別所沼だより

詩人で建築家 立原道造の夢・ヒアシンスハウスと別所沼の四季。
     

空蝉

2007-08-11 | 別所沼だより


 
        天界に散華きらきら蝉の昼         誓子



  別所を、 怒濤のような蝉時雨が見舞った。  暑さに負けずハウスガイドをする。 おびただしい脱け殻がメタセコイアの枝先や 幹に連なるように留まっている。 そんななかを、 流汗淋漓を気にもせず、 せっせと 「ぬけがら」を集める人あり。 大きなゴミ袋に、かなり貯まっていた。   すわ  佃煮…    唐揚げ…  
    せみの種類と分布を調べるのだそうだ。     あな 恥ずかしや~



         空蝉の一太刀浴びし背中かな       朱鳥



  背中の痛々しい傷口を、 厳粛な気持ちで眺めた。  手の平の空蝉は、 短い命の誕生を意味していた。  なんと切なく、 はかないことだろうか。 



  彼にもへその緒はあるか、 殻の中に白い紐のようなものがくしゃくしゃとまとまっている。 
  殻とからだを固定していたのか。  
   


  これほどじっくり見ることはなかった…
  裏に返すと人の指紋のように、 腹の襞や起伏、 手足そのままの形が、 そっくりのこっている。 種類によって襞の間隔など異なるのだろうか。 目の部分だけが透明で、 電球のようにきらきらと光る。 その異様さに身震いした。 眼の痕だけが生々しく、 空蝉は訴えるように迫ってきた。


  騒音だと思えた蝉の声も、 なにやら愛しく、 精いっぱいの謳歌が身にしみた。 じっと聴いていると、 自分の頭のなかが鳴っているような感じなのだ。     



  梅雨が明ける頃  まず小形の「にいにい蝉」 がお出ましになり、 次に大きな「油蝉」 がジージーとつよく唱いはじめ、 みんみん蝉も伴奏してくる。  最近では別所に「熊蝉」 も加わったらしい。 
  シャーシャーと喧しいというが、 まだ聞いていない。 



    室内  気温35℃ 無風    来訪者 5名  
  
 
        夏雲の湧きてさだまる心あり        汀女


 
 
  
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする