選後鑑賞 亜紀子
初霜や朝日きらめく痩せ畑 中村康彦
いよいよ寒さ到来。毎日出向くほまち畑が今朝は霜の畑に。その煌めく様に感嘆する作者。痩せ畑と言いながら、愛情持って日々の農作業に精出す作者の姿がある。
庭紅葉今真紅なりクリスマス 石原嶺
赤はクリスマスを連想する色。パッと思いつくのはサンタクロースの赤服。トナカイの赤鼻。私は黐の木の赤い実を見ると、クリスマスだなあと感じる。緑の葉っぱとの取り合わせがことに。赤、緑、白がクリスマスカラーとのこと。緑は永遠の命、白は純潔、そして赤は人々のためにキリストの流した血の色、愛と寛大の象徴。庭の紅葉にもクリスマスを見た作者。この木は何の木だろうか。いわゆるもみじだろうか。今真紅なりの措辞が効いている。そう言われれば、この秋の紅葉は遅まきながらどこも濃く美しかった。
掘り炬燵外つ国の子のワンダフル 今村さち
掘り炬燵、懐かしい。こたつテーブルはあっても掘り炬燵は現代の住宅ではなかなかお目にかかれない。日本の子でも喜びそうだが、外国からのお客さんであればなおさらと想像できる。下五のワンダフルは一昔前のテレビコマーシャルの科白のようだが、パッと目を輝かせた様子が、パッと見えた。
短日の迷惑メール切りもなく 市川美貴子
大量の迷惑メールに悩まされている方は多いのでは。
作者もその一人、職場のパソコンだろうか。傾く窓辺の日、早く切り上げたい仕事も捗らず。もう、嫌になっちゃうと溜め息の一つもつく。短日が効いている。
西郷どんの墓前に集ふ時雨傘 片岡嘉幸
オンラインクループの面々が実際に顔を合わせて集い初のオフ会吟行。旅を発案し統括された吉村さんはじめ、迎える鹿児島勢の福元さん、馬場さんらの綿密な計画準備のもと、それぞれが協力してメンバーは日本各地から集結、夢のような数日間を過ごされた由。一月号の上尾さんの鹿児島吟行記に詳しい。
南洲墓地には西南戦争で破れた薩軍二千二十三名の将兵が葬られているとのこと。西郷の墓の周りは最後まで彼を支えた幹部たちが眠っている。明治の世に国内で激しい争いのあったことを改めて考える。今墓前に集うのは平和、融和の橡俳人。傾けて見入る時雨傘がいい。一月号の口絵写真をご覧あれ。
窓を打つ雨音かはる初あられ 浦田和雄
それまでの雨音が俄かにバラバラとガラス窓を打ち付けるような強い音に変わった。鰤起こし、毎年冬到来を迎える折の北陸の人の実感か。
大玻璃にリハビリ励む秋日和 埴生洋美
大きなガラス窓の向こうは明るい秋の庭。その景を眺めながらリハビリに励む。前向きな気持ち。
文章にすればこうなるのだが、自然のうちに俳句的な省略が効いていて、良い学びになった。
椋鳥の塒はネオン溢れをり 前薗真起子
ネオンも賑わしく、そこへねぐら入りする椋鳥も姦しく。椋鳥はすっかり街中の鳥になったようだ。
ビル毎の聖樹が楽し散歩道 室谷聖子
作者の営む喫茶店のある大阪中之島界隈だろうか。ビル毎の入り口、あるいは店舗のガラス越し、それぞれに異なるクリスマスツリーの趣。一つ一つ眺め歩く楽しさ。この時期ならではの散歩。掲句にも俳句的あるいは日本語的と言うべきか、省略が自然に施されている。