医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

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エパデールの効果 JELIS study、やはり、「狭心症による入院」というエンドポイントはダメでしょう

2014年06月19日 | 循環器
前回、前々回と「狭心症による入院というエンドポイントはバイアスが入る」ということをお伝えしてきました。

魚の油 EPAの製剤エパデールが、本当に動脈硬化の病気に効果があるかという論文を検証してみましょう。私はこのデータが発表された9年前に感想を書いています。

もう一つのブレイキング・ニュース
現在はこの薬も少し安くなって、心筋梗塞・狭心症で治療した患者では、もう少し安く次の心筋梗塞を予防できるそうです。(ただし、この研究結果が真実である場合です)

Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomised open-label, blinded endpoint analysis.
Lancet. 2007 Mar 31;369(9567):1090-8.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)


この研究では、悪玉コレステロールが高くスタチンという悪玉コレステロール低下薬で治療されている患者18645人が、スタチン単独の内服と、スタチン+エパデール内服群に分けられ、その後約4.6年間の「突然死、致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」数が比較されました。

結果は、上の図にあるように、「突然死、致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」は、スタチン単独の内服群では3.5%であったのに対して、スタチン+エパデール内服群では2.8%と効果があったと結論づけています。

しかし、論文を詳しく読んでみますと、原文では「The occurrence of coronary death or myocardial infarction was not significantly lower in the EPA group than in controls. The frequency of fetal or non-fatal myocardial infarction was not significantly reduced. In the EPA group, however, that of non-fatal coronary events (including non-fatal myocardial infarction, unstable angina, and events of angioplasty, stenting, or coronary artery bypass grafting) was significantly lower in the EPA group than in controls.」と書かれています。

すなわち、「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」のはスタチン+エパデール内服群で低かったが、「突然死、致死性心筋梗塞」では差がなかったということです。

ところが、「突然死、致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」全体で効果があったごとくに宣伝されています。

前回以下のようにお伝えしました。
「今回のディオバン問題に関連して発言したのは、滋賀医科大学公衆衛生学教授の上島弘嗣氏。Kyoto Heart StudyやJikei Heart Study(JHS)などで用いられたProbe法に言及、これらの論文の共著者でもあるスウェーデンの医師、ビヨン・ダーロフ氏が「Probe法について、メリットを強調するなど、誤った見解を広めたのではないか」と問題視。例えば、Probe法では、RCTとは異なり、あらかじめ投与する薬剤が分かるため、医師と患者の協力が得られやすいものの、症例を分析する委員会への報告内容に「情報バイアス」がかかりやすいなどの指摘がある。特に、狭心症や心不全による「入院」というソフトエンドポイントを用いた場合、医師の主観で判定が揺らぎかねないとした。上島氏は、2006年の国際高血圧学会でJHSが発表された時点で、自身が「(ディオバン投与群が)非致死性のイベントのみ有効である点は、二重盲検でないことによる情報のバイアスの可能性がある」と指摘していたことも紹介。」

上島先生が指摘しているように、狭心症や心不全による「入院」というソフトエンドポイントを用いた場合、医師の主観で判定が揺らぎかねないのです。非致死性のイベントのみ有効である点は、二重盲検でないことによる情報のバイアスの可能性があるのです。

この研究では「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」にしか差が認められていません。しかもこの研究はオープンラベル、すなわち研究に携わる医者が、対象となる患者がどちらのグループであるかを知っている研究です。オープンラベル、ここが重要です。スタチン+エパデール内服群の方が効果があると信じている医者が無意識のうちに、スタチン+エパデール内服群で「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」を少なくしてしまった可能性を否定できません。

不安定狭心症の定義は厳密に存在しても、その適応方法は非常にあいまいです。表現方法はいろいろありますが、「6か月以上発作がなかった場合の再発や初めての狭心症発作が3週間以内に始まり,1週以内にも発作があるが、新しい梗塞を示す心電図所見や血中酵素値上昇のないもの」です。Brounwaldの分類では、2ヶ月以内、1ヶ月以内、48時間以内に区切りがあります。

極端な話、前者の定義では、患者に「症状はいつからですか?」と尋ね、「だいたい3週間ぐらい前からです」と言われても、もう少し前から症状はありませんでしたか?」と聞き直して、患者が「はい、そうかもしれません」と言えば、不安定狭心症ではなく安定狭心症にすることができます。

「いつから症状があったのか」という、患者の記憶が頼りの診断定義なのです。

当たり前の事ですが、「突然死、心筋梗塞で死亡してしまった」は人為的に操作できません。それに対して「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」は、ある程度人為的に操作できます。

私は日頃から感じています。オープンラベルの研究では「不安定狭心症、風船治療やステント治療が必要となった」というような人為的に操作できる調査項目を使用するのは、「李下に冠を正さず」エチケットとして避けるべきで、その結果を疑われても仕方がないと。


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2 コメント

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JELISサブ解析 (ジョージ)
2014-10-26 18:47:52
2次予防に対するJELISサブ解析で、スタチン単独群と比較してEPA追加群で(ハードエンドポイントの)心血管イベントを減少させたという報告があることはご存知と思います。
上記URLに載せておきますが、それに触れずに一方的に貶すのも大人げないかと存じます。
返信する
DTBに対する評価 (pwdhang)
2015-01-09 06:19:06
ISIS試験のサブ解析で天秤座と双子座の患者はアスピリンの効果がないという結果になったのは有名な話で、サブ解析の結果をただちに信じるというのはどうか...

STEMIのdoor to balloon時間に対する評価はNEJMとLancetで違ったことで、上記HPではLancetはデータが信用できない施設のを削除することでLancetの結論が評価できるとしています。

が、こういう恣意的な操作は気に入らないデータを排除することで危険と思うのですが、先生の評価はどうですか?
返信する

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