竹内真さん、『風に桜の舞う道で』

 読み終えたのは先週の金曜日です。 
 何ヶ月間か積んでしまった時点で、これはもういっそ桜開化の声が聞こえてくる頃に読もうと開き直ってました。

 『風に桜の舞う道で』、竹内真を読みました。
 

 桜の花びらが降りしきる中を、くぐり抜けて走る一台のバス。そのバスが運ぶ乗客の中に、“桜散る”新浪人生が三名ばかり…という冒頭の鮮やかさがとても印象的でした。その景色も目に浮かぶようで、桜を待つ私の気分が勝手に盛り上がってしまった次第です。表紙になっているのが、その三人の出会いの場面です。

 いつも思うけれど、竹内さんの文章は、読むのに何のストレスもかからないところが気持ち良いです。ストレスのかかる文体もそれはそれで嫌いではありませんが、さらさらと引っかからずに喉元を流れ落ちるような文章を読んでいると、何だか自分の内側がリセットされていくみたいな心地よさが味わえます。

 予備校の特待生として桜花寮で過ごした日々と、10年後の彼らの物語とが、交互に語られていく。定員10名の浪人生たちは、最初に名前がずらずら出てくるときには誰が誰やら…と面食らってしまう。でも、1年間の彼らの愉快なエピソードが順々に出てくる度に、ひとりひとりの個性が立ち上がってきてとても楽しめました。
 選び抜かれた予備校生たち(てのも変ですが)は、寮も無料なら受講料も免除と言うあたり、懐かしのバブリーな設定でちょっと笑ってしまいました。私は竹内さんは同世代なので、大学を出る頃には不景気でもろ就職難だったという落差の感覚も、わかるなぁ…。
 相変わらずの性善説ですか?と問いたくなるような眩しい作風に、気分がほっこり。明るい力を感じる作品でした。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 今日はスペイ... エリザベス・... »