルはだれか。想像は膨らむが、だれでもいい。ポイントは絵にいたく関心を持っているような姿である。コローがそういうポーズをとらせたと思われるが、それにしても純真な思いがビンと伝わってくる作品である。この女性は後々女性画家として大成するかもしれない。「真珠の女」という彼の有名な作品のモデルは近所の娘さんだという。すると、私のそういう想像は当たっていないのかも知れない。それにしてもこの自然なポーズはすばらしい。
その後の京子さん、佐山さんについて・・・。
畝本さん、佐山さんの母子像が完成しました。
そりゃよかったです。
今度はどこへ出すんですか。
東京です。銀座の画廊です。お世話になっているフランス画廊です。
へえー、銀座ですか。
私も迷ったんですが、やはり出すことにしました。全国レベルの評価が定まるとしめたものです。
そうですね。でも、一点だけで大丈夫でしょうか。
一作だけというのは冒険です。しかし、もう実力は中堅画家のレベルを超えていますから。
知名度ということも・・・。
そりゃ大丈夫です。フランス画廊さんは、新人の発掘に力を入れていますから。
そうですか。いよいよ銀座、銀座ですか。
ええそうです。
京子さんの実力も普通ではないと思っていますが・・・。
ええ、ええ、そうです。今度お電話したのはそのことなんです。
えっ、そうですか。
実はですね。お母さんが今帰っておられるんです。
あの家にですか。
そうです。
お孫さんの顔が見たいということで帰ってこられたんです。
お母さんがですか、実の・・・。
そうです。で、そのことがきっかけで、京子さんが始めたんです。
何をですか。
絵ですよ。再開したんです。
でも、京子さん、私には子どもがいてとか話しておられたんですが・・・。
そうです。その子どもさんが大きな役割をしました。
というと・・・。
そうです。お母さんと子どもさんをモデルに・・・。
モデルは母親と子ども。
そうです。
ちょっとイメージが湧かないんですが。
お祖母さんが孫を抱いている姿です。
すると、佐山さんの絵とは随分趣が違いますね。
そうです。そこが面白い。イメージとしては、・・・そうですね、単に抱いているだけではなく、お祖母さんが玩具で孫をあやしているという感じです。
そういう絵柄であれば、画家の実力がもろに出てきますね。
畝本さん、いいこと言いますね。そこなんです。京子さんは実に見事にこなしています。
こなしている?
軽み、と言いますか、何しろ飄々とした趣があります。
そう言われてもよく呑み込めませんが、要するに京子さんは普通の実力ではないということでしょうか。
そうです。案外佐山さんを超えているかもしれません。
超えている。
そうです、女性画家の誕生です。
そりゃ嬉しいですね。・・・私はそう言いながら、京子さんの「・・・やっつます」という言葉を急に思い出しました。
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コローのアトリエ。「画架の前に座る若い女」( 1865年-68年制作 ルーヴル美術館)
コローは印象派の若い画家に強い影響を与えたフランス19世紀の風景画家。のちのバルビゾン派の聖地となるフォンテーヌブローの森も早くから描いていた。
この絵はコローのアトリの様子を知る手がかりとなる作品で、私はそういう点からもよくよく観察している。ストーブ、壁に掛けてある様々なもの、大型のイーゼル。雑然としていて殺風景な部屋に、爽やかな後姿の若い女性が描きかけの絵が置いてあるイーゼルの前に座っている。楽器を下に置いて、じっと絵に見入っている。また、着衣に特色があるし、肩のあたりに光が当たって輝いている。すべて計算しつくした構成である。
モデルはだれか。想像は膨らむが、だれでもいい。ポイントは絵にいたく関心を持っているような姿である。コローがそういうポーズをとらせたと思われるが、それにしても純真な思いがビンと伝わってくる作品である。この女性は後々女性画家として大成するかもしれない。「真珠の女」という彼の有名な作品のモデルは近所の娘さんだという。すると、私のそういう想像は当たっていないのかも知れない。それにしてもこの自然なポーズはすばらしい。
その後の京子さん、佐山さんについて・・・。
畝本さん、佐山さんの母子像が完成しました。
そりゃよかったです。
今度はどこへ出すんですか。
東京です。銀座の画廊です。お世話になっているフランス画廊です。
へえー、銀座ですか。
私も迷ったんですが、やはり出すことにしました。全国レベルの評価が定まるとしめたものです。
そうですね。でも、一点だけで大丈夫でしょうか。
一作だけというのは冒険です。しかし、もう実力は中堅画家のレベルを超えていますから。
知名度ということも・・・。
そりゃ大丈夫です。フランス画廊さんは、新人の発掘に力を入れていますから。
そうですか。いよいよ銀座、銀座ですか。
ええそうです。
京子さんの実力も普通ではないと思っていますが・・・。
ええ、ええ、そうです。今度お電話したのはそのことなんです。
えっ、そうですか。
実はですね。お母さんが今帰っておられるんです。
あの家にですか。
そうです。
お孫さんの顔が見たいということで帰ってこられたんです。
お母さんがですか、実の・・・。
そうです。で、そのことがきっかけで、京子さんが始めたんです。
何をですか。
絵ですよ。再開したんです。
でも、京子さん、私には子どもがいてとか話しておられたんですが・・・。
そうです。その子どもさんが大きな役割をしました。
というと・・・。
そうです。お母さんと子どもさんをモデルに・・・。
モデルは母親と子ども。
そうです。
ちょっとイメージが湧かないんですが。
お祖母さんが孫を抱いている姿です。
すると、佐山さんの絵とは随分趣が違いますね。
そうです。そこが面白い。イメージとしては、・・・そうですね、単に抱いているだけではなく、お祖母さんが玩具で孫をあやしているという感じです。
そういう絵柄であれば、画家の実力がもろに出てきますね。
畝本さん、いいこと言いますね。そこなんです。京子さんは実に見事にこなしています。
こなしている?
軽み、と言いますか、何しろ飄々とした趣があります。
そう言われてもよく呑み込めませんが、要するに京子さんは普通の実力ではないということでしょうか。
そうです。案外佐山さんを超えているかもしれません。
超えている。
そうです、女性画家の誕生です。
そりゃ嬉しいですね。・・・私はそう言いながら、京子さんの「・・・やっつます」という言葉を急に思い出しました。
