ローラン・ビネ、『HHhH(プラハ、1942年)』

 『HHhH(プラハ、1942年)』の感想を少しばかり。

 “ずっと前から、僕は彼に敬意(オマージュ)を捧げようと思っていた。” 8頁 

 素晴らしい読み応えだった。ヒムラーの右腕であり、〈第三帝国でもっとも危険な男〉〈金髪の野獣〉と怖れられた、大量虐殺の首謀者ハイドリヒを狙う暗殺計画…と、まず題材に魅力があるのは言うまでもない。とても興味深い上に、初めて知ることばかりがみっちりと詰まった内容だった。けれど私は何といっても、まさかこんな〈小説〉を読むことになろうとは予想だにしなかったので、読み始めてしばしで驚嘆し、それがじわじわと賛嘆の思いに変わり作品にひき込まれたことが、一等忘れがたい。
 つまりこれは、疾うにこの世になく自己弁護できない人物を、“操り人形のように動かすことほど破廉恥なことがあるだろうか!”という考えに立脚して書かれた歴史〈小説〉…なのだ。ところがそこに、作者自身の葛藤(想像してしまう…!)が絡まってくるのが何ともいえない妙味で、思わずにやりとしてしまう場面もところどころ。
 そしてパラシュート部隊の登場から先は、作者の思い入れも相俟って目の離せない展開となり、のめりこみめりこみ読み耽ったことよ。とりわけ時空を飛び越えて二人の青年パラシュート部隊員に憑依する件は、兎に角圧巻(息も吐けないよ…)。

 余計な肉付けをしない上で〈金髪の野獣〉を浮き彫りにさせていく筆致、プラハの街に焦がれる思い、なぜこの本を書くのか…という問いとその答え。どれもがずしりと胸に迫った。

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