7月5日

 @rinakko
 「属性は細分化され、攻守のバランスが調整され、得意技が設定され、闘字のルールは複雑化していきました。今でもそうしたやりかたを好む方も多い。しかし、誰かがふと我に返ったのですな。文字とはそういうものではなかったのでは、と」

 円城塔 「闘字」(『文字渦』)
 #2020page0705

 @rinakko
 もし自分をもっと抑えて、想い出の流れをじっくりコントロールできれば、あなたは大作家になるかもしれないわね。ただね、あなたは自分を抑えられない、だから話の筋をもつれさせて、にっちもさっちもいかなくなるのね。

 ミルチャ・エリアーデ 『ムントゥリャサ通りで』

 @rinakko
 そう、バベル・ダークは月が好きだった。わが不毛の岩、月のことをそんな風に呼んで、自分はあそこでなら幸せになれるかもしれない、あの太陽の蒼ざめた寄宿人でなら――そう言っていた」

 ジャネット・ウィンターソン 『灯台守の話』

 @rinakko
 霊感は神聖な炎であり、書くことは俗世の氷である。霊感はスピードであり、書くことは遅滞である。霊感は欲望にしたがい、書くことはその苦行にしたがう。

 ジャン=ミシェル・モルポワ 「詩的霊感について」(『見えないものを集める蜜蜂』)

 @rinakko
 まさに、星のような鉱物がある。すぅーっと夜空を流れるホウキ星のようなスコレス沸石(フッセキ)と、“星”を名に冠した、惑星のようなスターマイカ。

 フジイキョウコ 『鉱物アソビの博物学 鉱物見タテ図鑑』

 @rinakko
 いつまでも小惑星でいると思うな。今に、惑星にぶつかってやる。いや、恒星だって怖くない。――威勢のいい啖呵(たんか)が聞こえてくる。お前たちなど、ブラックホールに呑まれちまいな。

 高柳誠 『放浪彗星通信』

 @rinakko
 「われはムトンさまの献身的な奴隷なり、われは召使なり、奇特にも、われはムトンさまの王国に在りて、彼のひとはわが君なり」

 A・P・ド・マンディアルグ 『猫のムトンさま』

 @rinakko
 ここまで書いてきてふと思ったのだが、翻訳もこの蘇生術に関わっているところがあるように思われる。つまり、思い出すことによって亡くなった人がよみがえってくるように、記憶の底に埋もれている言葉を目覚めさせ、よみがえらせる方法が、思い出すことではあるまいか。

 木村榮一 『翻訳に遊ぶ』

 @rinakko
 ブヴァールは螺旋菅の蛇口を閉めて、缶詰の方へ駆けつけた。完全な失望であった。仔牛の肉片はまるで靴底を茹でたみたいだし、海老はどろどろの液体に変わっている。魚のワイン煮はもはや元の形をとどめていない。スープの上にはキノコが生えており、耐えがたい悪臭が実験室を満たしている。

 ギュスターヴ・フローベール 『ブヴァールとペキュシェ』

 @rinakko
 座長 しかし、よくやりますね――ええ?――こんなやり方で私に見せるとは……
 父親 お分かりいただけると思います。私どもは舞台のために生まれまして……
 座長 あなた方はアマチュア劇団の方ですか。
 父親 いいえ。つまり、舞台のために生まれたと言いますのは……

 ルイージ・ピランデッロ 「作者を探す六人の登場人物」(『ピランデッロ戯曲集Ⅱ』)

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