地球散歩

地球は広いようで狭い。言葉は違うようで似ている。人生は長いようで短い。一度しかない人生面白おかしく歩いてしまおう。

2010-04-09 00:00:00 | トルコ語

bahar(バハル)

トルコの春。早春の候、まだ明け切らぬ冬空と満開のアーモンドの白い花弁が織り成す淡い色合いも印象的だが、トルコの春の花と言えばやはりチューリップであろう。春先に訪れたイスタンブルの公園では、規則正しく並んだ赤いチューリップの群れが印象的だった。私が住んでいたイランでは、公園や街路に植えられる花々も、同じ種類のものを並列する形ではなく、バラバラの種類の花を半幾何学的に、実に統一感を持った形に纏め上げていたため、トルコのこの「きまじめな」ガーデニングが、かえって印象的であった。

このチューリップの群れの中を、「チューリップ」の歌さながら、赤・白・黄色のスカーフを頭に巻いた3人の若い女性が闊歩していた。イスラム的服装ながら、とても上手にお洒落をした女性たちの姿は、春のリズミカルな空気の中でひときわ華やいで見えた。

チューリップと言えば思い出すのが、国境の街エディルネの丘に佇むセリミエ・ジャーミィ(モスク)だ。このモスクは、トルコの壮麗な建築物の数々を建立した偉大な建築家シナンの最高傑作。オスマン朝の宮廷に仕えたこの建築家が、晩年になって建てたこのモスクのミンバル(説教壇)には、「逆さチューリップ」が刻まれている。かつて野生のチューリップの赤い絨毯で覆われていたこの丘に、如何にしてシナンが辿り着いたか、彼の信仰心と芸術家としての情熱の結晶であるセリミエ・ジャーミィの佇まいとトルコのチューリップ咲き乱れる春を、作家の夢枕獏氏が、崇高なる歴史絵巻を通して描き出してみせた(『シナン』中公文庫)。

オスマン朝にてもて囃されたトルコ原産の花チューリップは、やがてオーストリアを経由しヨーロッパに伝わり、そこでも人気を博すこととなった。チューリップ、その名前の由来は、オスマン朝の君主が被るチュルバン(ターバン)が誤って伝わり、音写されたところに遡る。花の歴史にドラマあり。春まだき、花弁がぷっくりとターバンのように膨らんだ赤いチューリップの花を眺めながら、日本の童謡に出てくる平和なチューリップの光景ではなく、血塗られた歴史の足音を聞いた気がした。(m)

*チューリップをはじめ、トルコの花については、碧が以前書いた記事を参照ください。そしてチューリップと言えば、オランダ

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9 コメント

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イランと同じ (hekmat)
2010-04-09 16:47:29
春はペルシャ語と同じなんですね。
やっぱりおとなり!
バハル、アラビア語だと「海」です。
イスタンブール辺りだと花咲き乱れる公園から、きらめく春の海が見えそうですね。
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ガーデニング (さらさ)
2010-04-09 19:17:12
「バラバラの種類の花を半幾何学的に、実に統一感を持って纏め上げていた」というイランのガーデニング、どんな風なのかしら。見てみたいなぁ。
私はベランダで小さなガーデニングをやっていますが、色、種類、大きさなどが異なる花をセンス良くまとめるのは難しいといつも感じています。

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hekmatさん、さらささん (mitra)
2010-04-09 22:06:29
hekmatさん
そう。ペルシャ語とトルコ語は同じ単語がたくさんです。
ペルシャ語を先に学んだから、アラビア語でバハルを習った時は違和感があったなあ。
そして、まさにこのチューリップ畑があったギュルハネの公園からは海が見下ろせます!

さらささん
↑わかりにくい表現でしたね。
ペルシャ絨毯の模様を想像して頂くと少しはイメージが湧くでしょうか?イラン人の美的感覚(バランス感覚)は本当にすばらしいものがあります。様々な種類の花を一緒にセンス良く植えるのって、案外難しいですよね。絵心が問われるし。でも、モザイク画を習っていたさらささんなら、とても上手に配置ができそう。
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Unknown (yokocan21)
2010-04-10 06:50:38
おぉ、チューリップですね♪ ちょうど私もチューリップをUPしたところです。ただ今イスタンブルは、チューリップや春のお花で、百花繚乱です。
「きまじめな」ガーデニング、ほんと、そう言われてみるとその通り。あれはあれで綺麗んですけど、イランの独創的なお庭って、一度見てみたいです!モスクや絨毯も、イランのは柔らかい曲線で女性的な感じですよね。トルコは、質実剛健でしょうか。

私からもTB,送らせて頂きますね。



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yokocan21さん (mitra)
2010-04-10 17:33:08
yokocanさんの記事、見てきました!春のイスタンブル、なんだかわくわくしますね!イランは春の花が咲き乱れていても、なぜかあの明るいイメージが希薄なのですよ。
だけど、イラン人のガーデニングのセンスはやはりすばらしいです。しかも、作業着を着た市役所のおじさんがその作業にあたっていることが多いのですが、その風貌や丸くて太い手から、あの繊細なデザインが生まれるのが信じられません。そうそう、yokocanさんがおっしゃるとおり、トルコ文化は男性のイメージです。
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Unknown (タヌ子)
2010-04-11 08:12:41
ザグレブでもチューリップが花市場の主役になってきました。
チューリップは中東が原産なんですね。
日本ではオランダのイメージが強すぎて、すっかりヨーロッパの花と言うイメージが強くなり、原産国の影が薄くなってしまっているのが残念。
セリミエ・ジャーミィ、wikiで見てきました。
シナン自信が最高傑作と言うモスク、ギリシャ国境のすぐ近くだったのに、見学できなかったのが実に残念。
同時にコルドバのメスキータも再訪したくなりました。
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タヌ子さん (mitra)
2010-04-11 11:13:06
原産国とそれを広める国って決して同じではなく、どうしても「広めた」国のイメージが、世の中では植えつけられてしまいますよね。バラがイランの辺り原産であるのに、ブルガリアのイメージが強かったりするのもやはり同じでしょうか?でも、時代が進むにつれ、こういったイメージも少しずつ変わっていくものでしょうね。
ザグレブの市場も見てみたいなあ。クロアチアを訪れたのは夏だったので、どうしても夾竹桃一色のイメージがあって。

早速wikiを参照されるとは、さすがタヌ子さん!エディルネはギリシャ・ブルガリアとの国境地帯なので、ブルガリアからの移民も多いんですよ。そして、たくさんのジプシーが住んでいます。
メスキータ、私も再訪したいなあ。
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Unknown (miriyun)
2010-04-13 07:55:16
高さも種類もバラバラなペルシア、
きまじめなトルコ、
それぞれのガーデニングの特徴は、気がつかなかったしとても興味深いものです。

ミニアチュールと絨緞とタイルと~それらの中に民族の好みや文化背景が含まれていそうです。春に行ってみたい気持ちがより高まりました。
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miriyunさん (mitra)
2010-04-13 22:02:18
miriyunさんは様々なイスラーム世界の風景をファインダー越しに覗かれているから、花のある風景にはきっとなじみがありますよね。
そして、ミニアチュールの例を出してくださったことに感謝!ペルシャの庭園や植物の植え方のスタイルは、まさにミニアチュール的だと思います!幾何学模様の絨毯やアラベスクを模しているのもそうですが、もっと絵画的な要素が入っていて、それが周囲の国とは違う、イラン独自の特徴かと。尤もミニアチュールが、もともと在ったそういうペルシャ的光景を切り取っているのだとも言えますが。
インスピレーションを与えていただきありがとうございます。
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