قهوه (ガフヴェ)
イランで愛される嗜好品と言えばまずは紅茶(チャーイ)。一般家庭を訪問し供されるのも、またバーザールの店の軒先やチャーイハーネなどで人々が寛ぐ時に手にしているのも紅茶である。
しかし勿論、イランでもコーヒーが飲まれないわけではない。
「チャーイハーネ」と言ったらイランの「喫茶店」の代名詞のようにもなっているが、喫茶店のことを「ガフヴェハーネ(ハーネは「家」)」と呼ぶこともあるのだ。
イランにコーヒーが入ってきたのはトルコ語系(アゼルバイジャン系)の王朝サファヴィー朝(1501-1736)の時代。イラン北西部に興ったこの王朝は、人々の流れだけでなく、様々な文化をアナトリアの地からイランへともたらした。
その後も、近代のガージャール朝(1796-1925)を経て、イラン最後の王朝パフラヴィー朝(1925-1979)までコーヒーは愛飲され続ける。イスラーム革命(1979)後、かつての西洋贔屓の王に愛されたコーヒーは、西洋文化を象徴するものとして排斥され、現在に至っているが、今では徐々にコーヒー文化も復活の兆しを見せている。
コーヒーにまつわる歴史的エピソードをここでひとつ。
イランでは「ガージャール朝スタイルのコーヒーは如何?」と人に勧めることがあるそうなのだが、これは内憂外患で終始安定することのなかったガージャール朝の時代、政敵を暗殺するために毒入りのコーヒーがしばしば供されたことに由来するブラックジョークなのだとか。
ガージャール朝と言えば、現在のイランを象徴する文化の数々が生み出された時代でもあるのだが、イランの「暗黒時代」の記憶も、こうして人々の日々の会話の中に残されているのが興味深い。
さて、最近では伝統的なチャーイハーネ(ガフヴェハーネ)以外に、西洋風の「カフェ」もテヘランではちらほら散見されるようになった。そこで出されるコーヒーの種類は他の国同様、実に様々。
イランでコーヒーと言った場合一般的なのは、お隣の国トルコの影響か、デミタスカップで出されるトルココーヒーである。次に一般的なのはインスタントコーヒーで、いわゆる「ネスカフェ」と呼ばれるものである。私が知る限り、ネスカフェはあらゆる国のカフェメニューに堂々と加わっている。おかしいのはイランでネスカフェを注文すると、カップに注がれたお湯とスティック状のパッケージのインスタントコーヒーが別々に出てくること。せめて厨房で入れてから持って来てほしいものだ。
他にはフレンチコーヒーやカプチーノ、カフェラテなども、カフェでは定番のメニューとなりつつある。写真はテヘランのアート系カフェで出てきたカプチーノ。ふわふわの泡の下にはアラブ風の濃い目のコーヒーが控えている。人間観察をしながら少し濃い目のコーヒーを口に運ぶ瞬間は、私にとってイランで一番の息抜きの瞬間となっている。(m)
*この文章は、以前こちらに書いた記事を転用しました。
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