とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

森の恵み

2012-07-16 22:26:36 | 日記
森の恵み




 佐伯祐三の1922年(大正11)ごろの作品『秋の風景』。
個人蔵の作品のため、画集などに載せられることが少ない。私はかなりな衝撃を受けた。この色彩感覚! 一面の落ち葉、落ち葉が浮いている小川、黄色に染まった石橋、樹木の黒いシルエット。佐伯と言えば石壁、看板、広告塔、殴るように描かれた色彩の交錯、その反対の迫りくる暗色の建物のシルエット、そういうものを想像するが、こういう絵もあったのである。私は手前の少しばかり光っている水面がこの画面を引き締めていると感じた。


 私はほぼ出来上がった登り窯を見学したいと、急に思い立って山に出かけた。

 
 ああ、貴方が畝本さんですか。

 初めまして、すばらしい窯ですね。

 これから仕事しながら作り変えていきます。出雲焼はなにしろ初めてですから。出雲は人間国宝の原清さんの出身地、若手では三原研さんが独特の作品を作られました。このことも私には刺激的です。

 小室さんはこれからここを拠点としてご活躍されるわけですね。

 そうです。終の住処です。

 終の・・・。

 そうです。

 ありがとうございます。

 いや、貴方にお礼を言われるとこそばゆい。

 そうですか。

 私は出雲の風土と歴史に強い関心を持っていました。

 えっ、そうですか。具体的に・・・。

 そうですね。色合いです。伯備線に乗って出雲に着くと、独特の色彩が私を迎えてくれました。

 地元に住んでいますと気づきませんが・・・。

 そうでしょうね。・・・ちょっと言葉では言い表し難いですが、他にはない色合いです。この森でも他の森とは全く違う。・・・いずれ秋には色づくと思いますが、その色を想像していると楽しいです。その独特の色合いを器に出したいのです。

 器については全くの無知です。どうか私にもご指導をお願いしたいのですが・・・。

 本気ですか。師弟ということになると厳しいですよ。何しろ弟子は師匠を真似てはいけない。乗り越えなくてはいけない。弟子はいろいろな手段で自分がいかほど伸びたか試したくなる。私は師匠になりきろうと思って大失策をし、挫折した経験があります。

 ・・・。

 いや、ごめんなさい。冴子御嬢さんも近くにおられるので、これ以上は勘弁してください。・・・ほんとに長柄さんは温かいお方ですね。出雲のお方はどなたも親切ですね。

 どうも、ありがとうございます。


 私は、またすごい人物に触れた気持ちがしました。過去に拘っている自分が空しく思えました。

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