羊
茶道を習って十年も過ぎると小さな茶道具が手許に集まる。その中から春なら桜、夏は波に千鳥・・と季節に合わせた道具を選んで組合せ、自宅で薄茶を点てて飲んだり、稽古で使う身の回りの道具を整えたりしている。
写真は、客人に道具を見せる折に敷いて用いる古袱紗(こぶくさ)。茶会では茶碗を運ぶ時に活躍する。道具を清めるために使う緋色の布(袱紗=ふくさ)の四分の一の大きさ(15 ×16㎝)で、袱紗が無地なのに対し、名物として伝来した裂(きれ)を写した華やかな織物である。小さくて値段も手頃、集めるには最適なアイテムだ。
日本の伝統柄が多い古袱紗の中で異彩を放つのが写真の一枚。向かい合う羊と樹の組合せは「花樹双羊文」と呼ばれるものである。聖なる樹を中心に動物を左右対称に置いた構成は、木の下の聖地や楽園で動物たちが清められ、祝福されるという意味を持つササン朝ペルシャの重要な文様。これがシルクロードを経て天平時代に日本に伝わったそうで、正倉院には聖樹と象、鹿、羊、鳥が配された宝物が多数ある。昨年の正倉院展で、羊と聖樹をろうけつ染めで仕上げた屏風が話題になったことは記憶に新しい。そして、ペルシャ語「弦楽器」の記事でシルクロード、正倉院のことが出てきたばかりでもある。
写真は「茶杓荘(ちゃしゃくかざり)」というスタイルの茶の点て方。茶杓とは抹茶を茶入れや棗からすくい出すスプーンだ。道具の中で茶杓に由緒がある時に古袱紗にのせて拝見に出すと、普通は畳に直接置く茶杓が、ぐっと存在感を増して見えてくる。ペルシャ由来である羊文様のエキゾチックな雰囲気と簡素な竹の茶杓という道具組みが、現代から利休の時代を通って遥か天平時代、更に当時の西域の文化にまで世界を広げる。ちなみに写真の茶杓は私が作ったもの。由緒といってもそんな思い入れの道具で十分。高価なものを揃えなくても楽しめる茶の湯の世界も広い。(さ)
参考文献 『お茶人の友 茶席の裂』 世界文化社
そして茶道にまつわる記事 イタリア語の茶 もお楽しみください。
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