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橡の木の下で

俳句と共に

選後鑑賞令和3年「橡」8月号より

2021-07-29 06:38:56 | 俳句とエッセイ
 選後鑑賞      亜紀子

黄金の干拓平野麦の秋   喜多栄子

 長崎県諫早湾。干拓の歴史は長く、穀倉地帯。風にそよぐ麦畑のいかにも広々とした景色が眼に浮かぶ。黄金のと打ち出された上の句の効果、中七の干拓平野の語感の効果だろうか。近年潮受け堤防の開閉を巡る問題で解決の見られぬ干拓事業だが、掲句はただ眼前の景の豊かさを語ってくれる。

水足りて青田浄土や佐久平   岩下悦子

 信州佐久地方は内陸性気候で降水量は年間を通じて少ない。ことに冬は晴天が続き、放射冷却で気温は低く、厳しい自然環境と言えるかもしれない。その佐久も十分な水が足りて無事に田植えが終わったようだ。浄土の語に我がふるさとに寄せる思いが籠もる。山並みを遠に、静謐な佐久平の六月。

子鴉の口答へかな鳴きしきる   小野田のぶ子

 営巣中でしばらく鳴りを潜めていた鴉が再び姦しくなる。子鴉が電線や木の上で餌をねだっては頓狂な声をあげている。思わずびっくりする可笑しな鳴き声。体は十分に大きく見えるのだが、まだまだ子供。私はおねだりの声と聞いていたが、なるほど掲句のように中には口答えをしている子がいそうだ。

ぺたぺたと古き田植機操る老爺   青山政弘

 人の手が全てであった古より、工夫を重ねて農機具は改良されてきた。近年の田植機の変遷は大きいようだ。掲句の田植機は旧式、アナログの部分が大きく、どこの田んぼを見回しても今は昔のその機械を使っているところはないようだ。ペタペタとは、苗を植える爪の動きだろう。ゆっくりとレトロなリズムで響く音。機械は古くても老爺の技と感は確か。真っ直ぐに隅々まで美しく植田が整えられていくようだ。

森青蛙孵り菩薩の髭うごく   渡辺一絵

 境内の池で森青蛙が繁殖。ここはどこだろうか、自然豊かな静かな地を想像する。蛙が池畔の枝に産みつけられた泡のなかで孵化、ぽちゃんと水に落ちた音に思わず菩薩様の髭が動いたというのが面白い。お釈迦様ならピクリともしないかも。御髭から池の鯰が連想されてなお楽しくなった。

真直ぐとはまこと難し田を植うる   金子やよひ

 作者自身が田植えを経験したようだ。難しいと言うのだからベテランの農家ではない。青き植田にしとしとと雨の降り注ぎ白鷺が降りている景を見ると、日本は美しいなあと旅行会社のポスターにでも有りそうな言葉が浮かぶ。しかしその稲苗を真っ直ぐに植えて行くのがいかに難しいかと言うことを改めて知らされた。
体験者のみが言える。

開け放つ家畜舎さはに青田風   岡田まり子

 作者は近江の人。近江と聞けば牛だろうか。開け放たれた牛舎に広々と広がる田の風が通う。我が頰を風が撫でていけば思わず牛の心持ちにもなって清々しい。

桐の花雲たれこめて匂ひくる   岩下和子

 雲たれこめての措辞に大木が想像される。今満開の桐の大樹の風格が伝わる。

亡き姉の家閉ぢに来る梅雨最中   倉橋章子

 梅雨最中の家仕舞い。姉上の家と思えば胸中はいかに。湿った畳、小暗い部屋の影などが想像される。かつての楽しかった思い出がなおさら切ない。





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令和3年「橡」8月号より

2021-07-29 06:31:04 | 星眠 季節の俳句
徳利椰子笑へばことに日焼顔  星眠
           (青葉木菟より)

 島人の目がくりっと輝き、白い歯がこぼれるとき一層日焼け顔が明らか。
屈託のない人柄。椰子の風が快い。
                           (亜紀子・脚注)

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草稿07/28

2021-07-28 13:09:23 | 一日一句
坪庭のしじまに浸る日の盛  亜紀子

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草稿07/27

2021-07-27 16:47:31 | 一日一句
蟬発つや松の木肌に羽が生え  亜紀子

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草稿07/26

2021-07-26 22:29:35 | 一日一句
夕蟬や幼な心にもの思ふ  亜紀子

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