トマス・ピンチョン、『V.』

 『V.』の感想を少しばかり。

 “「V.の背後と内奥には、人の想像を超えたものが潜んでいる。V.とは誰か、という問題ではない。” 77頁(上巻)

 いやはや面白かった! ピンチョンだからそこそこ構えてはいたものの、よもやここまで詰め込み過多とは思うめえ…。と言いつつ、わくわくとそれを楽しめてしまうのだから本当に凄い。重みと軽みの双方を味わえる作風と言い、誰と誰がいつどこで出会いまた別れ…と、錯綜し合う線を繋いで見えてくる模様のスケールと言い、ただもう圧倒された。

 二つの大戦を跨ぐ歴史のうねりの中、“ただ居合わせているV.”の造形はとても興味深い(命なき物体を取り込むオブセッションに、ぞくり)。そして、全てが収斂していくマルタという場の持つ、磁界のような暗い力にも、強く惹きつけられた。
 “木偶の不器男”プロフェイン側の物語の滑稽さ、螺子が巻き切れたヤンデルレンの空騒ぎ。ステンシルの執念…。私がとりわけ忘れがたいのは、「モンダウゲンの物語」や恋するV.の章だ。「モンダウゲンの物語」に立ちこめる息苦しい不穏さと、共振し合うV.とメラニーから伝わる鏡張りの緊張感には、こちらの神経までびりびりと逆立つようですっかり捕り込まれた。
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