V inho(ビーニョ)
ポルトガルにワインをもたらしたのはローマ人。小国ながら世界第8位の生産量を誇るワイン国だ。代表は、まず食前酒やデザートワインとして愛されるポルトワインであろうか。これは途中でブランディを加えることにより発酵が止まって、葡萄の糖分が変わらずに残るという製造工程のよるもの。独特の甘味と香りを持ち、美しいルビー色は「ポルトガルの宝石」と称されている。
次に有名なのは、女優・壇ふみさんの父である壇一雄氏が「自分の名前と同じ」と喜んで嗜んだことで知られる「ダン・グラン・ヴァスコ」であろう。また、ロゼ好きをうならせる「マテウス・ロゼ」、ポルトガル領マディラ島の特産「マディラ」などの銘酒も。
私の場合、リスボンのレストランで出会った微発泡の白「ビーニョ・ヴェルデ」。緑のワインという意味であるが、この場合の「緑」は若さや新鮮などを意味するそうだ。ポルトガル食材の代表・干しタラをはじめとする様々なな魚介料理にぴったり。あまりの美味しさに飲み過ぎてしまうほどの逸品である。
また、ポルトガルワインは16世紀半ばに宣教師ルイス・フロイスによって日本にももたらされている。ポルトガル語で赤ワインを意味するTinto(ティント)から「珍陀(ちんた)」と呼ばれ、戦国時代に織田信長や豊臣秀吉が珍重したと言われている。南蛮渡来の酒は権力者達の心を捉えてやまなかったようだ。
明治の詩人、北原白秋の「邪宗門秘曲」から、南蛮の空気が目にも鮮やかに浮かび上がる詩の一節をどうぞ。日本人が初めて触れた西欧文化への憧憬が耽美的に表現されて、その中に「珍陀」の文字を見ることが出来る。(さ)
われは思ふ、末世の邪宗、切支丹でうすの魔法
黒船の加比丹(かぴたん)を、紅毛の不可思議国を
色赤きびいどろを、 匂い鋭(と)き あんじゃべいいる
南蛮の桟留縞を、 はた阿刺吉(あらき)、 珍陀の酒を
(注釈)邪宗・・・キリスト教 でうす・・・天主 加比丹・・・キャプテン
あんじゃべいいる・・・カーネーション(ポルトガル語)
桟留縞(さんとめじま)・・・細縞木綿布
阿刺吉・・・南蛮渡来の蒸留酒
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