地球散歩

地球は広いようで狭い。言葉は違うようで似ている。人生は長いようで短い。一度しかない人生面白おかしく歩いてしまおう。

パン

2007-11-29 11:41:08 | つれづれ帳

 Brot(ブロート・ドイツ語)

 ペルシャ語「本」にてゲーテが出てきたところで、『地球散歩』初めてのドイツ語が登場、テーマは詩の世界から食へ。ドイツはビールとソーセージだけではない、パンの国でもある。大型パン300種、小型1000種以上というのは、原材料の小麦に配合するライ麦の微妙な割合によって、また地域の特色あるレシピによって数多くのパンが生まれるそうだ。そして消費量もヨーロッパ一番。「塩とパンはほっぺを赤くする」ということわざがあり、健康的な食生活の基本となっている。そのようなパン文化の担い手であるパン職人は、厳しい修行と国家試験によって認定された称号「マイスター」にふさわしい仕事をする仕組みになっている。

 世界の味を貪欲に輸入する日本には、近頃ドイツからマイスターを招いていろいろなパンを焼く本格的な店も増えているようだが、よく知られるのは数種類。酸味が特徴で、どっしりとしたライ麦パン、コーヒーショップのサンドイッチに用いられるカイザーゼンメル、スナックのプレッツエルくらいだろうか。

 ライ麦パンは主にドイツ北部が主流。カイザーゼンメルは表面に星形の切れ目があり、ゴマやケシの実がついている。オーストリアから入ってきたもので、今はドイツ西部の代表的なテーブルロールだ。外観が王家の冠に似ていることを皇帝に褒められ、カイザー(皇帝)という名になったというエピソードがある。プレッツエルはハートのような形に編んで焼き上げたパン。かつては大きく焼いてパン屋の看板としても使われた。プレッツエルを小さく固く焼いて塩をまぶしたものはスナックの代表。ビールのおつまみとしてドイツ人に愛されているもので、ルフトハンザ航空に乗った時の軽食がやはり、袋入りのプレッツェルだった。

 ドイツへの私のこれまでの旅はほんの数日。最も印象に残っているパンは、ソーセージを焼く香ばしい匂いに誘われて食べた屋台のホットドックである。素朴な白パンに焼きたてのソーセージをはさんだだけなのに、とびきりの美味しさであった。プリッとして肉汁がジュワッの魅力は言うまでもなく、それを包み込むパンのレベルが高い。屋台とはいえソーセージとのハーモニーはまさにパンの国の御馳走だった。(さ)

 (参照 ドイツ大使館HP,製粉振興会HP)

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2007-11-22 16:05:13 | ペルシャ語

کتاب (ケターブ)

イランでは古来より、文字の形を取らない伝承も盛んであったが、今に残る多様な文献群は、イランのみならず周囲の国々の歴史を伝える上でも一役買っている。しかし、イランで本と言ってまっ先に思い浮かぶのは、なんと言っても詩集である。
美しい韻律を持つペルシャ語の詩の行間からは、芳しい薔薇の香、繊細な微分音に彩られた美しい旋律、モスクの壁面に描かれた華麗なアラベスクが、宝石のように光り輝きながら零れ落ちてくる。そう、ペルシャ詩はイランの豊穣な文化の全てを体現していると言っても過言ではない。
美しい韻を踏むペルシャ詩を一度声に出して読んでみると、その魅惑的な音の洪水に溺れ、言葉から溢れ出す美酒に、ただただ身を任せたい誘惑に駆られるのだ。

イランの歴史を通して世界的に有名な詩人は多数いるが、一般的にサアディー、モウラーナー(ルーミー)、ハーフェズの3詩人が、イランの三大詩人と捉えられている。その中で、今日はハーフェズをご紹介しよう。

ハーフェズは、14世紀の詩人。薔薇の香り漂うイランの古都シーラーズで生を受け、生涯に渡って故郷を離れることはなかった。クルアーン(コーラン)の全てを記憶していたことから、「ハーフェズ(クルアーンを全て暗誦できる人)」の名を持つ。彼は神秘的・叙情的な内容の「ガザル」という形式の詩を数多く残している。ゆえに「神秘の翻訳者」という称号も持つ。ハーフェズの詩は解釈が難解ながらも、彼の言葉が紡ぎだす音の魅力そのものにイラン人は酔いしれるのである。

「イランの家庭には、クルアーンなくともハーフェズの詩集あり」と言われるほど、ハーフェズの詩はイラン人の心を捉え、日常生活に溶け込んでいる。
「ハーフェズ占い」をご存知だろうか。彼らは、日常のあらゆる場面でハーフェズの詩集を手に取り、開いたページで未来を読む。
イランに住んでみて驚いたのは、この「ハーフェズ占い」が、道端でおみくじのような形で売られていること。ハーフェズの詩の一篇がしたためられた袋綴じの小さな紙片を売り歩く、子どもや老人の姿を通りではよく目にする。たくさんある紙片の中からお客に一枚選ばせ、運勢を見るという方法。まさに「イラン版おみくじ」であろう。
この簡易版ハーフェズ占いでは、難解な詩の下に、なんと常用ペルシャ語による「翻訳」まで付いている!

ハーフェズの詩に影響を受けて大作を記した西洋の詩人がいる。
それは、あの偉大なドイツの詩人、ゲーテ。有名な『西東詩集』は、ゲーテが自らの晩年、ハーフェズの詩集を読み感銘を受けて綴った詩集。中でも、イランの神秘主義詩にしばしば登場する、「蝋燭の炎に自ら飛び込み我が身を焼いてしまう蛾(神への激しい憧れを表す暗喩)」をモチーフにした「昇天のあこがれ」は、『西東詩集』の中でも最高傑作に数えられる情熱的な詩篇である。[m]


一月に公開されるイラン=日本合作映画『ハーフェズ ペルシャの詩(うた)』で、ペルシャ詩の美しい韻律に溺れてみては如何?『地球散歩』へのクリックもお忘れなく!
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パン

2007-11-16 13:38:04 | イタリア語

 Pane( パーネ)

 イタリアのパンは歴史も古い。メソポタミアからエジプト、ギリシャへと伝わる中で発酵技術が進んでローマに至る。ポンペイ遺跡の発掘では、パン工場や金持ちの邸宅のパン焼き場が見つかっているし、ローマ市内にも多くのパン屋があったそうだ。料理を地方色豊かに、多彩にしている長靴型の地形は、風土により様々なパンの味を生み出してきた。かつては、足を運ばなくては味わえなかった味も近年のイタメシブームで日本に上陸、お馴染みのものも増えてきている。

 細長い棒型でクラッカーのような「グリッシーニ」は16世紀のトリノが発祥。病弱な王子が医師から食生活の改善を指示され、御用達のパン職人が消化の良い粉で発酵して焼き上げた。食べやすい形とサクサク感が好みにあったせいか王子は健康で立派な王になったそうだし、当時の貴族の間でも人気のパンとして広がったというエピソードを持つ。

 ミラノ生まれの「パネトーネ」は、クリスマス時期ならでは。コモ湖周辺の自然環境で生まれた天然酵母を使い、長時間発酵させて焼いている。大きなパン(パネトーネ)という意味の通り、大きな円筒形のパン菓子である。柔らかい中にも弾力があり、たっぷりの干しブドウと砂糖漬けフルーツがケーキと違った独特の風味を楽しませてくれる。もう一つ、フルーツを入れず卵とバターをたっぷり使ってギザギザ型に焼き上げたのはヴェローナ生まれの「パンドーロ」で、金のパンという意味。初雪を思い起こさせる粉砂糖をたっぷりまぶして食すのが、いかにも冬の風物という感じだ。

 他、「パニーニ」や「フォカッチャ」という名前も珍しくなくなった。しかし「ロゼッタ」だけは、さすがの日本でも流通していない。薔薇の花という優雅な意味を持つローマの名物パンである。表面に切れ目があってパリッとした焼き上がり、中が空洞なのが特徴だ。旅行中はホテルでロゼッタとカプチーノが朝食の定番。バターだけでも勿論いけるが、横に切って空洞部分に生ハムやモツッアレラチーズなどを挟んだら立派な軽食になる(写真)。小さい頃、ローマに住んでいた友人はこのサンドイッチを持って現地幼稚園に行っていたそう。いかにもイタリアっ子のお弁当!友人の中では特別な思い出のパン、日本で簡単に手に入らないから旅で再会した時の喜びはひとしおになる。(さ)

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2007-11-11 23:54:49 | スペイン語

 Arroz(アロス)

 スペインの米料理と言えば、誰でも思い浮かべるのはパエリア(Paella/パエジャ)であろう。正式な名前は「アロス・ア・ラ・バレンシア」(Arroz a la Valenciaバレンシア風米料理)。
 パエリアが世界的に有名になった理由なぞ、私は考えた事もなかったが、サマセット・モームの本を読んだ人々が、こぞって食べに行ったからだと知った。
 『月と六ペンス』など有名な著作のイメージが先行するモームだが、ジェームズ・ボンドで有名なMI6に所属していた事もある。そんな彼がヨーロッパに持ち込んだ禁断の食べ物が、パエリア。
 モームによると、「バルセロナからマラガにいたるすべての沿岸地方で賞味されている。アンダルシアでは「パエリャ」と呼ばれる。まずいことは決してなく、ときとして信じられないくらいうまい」という。このバレンシア地方の米料理は、天才的イスラーム教徒の発明か、イスラムの主婦たちの台所で出来たものか知りたいという。」
 バレンシアのアル・ブフェイラ地方では、(Albufera/これもアラビア語源で湖)特に美味しいパエリアにありつけるそうだ。水田地帯でもある、この湖水地方のパルマール村(El palmar)では、湖で取れるうなぎのパエリアが名物だそうだ。
 米のスペイン語はアロスで、アラビア語源である。また、バレンシアが、イスラームの国であったことから、モームはパエリアは、いずれにしてもイスラームの持ち込んだ食べ物だと思っていたようである。
 私はいずれのモームの考えにも異存はない。しかし、アラブにパエリアと同じような料理があるかと言えば、未だ食したことはない。エジプト人に「パエリアを食べに行こう」と連れて行かれたことはあるが、それはやはり「スペイン料理」で、パエリア鍋でサーブされた。
 では、スペインとアラブの米料理がまったく違うかと言えば、そうでもない。米を炒めてから、水を入れて煮るのは、やはり米の到来と共に、調理法が伝えられたと考えられる。
 螺鈿でも何でも、アラブの発明とデザインはまことにすばらしい。しかし、それを芸術的な域に高め、更なる美の強調をやってのけたのがスペイン人と、スペインに定住したイスラームの民であると思う。
 パエリアの美しい彩と、魚介類と野菜の配列は、やはりアラブの食が昇華して芸術として出来上がったものだと思う。
 しかし、この美しいパエリアが、スペイン全土でどこでも食べられる今、私が食べてみたいのは、漁師料理の、売り物にならない魚をふんだんに入れて出汁をとっただけの、アロス・ア・バンダ(Arroz a banda/米は別にして)という、具のないパエリア。
 タダより高いものはない…出会いを楽しみに旅を続けたい。[a]

参照 『ドン・フェルナンドの酒場で』W サマセット・モーム 原書房

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2007-11-05 10:01:14 | ギリシャ語

βουνο(ヴノ)

 青い海と島の白い街、パルテノン神殿はギリシャの代表的な風景。一方、内陸にある多くの山岳地帯と豊かな自然というのは、あまり知られていないもう一つの美しい風景である。ゼウスを頂点とする神々の住処である霊峰オリンポス山をはじめ、神話の舞台となっている山々が各地に点在、アテネ近郊の小さな山でさえ緑陰を作る森と野生の花々があり、憩いと癒しに溢れている。また地方においては酪農、農耕を基本とした伝統的な暮らしをする人を守り、蜂蜜、ハーブなど山の恵みを多くの人々にもたらす。山は、かけがえのない場所。

 今年の8月末に起きたギリシャの山火事は、多くの山と緑を焼き尽くし、そこに生きる人々の暮らしを奪った。テレビに映し出された燃えさかる炎に胸が塞がれ、全土で184000ヘクタールもの土地が灰になったと知って愕然とした。

 友人に手紙やメールを送り、祈るだけしか出来ないもどかしさを感じていた時、山火事被害に対して「森林の再生と保護」を主軸とした支援プロジェクトがあることを知った。内容は、画家・かわまさしょうこさんが10月に東京で行った展覧会において販売した絵葉書の収入を現地の非営利団体を通して寄付するという活動。絵葉書になったのは、勿論、かわまささんが愛してやまないギリシャの風景である。

 「百年の木の下で」と名付けられた活動は沢山の方々の協力と反響を呼び、展覧会の会期終了後も絵葉書の販売が継続されることとなった。現在も幾つかの書店やギリシャ料理店で購入が可能、また遠隔地の場合は、かわまささんを通して郵送してもらうことができるそうだ。私も早速お願いし、送っていただいた。

 絵葉書を眺めるとギリシャらしい光と風、街並みや人々の息づかいを感じることができる。ギリシャに魅了されて通い続ける中で「彼らの住む土地の美しさをじっくり眺めるために、また美しい場所がいつまでも変わらずにあるよう願いつつ描いた(かわまささんの言葉より)」という思いや願いが伝わる、あたたかな画風だ。

 アートを通して一人一人の気持ちが形になっていく。『地球散歩』を訪問してくださる多くの方にもギリシャへの思いが届き、更に広がっていきますように。(さ)

*写真は中央ギリシャ 残雪をいただく山々に抱かれたドドーニの遺跡。

 問い合わせ先  hyakunen-noki@hotmail.co.jp  かわまささん または辻さん 絵葉書は4枚1組で600円。メール便で送料が80円、10セット以上は無料。

 ブログ『ギリシャへ そして ギリシャから』 http://blog.goo.ne.jp/lesvosolive プロジェクトの内容や絵葉書販売にご協力いただいている店舗の詳細、ギリシャのニュースなど。

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