زمستات(ゼメスターン)
イランの冬は寒い。今年に入ってイラン全土を襲っている寒波は、既に30人近くもの人々を死に追いやっている。私が住むテヘランでは連日氷点下10℃の日々。イラン北部ではマイナス40℃近くにまで気温が下がった地域もある。連日の雪と、刺すような空気は身体に堪える。ただひたすら春が待ち遠しい。
さて、以前ギリシャ語の「冬」で、「デメテルとペルセポネ」の神話を扱っていた。そこで、私も今回ペルシャ語の「冬」を書く際、豊富に残る神話群の中から何かおもしろいエピソードを見つけ出し、綴りたいと思った。
冬が訪れる「理由付け」の神話ではなかったが、周囲の民族の神話とも関連するおもしろい噺が、ふと頭に浮かんできた。
古代ペルシャの民族的宗教であったゾロアスター教。その文献のひとつ「ウィーデーウダード」に、神話時代の王・イマに関する記述がある。このイマ王も、以前に書いたミトラ(ミスラ)同様、インド=イランに共通する人物で、インドではヤマといい、それが仏教に入ると閻魔(エンマ)大王になる。しかし、この話は長くなるので、これ以上のことは書かない。
イマ王は、ペルシャの黄金時代の理想的な王と考えられている。千年間地上を支配し、彼の統治中、世界に虚偽・病気・飢餓・死は存在しなかった。
しかし、「あらゆる人間と動物を死滅させる恐ろしい冬が三度に渡って襲ってくる」と、突然に創造主から告げられたイマ王は、「ワラ」と呼ばれる巨大な洞窟を作った。そしてその中にあらゆる家畜・植物・人間の種を入れ、厳しい冬の後、再び世界が繁栄できるようにした。
おや?どこかで似たような神話を聞いたことがないか。
そう。勿論、「ノアの方舟」である。
実は「ウィーデーウダード」が編纂されたのは、キリストと同じ時代。おそらく「ノアの方舟」と「ワラ」の物語は、同じセム系の洪水伝説に起源を持っていると思われる。
そしてイマ王が関係する「洞窟」という暗い場所は、インドのヤマ王(後には閻魔大王)が地下界と関係性を持つようになったこととも無縁ではない。
イランの冬は厳しいが、その後には新緑と花々で鮮やかにに彩られた春が待っている。
春の始まり(新年)に関係するのも、やはりイランの神話ではこのイマ王。
春になる頃、再び『地球散歩』で、イマ王の神話に言及したい。(m)
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