خانه (ハーネ)
ペルシャ語で家は「ハーネ」。そう、あの有名な「チャイハネ(喫茶店)」の「ハネ」と同じ。図書館は「ケターブ(本)ハーネ」、郵便局は「ポストハーネ」など、ペルシャ語ではあらゆる施設・場所の名称に、この「ハーネ」が用いられる。
さて、現代のテヘランでは、郊外暮らしならいざ知らず、市中心部に住む人の大部分が世界の標準的大都市同様、マンション・アパート暮らしである。テヘランを初めて訪れた人は、立ち並ぶ高層マンションの群れに、少なからず驚く。人口7000万を越える都市だと頭では理解していても、実際に目にするテヘランの街並みは、想像以上に大きく近代的だ。
テヘラン北部の高級住宅街では、瀟洒な外観のマンションがプラタナスの街路樹の間から見え隠れする風景に出会えるが、テヘランの多くの建物は、味も素っ気も無い(旧共産圏にあるような)灰色のコンクリートの塊。どこを見ても同じような建物が延々と立ち並ぶ。
そのマンションの一室を覗いてみよう。
多くの住居では玄関を入るとまず、だだっ広いリビングに出くわす。イラン人は家財道具にこだわる人が多いため、庶民でも豪華な家具やペルシャ絨毯を置いている家が少なくない。いつお客が来ても差し支えないように整然と整えられたリビングは、まさに接客向きのスペース。
しかし、リビング以外の部屋はどうかと言うと、リビングの広さとは裏腹に、そして家族の人数が多い少ないに関わらず、ベッドルームの数が極端に少ないし、狭い。場合によっては、家族5人が6畳ほどのひとつの部屋でベッドも無く雑魚寝、なんてこともある。テヘランでは核家族の家庭が多いが、子どもたちがそれぞれの部屋を持っているなどと言うことは非常に稀である。(尤も最近は1人っ子も多いため、自分の部屋を持っている子も居るには居るが)
それでは、利便性を完全に無視したイランの住宅において、この広いリビングで何が行われるのかというと、友人・親戚を集め夜を徹して行われるホーム・パーティーだ。
「ホーム・パーティー」とは言っても、食事をしてお茶をしながらお喋り、という大人しいものから、いつの間にか、音楽を大音量で鳴らし、イラン音楽特有の6/8のリズムに乗って踊り(暴れ?)まくるダンス・パーティーへと様変わりしている。
BGMの音楽は、大方イランのポップスだが、時に洋楽のロックが流されることもあり、そんなときはなぜか外国人の私が条件反射的にひやひやしてしまう。さすがに現在のイランで、洋楽を流しているくらいで警察が乗り込んで来て逮捕、なんてことは在り得ないだろうが、一昔前にはそれが現実としてあった話。現在のホームパーティーでは、よほど「アングラ」な行為に及ばない限り、その心配はなさそうだ。(現在劇場公開中のイラン映画『ペルシャ猫を誰も知らない』では、そういったアングラ・パーティーのシーンも見られる)
このように、イランのリビングの広さはひとえに公共の場での娯楽の少なさに由来するのだろう。私たちが日常的に触れることができるクラブやバー、レストランでの「享楽」が、イランでは各家庭の大きなリビングの中で、日常的に展開されているのだ。(m)
イランのホームパーティーに興味のある方は、応援お願いします!