菅原ちはや句集『草も木も花も』
平成29年3月18日発行
著者 菅原ちはや
発行 揺籃社
私家版
著者:
昭和22年 東京生れ
平成27年 橡同人
俳人協会会員
問合せ:
〒158-0091
東京都世田谷区中町4−31−1
tel.03−5706−7806
『草も木も花も』に寄せて
亜紀子
菅原さんは藤色が似合う。お好きな色だとのこと。吟行句会でもよく藤色のシャツやセーターを身につけて来られる。何かでこの色を見つけると「あっ、ちはやさん」と、句会仲間はすぐに楚々とした菅原さんを思い浮かべるほどだ。自然や事象の繊細な、微に入った趣きに着目して詠まれる。何となく、俳句そのものに青みを帯びた紫の色を連想する。
燭ゆらぎ手話降誕を告げてをり
解き放つ心を乗せて春の雲
梅雨冷えやひとり芝居の試着室
ひと筋の日差に咲きて山薄荷
錦木の小花さみどり梅雨に入る
風船葛いつもだれかが触れゆけり
ところが菅原さんには別な一面もある。ご自身のはっきりした意見をお持ちで、この世ごとなどに対してきっぱりした物言いをされるので驚かされる。公正で合理的、団塊の世代である。この世代の女性は強くしなやか。同性として尊敬する。
風船をはなち今日より廃校に
雪嶺の屏風はるかに雛飾る
極月のタクト一気に楽生るる
波郷墳冬日さへぎるもののなく
ハングライダー助走短く花野発つ
一湾の波音消して大花火
菅原さんがクリスチャンであることは存じ上げていたが、信仰について話されることはなく、教会の花壇の世話のことなどを楽しく伺うのみである。
新任の司祭花好き小鳥来る
聖堂のしじまに満ちて初茜
朝ミサに開く大扉や初茜
本集の巻末の二編は巡礼の句でまとめられた。どちらも気負ったところはなく、素直に対象を見つめ、把握し、のびやかな詠いぶりだ。
春暁の心にとどむ聖句あり
アラブ菓子ほろりとくづれ春の昼
初夏の風吹きかはるガラリヤ湖
旅信書く卓に影おく棕櫚の花
日焼せし漁師加はる朝のミサ
島人の祈りつぐ日々花蘇鉄
夏暁の出船見送るマリア像
運転手ガイドも信徒島の夏
菅原ちはやという人をバランス良く統一しているのが信仰なのではと思い至る。
草も木も花も実となる小六月
『草も木も花も』という題名も神の讃歌の一節のように響いてくる。
繙いて本句集への興趣尽きることなく、また吟行をご一緒させていただくのを楽しみにしている。
平成二十八年春