C・R・マチューリン、『放浪者メルモス』

 『』放浪者メルモス』 の感想を少しばかり。

 “(メルモスの駆使した威嚇と誘惑が、他にも事細かに誌されているが、ここに挿入するのすら背筋が寒くなる。” 99頁

 期待を上回る面白さで、魂消つつ読み耽った。恐怖と暗黒のゴシック小説。
 己の魂を悪魔に売ったアイルランド人メルモスは、悪魔との契約を引き受ける犠牲者を求めて放浪を続けていた…。いまわの際にある老守銭奴に呼びつけられた甥のジョンは、伯父の臨終(死因は恐怖!)を看取った後、処分するように言われた手稿に目を通してしまう。そしてまた、近くの海で遭難したスペイン人モンサダを来客として迎え、その恐ろしい半生を聴くことになる…という枠物語である。上巻には、「スタントンの物語」と「スペイン人の物語」が入っている。モンサダが語る理不尽な生い立ちや修道院生活、その後の脱走劇は、戦慄の連続で固唾を呑んだ。
 下巻からは、どっぷりゴシックロマンス。逃亡先でモンサダが読んだ手稿を、ジョンに向けて語っていく「印度魔島奇譚」が素晴らしかった。可憐なヒロイン、イマリーの造形には驚いたが。あまりの悲惨さに目を覆いたくなった「グスマン一族の物語」。「恋人の物語」も、好きな話だけれどきつかった…。そして、メルモスとイシドーラの物語のゆくえには、ただもう溜め息しか出ない。

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