阿部智里さん、『烏に単は似合わない』

 『烏に単は似合わない』の感想を少しばかり。

 “双葉に、この琴は弾けない。だから、ここにいるのは、自分なのだ。これは偶然ではないと、あせびは悟った。” 92頁

 ひやあなんて面白い…と、頁を繰る手ももどかしく。そこは八咫烏が支配する世界。日嗣の御子の妃選びの為に設けられた制度により登殿した、春夏秋冬いずれも美しい4人の姫君たちが妍を競い合う。と、如何にも綺羅に華やかな設定だけれどどうなのかしらん…と危ぶんでいた私は、ころりと騙されていたことよ…。
 桜花宮のそれぞれ、春殿にあせび、夏殿に花木綿、秋殿に真赭の薄、冬殿に白珠。四家の命運を担う4人の姫君の間とその周囲では、色んな思惑が絡み縺れ合う。恋に、陰謀にと…。そうして若宮の訪れもないまま不穏さを増す桜花宮で、不祥事を起こした侍女の失踪を皮切りに事件が続くことに。そんな熾烈な状況の中、一年を通して姫君たちの意識や関係には少しずつ変化が現れる。その辺りの描き方もよかった。きちんと己に向き合い友を得る姫もいれば、欺き欺かれる姫もいれば…。彼女たちは、何を見いだし何を手に入れるのか。
 最後まで読んでから始めに戻って、周到に散りばめられた黒い符牒にぞくっとした。表紙にも。

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