ぬうむ、しげる(向井理さん)が請け負ってきたのは少女漫画でしたか(@『ゲゲゲの女房』)。
リアル水木しげるさんも貸本時代は別名義で、女性のアシ使って少女漫画を発表していたというし、史実に基づいたエピなのですが、“原稿料を半額値切られたことより、古くさいとケチつけられたことより、「あなたの名前では売れないから別名、従って新人扱いのギャラでなら仕事あげる」まで貶められながら黙々と描いてきた夫の気持ちが傷ましい”と帰途の境内で涙する布美枝さん(松下奈緒さん)の妻心の話にまとめました。
でも帰宅するときには、吹っ切って笑顔で夫の好物のコーヒーを買い、夫も「あれ(=変名)も作戦のうちだ」「名前を変えても、漫画を描いて生きて行くことは変わらんのだけん」とさらっと前向き。この夫婦は揃って、手詰まりかなという局面で次善の策、次々善、次々々善…の策をとって、まずは打開して前に進むことにためらいがないのがいいですね。
それでいて、“本当に自分が描きたい、自信のある漫画はこれだ”という基本線を夫は崩さず、“うちの人が打ち込んでいる大事なお仕事、心ゆくまでやってもらいたい”という妻の思いも不動。朝から貧乏苦労物語なんてこのご時勢にどうなのよ?という当初の大方の懸念を、いまのところ、“とにかくぶれない”という爽やかさ一本で押し切っています。
そういや布美枝さん、安来時代に、チヨちゃん(平岩紙さん)に頼まれてインスタントラーメン実演販売をお手伝い、人だかりにテンパっちゃって散々な結果に終わり、「外でお仕事も難しい、このまま家事手伝いでもいけん」と、新製品のインスタントコーヒーで休憩しながら「ニガいなあ…」と溜め息ついていたこともありましたっけ。いまは愛する旦那さまが淹れてくれる“砂糖幾つ入れたか忘れてしまった”あまーいコーヒーで乾杯。商店街の“純喫茶・再会”もなんだかんだで重要な場面転換、心理スイッチ切り替えスポットになっているし、しげるさんの好物“コーヒー”は今後も小さなキーアイテムになりそうです。
昭和37年の貸本漫画界の記憶は月河もさすがにありませんが、昭和40年代前半の週刊・月刊の少女漫画誌なら、結構、男性の漫画家さんで思い出す名前や絵柄がありますよ。手元に資料が無いのですが、週刊マーガレットでは学園もの、戦争体験ものの鈴原研一郎さん、怪奇ものの古賀新一さん。ギャグでは石森(←当時)章太郎さんの『さるとびエッちゃん』なんか好きでしたね。
週刊少女フレンドではいまもご活躍の楳図かずおさんが『まだらの少女』『ミイラ先生』などでトイレに行けない夜を幾晩も作ってくれたし、あしたのジョーのちばてつやさんはスターを目指す少女の芸能界バックステージものを描いていた。ちょっと後の年代では実写ドラマにもなった望月あきらさんの『サインはV』も。
月刊の、りぼんでは松本零士さんが愛犬・動物ものをよく描いておられたような。のちに牧美也子さんが奥さんだったと知って驚いたっけなあ。ちょっと脱線。
同じく月刊のなかよしでは、手塚治虫さんの『リボンの騎士』が読めましたが、完結までは行ったのかどうか。
子供心に、男性名前の漫画家さんのは総体的に「地味だなあ」という印象はありました。『ゲゲゲ』のスーパー嫌味・春田社長(木下ほうかさん)の言うように「古くさい」と論評する目は、いままさに漫画読み始めたばっかりのガキですからもちろん無いのですけれど、どうも“華”がないのですね。少女漫画の代名詞“おメメに星キラキラ”も少なめで、女の子があこがれるようなかわいい顔、真似したいおしゃれな服装髪型のヒロインが出てこない。とりわけ月河が好きだった、国籍不明時代不明のお城や洋館、舞踏会やお姫さまドレス満載のお話が、男性漫画家には無理だったようです。唯一『リボンの騎士』でシルバーランド王室や貴族を描いた手塚さんは、例外的に宝塚少女歌劇が近隣だった幼児体験が役立ったのでしょう(それでも女性漫画家の諸作に比べればかなり地味でしたが)。
いま考えてみれば、昭和40年前後にすでに大手誌に寄稿していた漫画家さんで男性ならば、軒並み戦争体験世代だったはずです。ちょっと年かさならば水木しげるさんのように従軍経験があっただろうし、もう少し若ければ軍国少年、軍国青年として、お国のために立派な兵隊さんになりなさいと教育を受けたはず。
こういう男性たちが戦後、好きで志して、あるいは成り行きで漫画描きになった場合、「女の子にうけるようなものを」と要求されたって、やはりお話もキャラも絵柄も、リアリティや切迫感、切実さの桎梏から逃れられないのは当然だろうという気がする。恐怖怪奇もの、戦争体験もの、動物もの、スポーツ根性もの…といった、少女誌内での男性漫画家さんたちのテリトリーは、“女の子向けでも、この方向性で、ここまでなら自分の持てる技でどうにか”という、彼らのギリギリの打開策であり妥協ラインだったのかもしれません。
さて我らがゲゲゲしげるさんは、ガード下で落ちぶれた富田社長(うじきつよしさん)と再会、国交断絶したはずなのに背に腹はかえられず虎の子の新作『河童の三平』を預けてしまいましたよ。シリーズで8巻出すから10万円、支払いは3ヶ月後にって、豪快というよりホラ話みたいな約束、どう考えてもスベるような気がするんだけどなあ。富田書房、事務所のドアのガラスもなくなって、ハトロン紙みたいの貼ってるし。手形に弐拾円の収入印紙貼って割印してあったけど、あの印紙さえ本物かどうか怪しい。よく事務所の電気が止められなかったものだ。
デビュー作を出してくれたとか、過去の恩義に関してはしげる、妙に義理堅いからなあ。
布美枝さん、いっそのことその手形、街金に持ってって割り引いてもらって現金に換えたらどうでしょう。社長がガード下でやさぐれてるような会社が振り出したんじゃ、落ちても割れない鉄板手形かな。
そう言えば、今年度下期の朝ドラのタイトルは『てっぱん』だそうで…って、さすがに関係ないか。