ハリー・ムリシュ、『過程』

 『天国の発見』が素晴らしかったので、さっそくこちらを読んでみた。『過程』の感想を少しばかり。

 ずっしりとした読み応え。人による生命の創造という、神の領域に踏み入る傲慢の罪を問い、その罪を侵した者たちが如何にしてその代償を贖わされることとなったか…を描いた物語だった。大作の『天国の発見』に比べるとやや物足りないものの、特に後半の展開が好きだった。
 冒頭からさっそくの読み手を蹴散らさんばかりと言うか、ふるいにかける…ような一筋縄ではいかない語りが始まるので、思わずにやりとさせられてしまう。まずは創世記の話から始まり、さらにヤハウェ自身が使用したという謎めいた手引書〈創造の書〉に関する記述へと移り、そこの箇所を大人しく読んでおいてからいよいよ物語は幕開け…となるのである。
 一つ目の物語の舞台は16世紀のプラハ。そこで語られるのは、神聖ローマの皇帝ルドルフ二世の気まぐれな命を受け、禁忌のゴーレムづくりに励まねばならない窮地に立たされたユダヤ人の聖職者の顛末である(これは短いが面白かった)。そして二つ目の物語は、20世紀の科学者が自分の娘宛てに綴った何通もの手紙から始まる。エオビオントの研究によって可能となった人間の手による生命体の創造。科学者ヴィクトル・ウェルカーの、その発見についての罪の意識の希薄さ(重大性に気が付いていないかのような…)と、ヴィクトル自身が抱えた個人的な苦悩の深さとが対照的であるという印象があった。
 中盤辺りを読んでいた時には、科学者ヴィクトルの強い悔恨と自責の元となった出来事を知るにつけ、なかなかその思いに寄り添えず気持ちが離れかけた。けれども風変わりな三つ子との再会を果たした会食あたりから徐々に展開が幻想性を帯び、そこからがとてもよかった。

 カフカの『審判』へのオマージュ作品ということで、所々に繋がりを示唆する仕掛けがあるのだが、そこの分かり難い巧妙さが堪らない。
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