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橡の木の下で

俳句と共に

選後鑑賞平成28年『橡』10月号より

2016-09-26 11:41:11 | 俳句とエッセイ

  選後鑑賞  亜紀子

 

牛蒡抜きして強力の登り行く  松岡久子

 

 強力とは力の強い者、荷を負い修験者などに従う下男、あるいは登山者の荷を負い案内に立つ人と辞書にある。この句は登山の句であるからヒマラヤのシェルパの類いとも言えそうだが、牛蒡抜きして先に行ってしまっては案内人は務まらない。歩荷のような仕事を請け負う者だろう。歩荷は荷を運び届けるのが務めであるから早いに越したことはない。脇目も振らず登って行く。折しもリオのオリンピックに湧いていたこともあり、ジャマイカの陸上短距離の覇者、ボルトが思い浮かんだ。

 

永らへて貫禄出でし屑金魚   中野かつこ

 

 お祭の金魚掬いかなにかで持ち帰った金魚。一週間くらいしか持たないよと大人に言われたことを思い出す。掲句の金魚、あにはからんや、その後何年も生きながらえて堂々とした体格。きっと世話が良かったのだろう。近所の洋菓子屋兼喫茶店の店先にこんな金魚がいた。鮒のような腹の緋鯉だと思って尋ねると、金魚ですと言われて驚いた。店の人は大した世話もしていないとのことだったが。

 

猫の手に勝る夫の手土用干し  藤崎亮子

 

 梅の土用干しだろうか、あるいは着物だろうか。いずれにせよ、失敬な、とご主人の咳払いが聞こえてきそうである。何の、そこは熟年夫婦の阿吽の呼吸。手、手、どようぼしと流れる音の調子のよろしさ。

 

磯波の音に詩あり梅雨夕焼   沖崎はる子

 

 梅雨晴間のひと日、今日は海も穏やかであったのか。その波音に詩を覚えるのは、海を深く知る者だからこそ。夕焼けの色もひとしお美しい。

 

  笹寿司に双手とらるる梅雨夕焼  星眠

 

川狩りや追ひ詰めてゆく石囲ひ 熱田秦華

 

 想像するに、流れの一部を石で囲いその中に魚を追い込むか、あるいは偶然入って来た魚をたも網で追い込んで捕獲する川漁。追い詰めてゆく、に心踊る臨場感がある。澄んだ水、冷たい水しぶき、ほらそこだ、そこだといった掛け声。夏川の心地良さ。

 

赤翡翠金山町の夜明けたり   東海林松代

 

 山形県、金山町(かねやままち)。美しい日本のむら景観百選に選ばれているそうだ。古くからの日本の農村の美しさ、懐かしさを保っているという。夜明けの赤翡翠の唄と聞くだに、その村一帯の様子にこころ惹かれる。赤翡翠金山と続く文字づらが、訪れたこともない者にも不思議に魅力的に響く。

 

御岳道風に揺れをりあんにんご 荻野光子

 

 東京都青梅市、武蔵御岳山。古くから信仰の地である。麓の渓谷沿いには遊歩道も整い、観光地としても賑やかと聞く。こうしたハイキング道を歩かれたのだろうか。谷風が快い。あんにんごは上溝桜の別名。白い花穂が開く前の青い莟の穂を指すかと思う。あんにんごという語がいかにも風に揺れている感じ。

 

太陽光パネル励ます柿若葉   小林一之

 

 石炭、石油に対して、再生可能エネルギーの一つとして開発、利用が進められている太陽光発電。その発電のための電池パネル。空き農地に並んでいるのを見かけることもある。柿の照り葉がパネルの仕事ぶりを励ましているというのが、互いに照応して面白い。果たして代替エネルギーの進展は。

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