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医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

コレステロール低下剤を内服していれば悪玉コレステロールは160mg/dlでも大丈夫

2009年09月03日 | 循環器
             (発表を見て、私のメモをもとに私が作図しました)


以前悪玉コレステロールは140mg/dlでも大丈夫という情報をお伝えしました。


そのことに関連して、今年7月の動脈硬化学会で日本人における重要な研究結果が発表になっています。

レムスタディーといって、研究開始前4週間はコレステロール低下剤を内服していない脂質異常症の患者19,875人(平均の悪玉コレステロール値は171 mg/dl)を対象にして、ローコールというコレステロール低下剤を投与して、これまでに動脈硬化性心臓病にかかっていない患者(一次予防)は5年間、かかったことのある患者は3年間観察したものです。

この試験にはコレステロール低下剤を内服しない群は設けられていませんので、内服している状態と内服しない状態を比較した試験ではありません。

上の図は、試験終了時の悪玉コレステロール値と心筋梗塞、狭心症、心臓病による死亡の発症数の関係を私が作図したものです。まだ論文になっていないので、縦軸の値を示すのは遠慮させていただきますが、このことから悪玉コレステロールの値はローコールというコレステロール低下剤を内服している限り180mg/dl以下であれば、それらの発症数は増えていないことを示しています。

しかも、二次予防、すなわち既にそれらの疾患に罹患した患者での結果です。
90 mg/dl、80 mg/dlと下げる必要はありません。一次予防でも同様の結果でした。


↓詳細はここから、ただし、このサイトにはこの結果は掲載されていません。
LEM study
医療関係者でなくても見られます。「このホームページは医療関係者、医薬品情報を取り扱う方々にのみにご利用いただくためのページです」と書いてありますが、患者が見たら不都合なことでもあるのでしょうか。情報公開という流れに逆行している文言ですね。

コレステロール低下剤を強力に処方されている患者の皆さんは、こんど病院に行ったら「先日、レムスタディーで、ローコールを飲んでいたら悪玉コレステロールはそんなに下げなくても大丈夫というデータがでていましたけど、私、こんなに飲まないといけないですか?」と聞いてあげて下さいね。

それから医者の皆さんは、「そういえばこの前の動脈硬化学会で発表されたLEM studyでは、二次予防でも180 mg/dl以下で差がつかなかったんだって?」と製薬会社に聞いてあげてくださいね。

いんちき臭い人たちが言っていたこれまでの概念を根底からくつがえすデータです。私は、こういう状態こそが日本人の欧米人と異なる特性であると以前から確信していましたので、それを裏付ける結果が出たのではないかと思います。これからもこのような結果がたくさん出てくると思います。

こういう結果は、悪玉コレステロールを強力に低下させることを宣伝して薬を売る製薬会社には不利なデータですから、それらの会社によって隠蔽されないように監視することが重要です。たぶんこういう結果は、医者には知らせないようにされるからです。


注意:糖尿病と高血圧症は日本人でも心筋梗塞の重要なリスク因子です。


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心臓カテーテル手術件数にノルマ、奈良・大和郡山の診療報酬詐取

2009年07月02日 | 循環器
奈良県大和郡山市の医療法人雄山会「山本病院」の診療報酬詐取事件で、同病院が月約20件の心臓カテーテル手術のノルマを掲げていたことが2日、捜査関係者への取材で分かった。

詐欺の疑いで逮捕された理事長山本文夫容疑者(51)と事務長大杉龍太郎容疑者(57)は、同手術を装って診療報酬をだまし取った疑いが持たれており、郡山署捜査本部はノルマを設定した理由や架空手術とノルマとの関連を調べる。捜査本部は2日、両容疑者を送検する。

近畿厚生局奈良事務所によると、山本病院が同事務所に届けた心臓カテーテル手術の実施件数は05年が275件、06年が196件。

病院の元勤務医によると、手術は主に医師でもある山本容疑者が実施し、患者の症状を十分に確認しないで行うケースもあった。

元勤務医は「診療報酬の点数が比較的高いので、症状がまったく関係ない患者にも手術したのではないか」と指摘している。
(日本経済新聞より引用)


これを聞いて、ドキッとしている医者も多いと思います。こういうことは氷山の一角です。
↓昔こんな記事を書きましたが、やっと捜査のメスが入ってきました。
ミサワホーム九州、売上げ前倒し計上

急性心筋梗塞でつまったままの血管に後から風船療法をしても内服治療と効果は同じ


患者の予後に全く影響しない心臓の動脈の枝に手術をしている医者もいます。

子どもの時、「神様が見てるよ」と言って諭された経験は誰にでもあると思います。こういうことをしているという証明は難しいので、摘発されることはほとんどありません。だからこそ、皆が「神様が見ている」という気持ちで正しいことをしなければいけないのではないでしょうか。



生活保護受給者を利用した医療法人雄山会「山本病院」(奈良県大和郡山市)の診療報酬詐取事件で、法人理事長の山本文夫容疑者(51)=詐欺容疑で逮捕=が心臓カテーテル検査を実施する際、手術室にカテーテル納入業者が同席し、山本容疑者と雑談したりたばこを吸ったりしていたことが3日、病院関係者らへの取材で分かった。関係者の医師は「納入業者が同室することはありえず、異様な光景だった」と証言する。

山本容疑者は月に約20件の心臓カテーテル手術の実施ノルマを設定。達成できないときは、手術をしたように装い診療報酬を架空請求していたとみられている。「業者から売れ残りのカテーテルを使うよう依頼されていた」と証言する病院関係者もおり、業者との親密な関係が浮上。県警は心臓カテーテルを使った診療報酬の不正請求の背景についても解明を急いでいる。

関係者らによると、心臓カテーテル検査の実施中、手術室に納入業者が同室。全身麻酔で眠る患者の横で、たばこを吸いながら雑談し、山本容疑者と酒を飲みに行く約束をして検査後に実際に行ったこともあったという。
(産経新聞より引用)
(注:心臓カテーテル検査は全身麻酔ではしません。これは誤報です)

業者なら必要な箇所の治療かそうでないかわかるはず。業者もグルってこと?



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スワン・ガンツ・カテーテルによる血圧のモニターは患者の予後を改善しない

2008年02月26日 | 循環器
心臓の血液を肺や全身に送り出すポンプとしての機能が低下した状態は心不全と呼ばれます。心不全では心臓が送り出す血液の量が減るため心臓の中の血圧が高くなります。したがって心臓が送り出す血液の量と心臓の中の血圧をモニターすれば心不全の程度がわかります。そのためにスワン・ガンツ・カテーテルとよばれるカテーテルがあります。1970年代に発明され1980年代から米国を中心に盛んに用いられてきました。

このカテーテルでモニターされた数値に基づいて心臓が送り出す血液の量を改善する薬物の量や臓の中の血圧を下げる薬剤の量が適切に決められるため、とても有用なカテーテルだと信じられてきましたが、1996年にスワン・ガンツ・カテーテルを使用しても患者の予後は同じであるという結果が報告され、その有用性は幻であったことが立証されました。

まず、1996年のConnorsらの論文です。
The effectiveness of right heart catheterization in the initial care of critically ill patients. SUPPORT Investigators
JAMA, 1996;276:889.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

集中治療室に入院した5,735人を対象に、入院後24時間以内にスワン・ガンツ・カテーテルを使用された群とそうでない群を重症度で補正して比較したところ、使用された群で30日以内の死亡が有意に高くなりました(1.24倍、1.03-1.49倍)。また、入院費用の合計は使用された群で49,300ドル、使用されなかった群で35,700ドルと、使用群で有意に高くなりました。

この論文の結果はWall Street Journalなどのマスコミに大きく取り上げられ、医学にも大きな影響を与えました。

その後次々に、無作為試験でも同様の結果が報告されることになります。例えば、
Assessment of the clinical effectiveness of pulmonary artery catheters in management of patients in intensive care (PAC-Man): a randomised controlled trial.
Lancet 2005;366:472.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

集中治療室に入院した1,041人を、スワン・ガンツ・カテーテルを使用する群519人とそうでない群522人に無作為に割り当て予後を比較したところ、使用群の死亡率は68%、非使用群の死亡率は66%と差が認められませんでした。

これらの結果をうけて、米国では入院患者へのスワン・ガンツ・カテーテルの使用が大幅に減少しているという論文が最近報告されました。
Trends in the use of the pulmonary artery catheter in the United States, 1993-2004
JAMA 2007;298:423.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

1993年から2004年の間にスワン・ガンツ・カテーテルの使用は内科入院1,000人あたり5.66人から1.99人と65%減少し、しかも治療中の重症度には影響を与えませんでした。外科入院でも63%減少しました。スワン・ガンツ・カテーテルの使用が最も減少した対象疾患は心筋梗塞で、81%も減少しました。




重要な数値をモニターしているのに結果が改善されないのはどうしてでしょうか。それには2つの理由があると思います。

1つめは、治療する側が重要な数値と思い込んでいても、対象とするもの(この場合疾患)がそれ以上に複雑な要素の影響を受けているから。

2つめは、胸部レントゲン検査など他の検査の結果が、思い込んでいる以上に重要な情報を治療する側に与えており、それらの情報こそが結果に影響を与えているから。
です。


いまだに、原則的に全例にスワン・ガンツ・カテーテルを使用する医者がいますが、思い込みで医療をしてはいけないという典型的な例だと思います。


そうすると今後スワン・ガンツ・カテーテル検査は保険対象外になってしまうのでしょうか?でもその前に、どういう患者に有用でないのか、サブ解析が必要です。


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2007年米国心臓病学会ブレイキング・ニュース(CorE 64)

2007年11月06日 | 循環器
オーランドで開かれている米国心臓病学会に来ています。さて、昨年、一昨年に続き今年もブレイキング・ニュースをお伝えします。
3時間前に発表されたばかりの情報です。その時の写真を撮りました。

以前、マルチディテクターCTといって検出器が複数列(64列が普及)設置されており、一度の管球の回転に対して複数のスライスが撮影できるようになりCT検査は過去にない革命的な進歩を遂げることができたことをお伝えしました。特に最近は拍動している心臓の血管までも映し出す事ができるようになりました。
一方、これまでは心臓の血管のどこに狭いところがあるかは、心臓カテーテル検査といって足の付け根や手首や肘の血管からカテーテルを通して調べる以外にありませんでした。

ところが64列マルチディテクターCTの開発により、造影剤を点滴してCT検査の台の上に横になるだけで心臓の血管のどこに狭いところがあるかがわかるようになってきました。

今回のブレイキング・ニュースで発表された研究は「CorE 64」と名付けられ、64列マルチディテクターCTが心臓カテーテル検査と比較してどれくらい正確かを世界中の病院のデータをまとめて調べたものです。

これによりますと、陽性的中率すなわち64列マルチディテクターCTで狭いと判断されたところが心臓カテーテル検査で実際に狭いと判断される確率は91%と、正確性が高いことが示されました。

日本でも来年には、心臓の血管の検査はまず64列マルチディテクターCTを行い、狭いところがなかった患者には数ヶ月の間は心臓カテーテル検査料が保険で認められなくなるというガイドラインが学会から発表されます。テクノロジーはどんどん変わっていきます。

ブレイキング・ニュースの発表は2,000人以上収容できる会場で毎年派手に行われます。今年も相当派手でした。




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安定した動脈硬化性心臓病に不必要な風船治療が行われている

2007年09月05日 | 循環器
これまで、「安定狭心症に風船治療・ステント治療を行っても薬物療法だけの場合と成果は同じ」「軽い心筋梗塞は早期に風船・ステント治療をしなくても予後は同じ」

という事をお伝えしましたが、それでも現実には世界中で不必要な風船・ステント治療が行われています。

その理由を科学的に解明するために行われた研究が最近発表されました。
Cardiologists' Use of Percutaneous Coronary Interventions for Stable Coronary Artery Disease.
Arch Intern Med. 2007;167:1604-1609.

(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★☆☆☆☆)

米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究チームは、カリフォルニアの田舎、都会、その中間の心臓病医からなる3組のグループに、症状の安定した動脈硬化性心臓病患者に風船治療・ステント治療を実施する理由について討論させました。

対象となった医者は、偏りがないように他の医師の推薦あるいは性格調査によって選ばれ、討論とインタビューは米国心臓病学会の指導医によってなされました。そうして選ばれた医師127人に招待状を発送し、最終的に20人が選ばれました。

討論とインタビューの結果、次のような理由が明らかになりました。

(理由その1)
「病状が軽い患者への風船治療・ステント治療は薬物治療と効果は同じという過去の研究の結果を信じないで、血管は全て広がっている方がいいと妄信している」
(これは論外)

(理由その2)
「医者の個人的な経験」
次のような具体例が書かれてあります。
ある医師の友人Jim Fixxは、父が若くして心筋梗塞で亡くなった。彼は友人に「心臓の血管の検査を受けないか」と勧めたが、友人は「俺はマラソンにも完走できるほど元気なんだ。検査なんて必要ないさ」と断った。その友人はその3週間後に心筋梗塞で死亡した。
(大規模試験の結果を、1例の結果で打ち消している感情的な思考です)

(理由その3)
「医者の後悔」
風船治療・ステント治療と薬物療法の効果が同じであっても、患者が亡くなった場合、薬物療法では何もしなかったという後悔が残る。
(しかし、これは両者の効果が同じであるのだから風船治療・ステント治療でも亡くなったと考えるべきです)

(理由その4)
「患者の心配」
細い箇所=悪い→死亡という誤解で患者が、医者になんとかしてほしいと頼み、医者が研究データを示して風船治療・ステント治療を断る事ができない。
(データを示して、ちゃんと説明するべきです)

(理由その5)
「訴訟問題」
これは以前、日本のブレイキングニュースで思うこと
で示したことと同様のことです。

(理由その6)
「エビデンスがどうであれ、目で見て細いところがあれば反射的に広げてしまう医者の習性」
原文では「Oculostenotic Reflex」と書かれてあります。意訳すれば、「狭窄見つけたら、広げたくなる反射」です。
(反射で医療をしてはいけません)

(理由その7)
「医療機材の進歩」
最近は台の上で横になっているだけで、CTで心臓の血管を映し出すことができるようになってきました。簡便に検査できるため、細いところが見つかる患者の数が増え、たとえその場所が血液不足を起こしていないとしても(理由その6)で治療してしまう。あるいは薬物溶解性ステントが再狭窄を減らしたので、将来的な功罪を熟慮せず、とりあえずその場では使ってしまう。

(理由その8)
「病院の利益のため」
(日本の場合、半分ぐらいがこの理由でしょう)
患者の皆さん注意して下さい




これらの結果をまとめると、患者の不安を緩和するなど非医学的および感情的な理由で施術しているケース、あるいは施術が心筋梗塞発症率や死亡率を低下させないことが研究で示されているにもかかわらず、便益があると思い込んで施行しているケースが見受けられることが判明しました。

エビデンスに基づかない風船治療・ステント治療が広く施行されている現状は、医師らの知識と思い込みにばらつきがあることを示している。また、医師の意思決定には非医学的要因がかなり影響していると結論づけられています。

(理由その9)
「業者との癒着」
今日は一日中カテーテル室で物品を出すのを手伝ってくれたから、血液不足の場所ではないけれど、その業者の風船を使って治療する・・立派な「癒着」です。
癒着って立派じゃないか(汗)


こういう調査・研究をみると、さすがアメリカ、「腐っても鯛」ですね。


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金沢大学、国立循環器センターのみなさま、ありがとうございます~感謝、感謝、


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ビタミンB6、B12、葉酸のサプリメントは動脈硬化性の心臓病を予防しない

2007年04月21日 | 循環器
以前「葉酸とビタミンB6とB12の併用は血中のホモシステイン濃度を低下させる」という研究と「血中のホモシステイン濃度が低いほど冠動脈性心疾患および脳卒中の発現率が低くなる」という研究の結果が発表されました。

そこで、それでは「葉酸とビタミンB6とB12の併用は冠動脈性心疾患および脳卒中の発現率を低下させる」のかという研究の結果が発表されました。

Homocysteine lowering with folic acid and B vitamins in vascular disease.
New England Jounal Medicine. 2006;354:1567.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

この研究では、血管疾患または糖尿病を有する55歳以上の5,522人が、葉酸2.5 mgとビタミンB6 50 mgとビタミンB12 1 mgの併用またはプラセボ薬の1日1回投与にランダム割付けされ平均5年間観察されました。

平均血漿中ホモシステイン濃度は、実薬投与群では0.3 mg/L低下し、プラセボ群では0.1mg/L上昇しました。心血管死、心筋梗塞、または脳卒中は、実薬投与群では519例(18.8%)、プラセボ群では547例(19.8%)に発生し、両者で差がありませんでした。

脳卒中の発生数が冠動脈性心疾患の発生数よりはるかに少なく、脳卒中の統計学的解析に信頼性が低かったという解析上の限界がありましたが、実薬投与群で、プラセボ群より実薬群の方が脳卒中を来たした患者が少なかったそうです(0.75倍)。半面、実薬群の患者の方が不安定狭心症により入院した者が多く(1.24倍)、心血管に起因する死亡と心筋梗塞のリスクを有意に低下させることはありませんでした。

著者らは「われわれの結果から、葉酸とビタミンBのサプリメントを予防治療として使用することは支持されない」と述べています。



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安定狭心症に風船治療・ステント治療を行っても薬物療法だけの場合と成果は同じ

2007年04月18日 | 循環器
これまで、貫壁性あるいは非貫壁性の心筋梗塞の場合の風船治療・ステント治療の成果についてお伝えしました。今回は最近発表された論文から、安定した狭心症に関してです。

まず、どういう例を安定してと定義しているのかを理解するためにカナダ循環器学会の狭心症重症度分類を示します。

【クラスI】日常の身体活動、たとえば通常の歩行や階段上昇では狭心発作を起こさない。仕事にしろ、レクリエーションにしろ、活動が激しいか、急か、または長引いた時には狭心発作を生じる。
【クラスII】
日常の身体活動は僅かながら制限される。急ぎ足の歩行または階段上昇、坂道の登り、あるいは食後や寒冷、強風下、精神緊張下または起床後2時間以内の歩行または階段上昇により発作が起こる。または2ブロック(200m)を超える平地歩行あるいは1階分を超える階段上昇によっても狭心発作を生じる。
【クラスIII】
日常活動は著しく制限される。普通の速さ、状態での1~2ブロック(100~200m)の平地歩行や1階分の階段上昇により狭心発作を起こす。
【クラスIV】
いかなる動作も症状なしにはできない。安静時にも狭心症状をみることがある

この論文の中では、安定した狭心症とはクラスIVが薬の内服でクラスIII以下に改善した狭心症と定義されています。

Optimal medical therapy with or without PCI for stable coronary disease.
New England Journal of Medicine. 2007;356:1-14.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

対象は、大きな冠動脈の中枢部に70%以上の狭窄があり運動負荷心電図などで虚血が証明されているか、大きな冠動脈の中枢部に80%以上の狭窄がある安定した2,287人の狭心症患者で、風船治療・ステント治療群(薬物療法も併用)1,149人と薬物療法群1,138人に無作為に分けられ、平均4.6年調査されました。

両群でカナダ循環器学会の狭心症重症度分類クラスI、クラスII、クラスIIIの割合に差はありませんでした。同様に、糖尿病や高血圧、バイパス手術の既往、心筋梗塞の既往、薬物療法の内容などに差はありませんでした。

全ての原因による死亡と非致死性の心筋梗塞の発症は、4.6年間で風船治療・ステント治療群で19.0%、薬物療法群で18.5%と差は認められませんでした。

また、心筋梗塞や不安定狭心症で入院した割合は風船治療・ステント治療群で12.4%、薬物療法群で11.8%、心筋梗塞の発症は風船治療・ステント治療群で13.2%、薬物療法群で12.3%と差は認められませんでした。

つまり、安定した狭心症では風船治療・ステント治療群をしても、全ての原因による死亡と非致死性の心筋梗塞の発症、心筋梗塞や不安定狭心症での入院の回避効果は薬物療法だけの場合と同じということです。


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貫壁性の心筋梗塞は早期に風船・ステント治療をした方がよい

2007年04月10日 | 循環器
前回は心筋の障害が内側だけに留まり障害が外側に及ばない非貫壁性についてお伝えしましたが、貫壁性となっている急性心筋梗塞の場合はどうかという総説が今年発表されていますのでご紹介したいと思います。

Primary PCI for myocardial infarction with ST-segment elevation.
New England Journal of Medicine 2007;356:47.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

貫壁性の急性心筋梗塞を発症すると、25%~35%が病院に到着する前に不整脈で死亡します。
Sudden cardiac death in the United States, 1989 to 1998.
Circulation. 2001;104:2158.

次のガイドラインでは、「風船治療・ステント治療の専門家が常勤し、心臓外科がいつでも待機しており、病院到着から90分以内に心臓カテーテル検査を施行できる施設」であれば、点滴で血栓を溶解する治療を行うよりも風船治療・ステント治療を行う方が、入院後4~6週間の死亡率は少なく(7% vs. 9%)、死亡には至らない再度の心筋梗塞の発症率、脳出血の発症率は方が少ないと報告しています。
ACC/AHA guidelines for the management of patients with ST-elevation myocardial infarction – executive summary: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines (Writing Committee to Revise the 1999 Guidelines for the management of Patients with Acute Myocardial Infarction.
Circulation. 2004;110:588.

別の論文では、貫壁性となっている急性心筋梗塞の場合、風船治療・ステント治療を受けるべき状態なのに受けなかった場合の死亡率は、受けた場合が5.7%であるのに対して14.8%と悪化することが報告されています。
NRMI and current treatment patterns for ST-elevation myocardial infarction.
American Heart Journal. 2004;148:Suppl:S29-S33.

また、急性心筋梗塞に対する4,366例の風船治療・ステント治療を分析した結果、緊急心臓手術に至ったのは4.3%で、死亡は2.5%でした。
Predictors of success and major complications for primary percutaneous transluminal coronary angioplasty in acute myocardial infarction: an analysis of the 1990 to 1994 Society for Cardiac Angiography and Interventions registries.
Journal of American College of Cardiology. 1997;30:201.

貫壁性となっている急性心筋梗塞の場合は、一刻も早く風船治療・ステント治療を行った方がよいという事です。


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非貫壁性の心筋梗塞は早期に風船・ステント治療をしなくても予後は同じ

2007年04月05日 | 循環器
ふ~ 相変わらず忙しい毎日です。更新が遅れがちで申し訳ありません


心筋梗塞は、心臓の筋肉の厚み分すべてが傷害される貫壁性と、障害が内側だけに留まり障害が外側に及ばない非貫壁性に分けることができます。もちろん非貫壁性の方が障害は軽いわけです。貫壁性か非貫壁性かは心電図で見分けることができます。

日本では心臓の血管が詰まっていたり、極度に狭くなっている場所を見つけた場合には、非貫壁性であっても直ぐに風船・ステント治療をすることが多いのですが、非貫壁性の場合に直ぐに治療することが有益であるのかが、これもやはり日本ではなくアメリカで検証され先月「Lancet」に発表されました。

Long-term outcome after an early invasive versus selective invasive treatment strategy in patients with non-ST-elevation acute coronary symdrome and elevated cardiac troponin T (the ICTUS trial): a follow-up study.
Lancet. 2007;369:827.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

心電図で非貫壁性であると確認され、さらに心筋が傷害された時に心筋から血液中に漏れるトロポニンTという物質が0.03μg/L以上に上昇していることが確認された1,200人が研究対象となりランダムに以下の二群に分けられました。18歳以下、80歳以上は対象から除外されました。

「早期に風船・ステント治療をする群」では診断がついた24~48時間後以内に風船・ステント治療を行い、「早期に風船・ステント治療をしない群」では診断がついても風船・ステント治療を行わず薬物治療を続けて、十分な薬物治療でも頑固な胸痛が残る場合、血圧や脈が不安定な場合、退院前の運動負荷テストで大きな虚血領域が認められる場合に限り48時間以降に風船・ステント治療を行います。

薬物治療の内容は両群で違いはありませんでした。3年間両群の予後を比較した結果、全ての原因による死亡、心臓病による死亡、狭心症による再入院に両群で差は認められず、心筋梗塞の発症はむしろ「早期に風船・ステント治療をする群」で多くなりました(18.3% vs 12.3%、p=0.002)。また、治療を行うことに関連した心筋梗塞の発症(治療用の風船が治療箇所の手前で擦れたためにそこで後に心筋梗塞が発症したなど)は「早期に風船・ステント治療をする群」で2倍多くなりました(12.0% vs 6.1%、p=0.0002)。

つまり、非貫壁性の心筋梗塞の場合には早期に(それが夜中であった場合、あえて緊急に)風船・ステント治療をしなくても、十分な薬物治療でも頑固な胸痛が残る場合、血圧や脈が不安定な場合、退院前の運動負荷テストで大きな虚血領域が認められる場合に風船・ステント治療を48時間以降にしても患者さんの予後は同じということです。

この研究の中で「早期に風船・ステント治療をする群」で詰まっている血管が再開通した割合は76%と日本と比較して悪いのですが(おそらく日本では95%以上でしょう。日本人は風船治療が上手だからです)、一方、この研究の中で「早期に風船・ステント治療をしない群」での再開通はたった40%であり、そういう悪い条件と比較してもこういう結果が出ているのですから、「76%しか再開通していないからこういう結果になった。95%以上の再開通率なら早期に風船・ステント治療をした方がいいだろう」という解釈は推測にすぎず、それを証明するには日本で同じ研究を行い、その結果を待たねばなりません。


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心臓に編みタイツ!

2007年01月11日 | 循環器
心臓が全身に血液を送り出すポンプとしての働きは心臓が収縮する力の程度に比例します。心臓の収縮力が低下した場合、外側から弾力性のあるものでサポートしてやれば収縮力を増やすことができそうなのは誰もが想像できることです。でも、誰もがどうすればそんなことができるのか、そんなことが可能なのかというところで思考が止まってしまい、それ以上進まないのが現実だと思います。

アメリカが凄いのは、こういうことを先入観の排除と柔軟な思考により実現化してしまうことです。

米国Paracor Medical社製のHeartNetTMは弾力性のあるネット(ニッケルとチタンの合金)で、胃カメラの太さほどの管を肋骨の間から挿入することにより心室を写真のようなネットで包むことができます。

有効性の調査では、重症僧帽弁閉鎖不全、冠動脈バイパス術後、最近の虚血性心疾患、最良の治療下での重症心不全を除いた30名(平均年齢53歳、心不全の罹患期間平均7.2年)を対象にして行われました。装着前の左室駆出率は21.5±6.5%、左室拡張期径は7.4±1.0mm、左室収縮期径は6.2±1.0mmで、装着6カ月後のこれらの指標に差は認められませんでしたが、6分間に歩行できる距離は使用前の337±91mから145±150m増え、左室収縮機能障害による心不全患者に対する安全性と有用性が確認されました。現在、さらなる無作為試験が計画されているそうです。

胃カメラほどの穴から心臓にネットを装着するという発想。私は日頃、日本がアメリカから学ぶべきことはほとんどないと思っているのですが、こういう事を聞かされるとまだまだ日本人は先入観にとらわれてこういう発想ができない、こういう点はアメリカから学ばなければいけないと思う次第です。

そして、こういう奇抜な発想につきあってくれるベンチャー企業がアメリカに存在することも驚異に思います。


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刃のついた風船治療に関して

2007年01月01日 | 循環器
以前、心臓の血管に対して「刃のついた風船」による拡張は結果を良くするというのは「偽り」であることをお伝えしました。

刃のついた風船による治療への思惑

心臓の血管を「刃のついた風船」で拡張したあとにステントを留置した場合と、そうでない場合でどちらがいいかという論文が先日発表されました。


Impact of cutting balloon angioplasty prior to bare metal stenting on restenosis. A prospective randomized multicenter trial comparing CBA with balloon angioplasty before stenting.
Circ J. 2007;71:1-8.
(インパクトファクター★☆☆☆☆、研究対象人数★★★☆☆)

この研究は多施設で行われました。各治療群は、ステントを留置する前に「刃のついた風船」で拡張した群と「刃のついていない風船」で拡張した群で、それぞれがさらに風船やステントのサイズを超音波を使った断層像を見ながら決定した群とX線造影だけで決めた群に分けられました。従って比較されたのは4群になります。

評価項目は、内腔径、細くなっていない場所と比較した細さの割合、再狭窄率、風船治療の再施行率で、それぞれ治療前、治療直後、7カ月後で測定されました。



結果ですが、
            刃(+)超音波    刃(+)X線     刃(-)超音波  刃(-)X線 
             122人        106人        126人         99人
内腔径(直前)      1.06         1.04        1.02          1.01mm
内腔径(直後)      2.72(大)      2.56        2.58          2.46mm
内腔径(7カ月後)     1.92         1.80       1.79          1.73mm←差がありません
 
細さの割合(直前)    62.4        62.8         63.9           63.8%
細さの割合(直後)    13.1(小)     15.1         16.5           16.0%
細さの割合(7カ月後)  30.1(小)      35.1        35.3           35.5%

再狭窄率(7カ月後)   6.6(小)      17.9         19.8           18.2%
 
風船治療
再施行率(7カ月後)       9.6%(小)                      15.3%←差があります

(大)(小)というのは、その結果が他と比べて統計学的に大きい、小さいという意味で用いました。ついていないのは差がないという意味です。

論文では、これらの結果から刃のついた風船の使用は、その後ステントを留置する治療後の再治療の割合を減らし有用であると結論づけられています。


しかし~


刃のついた風船を使っても使わなくても、7か月後の内腔径自体に差が認められていません。「細さの割合」は刃のついた風船を使った場合で小さくなっていますが、「細さの割合」というのは比較する血管の場所を測定者(医者)が選べるので、どうにでも操作できる数字です。

通常、このように測定者で操作できてしまう項目は信頼できる医学雑誌では尊重されません。再狭窄率や治療再施行率も同様です。

(1)どうして7か月後の内腔径に差がないのに、刃のついた風船群では再狭窄率を6.6%として、そうでない群では17%以上と判断しているのでしょうか?

(2)どうして7か月後の内腔径に差がないのに、刃のついた風船群では9.6%しか再治療せず、そうでない群では15.3%も再治療しているのでしょうか?


これでは、その患者さんがどちらの群かを知っている医者が、刃のついた風船群で意図的に再治療を少なくしているとしか思えません。

この結果から導き出せるのは、

1、超音波を使うと血管の大きさを詳細に測定することができるため、血管にヒビが入らない程度の風船の径を細かく決定でき治療直後の内腔径を大きくできるということ

2、その際、刃のついた風船を使用すれば刃が作り出す切れ目が血管のヒビができるのを防ぐため治療直後の内腔径を大きくできるという、2点です。

刃のついた風船は、治療した後の将来の結果を良くするということは導き出せません。


信頼できるのは、内腔径といった測定者では操作できない数値であるべきです。再狭窄率や治療再施行率で結論を導きだしてはいけないことは、こういう結論の出し方が多いこれまで日本の論文に対してアメリカが何度も指摘してきたことです。

それなのに、なぜこの研究をデザインする時に再狭窄率や治療再施行率といったあいまいな因子で評価するとしたのでしょうか。



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小児に対する心臓移植の成績

2006年12月10日 | 循環器
米国心臓病学会からの報告です。

日本人の子供も心臓移植を受けに渡米しています。日本では心臓移植そのものの数が少ないので、その予後が一体どれくらいかという調査は不可能です。従って、このようなアメリカでの統計の結果を待つ以外にありません。もちろん最新の情報です。

The Use of Mechanical Circulatory Support as a Bridge to Transplantation in Pediatric Patients: Excellent Long-Term Survival with Ventricular Assist Devices

本報告では心臓移植を施行された3,080例(18歳以下)を対象に、後ろ向きにその予後が調査されました。

心移植試行前に機械的循環サポートが必要でなかった2,687例では、術後合併症として、人工透析5.5%、感染症22.4%、脳梗塞2.1%、再手術7.1%でした。一方、Ventricular Assist Device (VAD:要するに人工心臓です)を使用した217例では術後合併症の発症率はそれぞれ7.4%、27.2%、3.2%、11.5%、Extracorporeal Membrane Oxygenation (ECMO:要するに人工肺です)を使用した176例では、それぞれ18.2%、47.7%、5.1%、15.3%と、機械的循環サポートが必要でなかった群およびVADを使用した群に比較して有意に高かったようです。

5年生存率は、機械的循環サポートが必要でなかった群で73.4%、VAD群で68.3%、ECMO群で55.4%であった。

手術までに人工心臓や人工肺によるサポートが必要でなかった小児でも5年生存率が73.4%というのは意外に低いですね。


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急性心筋梗塞でつまったままの血管に後から風船療法をしても内服治療と効果は同じ

2006年11月26日 | 循環器
以前、「以前につまった心臓の血管を流れるようにするとどれだけ恩恵があるか」で、「狭窄や閉塞がない場合」と「狭窄や閉塞がある場合」の生存率の差はたった2.7%で、狭窄や閉塞をなくす治療を施しても、その恩恵を得ることができるのは37人に1人」であることをお伝えしました。


今回の米国心臓病学会で、東京日和@元勤務医さまがご指摘のように、「心筋梗塞後につまったままの血管に風船療法をしても内服治療と効果は同じ」という大規模臨床試験の結果が発表され、同日の医学雑誌に掲載されましたので、ご紹介いたします。

Coronary intervention for persistent occlusion after myocardial infarction.
N Engl J Med. 2006;355.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

あとで急性心筋梗塞と判明したという理由などで、緊急に風船治療やステント治療が行われておらず、急性心筋梗塞を起こした血管が詰まったままで、心臓の働きが正常の6分の5以下の患者さんが、入院後3日~28日の間に風船治療やステント治療をうける1,082人と、風船治療やステント治療を行わずにそのまま内服治療する1,084人に無作為に割り付けられ、4年間比較調査されました。

調査項目は、全ての原因の死亡、致死的・非致死的の心筋梗塞の再発、心不全、心臓病による死亡、脳梗塞です。

両群の内服薬の状況では、動脈硬化性心臓病の予後を改善するといわれている抗血小板薬、アスピリンはむしろ風船療法群に多く使われており、その他カルシウム拮抗剤、βブロッカー、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害剤)、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の処方は両群で同じ割合でした。

結果は、全ての原因の死亡、致死的・非致死的の心筋梗塞の再発、心不全、心臓病による死亡、脳梗塞の全てで両群の発症率が同じでした。つまり、緊急で風船治療やステント治療が行われておらず、急性心筋梗塞を起こした血管が詰まったままでも内服治療していれば、風船治療やステント治療した場合と効果は同じということです。

言い換えれば、緊急で風船治療やステント治療がされておらずその血管が詰まったままで、その血管に風船治療やステント治療をしても、飲み薬だけで様子をみている場合以上の成果があげられないということです。

これだけこういう結果が出ると、細いところがあれば何でも広げるという循環器医は認識を変える必要があるのではないかと思います。

以前お伝えした論文も並べてみました↓。



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以前につまった心臓の血管を流れるようにするとどれだけ恩恵があるか

2006年11月25日 | 循環器
以前、糖尿病の人では以前につまった心臓の血管を流れるようにしても生命予後は改善されないことをお伝えしました。それでは糖尿病の人に限らないとどうなのか。最近、そんな問いに対する結論が初めて大規模試験で示されました。

Impact of completeness of percutaneous coronary intervention revascularization on long-term outcomes in the stent era.
Circulation. 2006;113:2406.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

対象はニューヨーク州の心臓カテーテル治療のデータベースから調べられた、ステントを使って心臓の血管のカテーテル治療を初めて受けた21,945人です。治療後の状態を各群に分類して3年間の生存率を調査しました。

全体の68.9%に少なくとも1カ所以上の狭窄あるいは閉塞がありました。

上の図の折れ線は、上から「狭窄や閉塞が一カ所もない場合」、「2本に狭窄があるが閉塞がない場合」、「少なくとも1本に狭窄があり、他の1本が閉塞している場合」です。3年後の生存率はそれぞれ91.4%、89.5%、88.7%でした。

この論文の結論は、各群の生存率には統計学的に差があり、ステントを入れて治療しても他の箇所に狭窄があると生存率を悪くするので、手術などを考慮して3本ともに狭窄や閉塞をなくす努力が必要だということですが、私はこのデータを別の視点で解釈するべきだと思っています。

それは、これら3群の生存率の絶対値にほとんど差が無いことです。つまり「狭窄や閉塞がない場合」と「狭窄や閉塞がある場合」の生存率の差はたった2.7%で、狭窄や閉塞をなくす治療を施しても、その恩恵を得ることができるのは37人に1人です(Nunber Needed to Treat=37)。

以前につまっている場所を流れるようにするには入院費を含めて200万円以上の費用と、最低でも2時間、時間がかかると5時間にも及ぶ治療が必要になります。それだけ努力しても、その恩恵を得ることができるのは37人に1人ということなのです。

再びFIREBIRDさんのブログ風です。

K部長は5時間かけてようやく終わった心臓カテーテル治療室で患者さんに呼びかけるのだった。

K部長「Aさん、このモニターを見て下さい。おーい、前のやつ出して!(放射線技師に治療前の画像をモニターに映し出させる)」「ここが完全に詰まっていたのが、ほら今は流れていますよ。これでもう大丈夫!」

患者A「先生ありがとうございました。先生は命の恩人です」

F医員「さすがK部長ですね」(命の恩人っていっても、流れるようにして恩恵が得られるのは37人に1人だけって、この前論文に書いてあったけど・・・)と思いつつ、こう言うしかない自分をふがいなく思うのだった。


ところで、高血圧、糖尿病、喫煙の有無や、コレステロールのレベルで今後6年間の心筋梗塞の発症危険率を推測できるJ-LITチャートというのがあります。これを使って患者さんに説明をしていると「今のままでは今後6年間に3.5%の確率で心筋梗塞が起きるけれど、禁煙をすればそれが3.1%に下がりますよ」と、あまり危険率が下がらない事に、説明する私も拍子抜けしてしまう事がありますが、この研究の結果でも同様の事が言えるのではないかと思います。

やはり患者さんへの説明で「つまったままでは今後3年間の生存率は88.7%だけど、流れるようにしたので91.4%になった」と説明するべきです。そして、「命の恩人」といえるほどの効果がないことを知っていただく必要があると思うのです。


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糖尿病では以前につまった心臓の血管を流れるようにしても生命予後は改善されない

2006年11月21日 | 循環器
心筋梗塞をおこすと胸が苦しくなったり胸痛が出現したりしますが、まれにその症状が弱く病院に行かないですんでしまったりする事があります。そういう場合はその後の心臓カテーテル検査で以前につまった部分が偶然発見される場合があります。心臓の筋肉(心筋)は約24時間血液の供給が途絶えると死んでしまいますから、以前につまった部分の心筋は既に死んでいることが多いのです。

この事から考えると、以前につまった心臓の血管を流れるようにしても死んだ心筋は蘇らずに、そういった治療の意義はないと考えられます。

しかし、心臓の血管は3本あり、心筋梗塞の時に1本がつまっても隣の血管から血液をもらい心筋の障害を最小限にとどめる作用があります。そうすると、以前につまった血管の場所の心筋が死んでいても、その後、その血管を流れるようにしておけば将来隣の血管がつまった場合に血液を供給する働きをして、患者さんの寿命が延びるのではないかという推測から「以前につまった心臓の血管を流れるようにする風船治療」がさかんに行われています。

この治療は細い針金を心臓の血管のつまった部分にもっていき、レントゲン透視を見ながらトンネルを掘るように慎重に道を作っていくというもので、職人技が要求されます。

本当にそのような「転ばぬ先のつえ」のような働きをして寿命を延ばすのかという証明はあまりありませんが、糖尿病の患者さんを対象とした研究の結果が最近発表されました。

Success rates of percutaneous coronary intervention of chronic total occlusions and long-term survival in patients with diabetes mellitus.
DiabeticVascular Disease Research. 2006;3:45.
(インパクトファクター:最近刊行されたばかりなのでまだない、研究対象人数★★★★☆)

対象は「以前につまった心臓の血管を流れるようにする風船治療」を受けた、心臓の血管が最低1本は完全につまっていた506人の糖尿病患者さんです。

「以前につまった心臓の血管を流れるようにする風船治療」が成功して流れるようになった群と、失敗して流れるようにはならなかった群を比較すると、1年後の死亡率は前者で22.2%、後者で26.8%と統計学的に差がありませんでした(p=0.30)。

つまり、糖尿病の患者さんでは、糖尿病であることによる悪影響の因子が、心臓の血管がつまったままかそうでないかという因子より影響が強く、1年後の死亡率は「以前につまった心臓の血管を流れるようにする風船治療」で流れるようにしても改善されないということです。

しかし現実は、糖尿病の患者さんに対しても「以前につまった心臓の血管を流れるようにする風船治療」がさかんに行われています。

FIREBIRDさんのブログ風ですとこんなぐあいです。

K部長「今日はここの完全閉塞を通す」

D医員「で・でも、血液を供給している範囲はごく限られていますよ。それにこの方、糖尿病だし・・・・」

K部長「そんなことはどうでもいい!ワシの職人技を見るがよい。それにそうした方が病院が儲かるし、症例の数も増え他の病院に自慢できるのだ!さらにあの会社のワイヤーを宣伝してやれば、今度の学会の時にきっといいことがある!」

という具合です。

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