フェリペ・アルファウ、『ロコス亭』

 ロコス亭とは“狂人亭”の意。『ロコス亭 奇人たちの情景』の感想を少しばかり。

 “その時、彼女は未来を生きていた。”(65頁)

 おおお面白かった! 
 トレドに滞在中の“私”が立ち寄ったカフェは、〈ロコス亭〉。ここには雑多な人々が集い、モデル捜しの三文文士が顔を出す。そんな〈ロコス亭〉に集る面々と“私”が見聞きした出来事を元に、小説に仕立てて連作集に纏めました…という体裁の一冊。プロローグの内容からして風変わりと言うか一癖ある感じなので、まやかされぬまいぞ…とまなじり決して(大袈裟な)読んでいたのだけれど、なまじっかメモなんぞがあるとあれれれ?と何度も首を傾げる羽目に。と、作者の思う壺だがそこが楽しかった。
 プロローグから「アイデンティティ」、「作中人物」、「物乞い」…と読み進むうち、各々の話には予想以上に絡まった繋がりがあることが見えてくる。その一方で、全体として見るととても見事な構成で纏まっているのに、一つ一つの話の味わいにはかなりの違いがあるところも、大きな魅力だと思う。「指紋」や「財布」のように犯罪を題材にしている小品(これがまたピリッと巧い)もあれば、「チネラートの人生」のように一人の人物の起伏に富んだ人生を追って読み応えのある作品もある。かと思えば「ネクロフィル」に出てくる、ドニャ・ミカエラ・バルベルデの病の奇妙なことと言ったら…というような按配だ。いつの間にか立場が替わっている登場人物たちの目眩ましや、思いがけないところにまで届いた謎の人物チネラートの奇術も見どころである。惑わされて最後はご満悦なのだから、本当に世話がない(いつものことか)。

 解説の中の作者晩年のインタヴュー、そのお見事な偏屈ぶりにとどめを刺された。
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