ちゅら海④
三橋雅子
明け方のゲート前
坐り込み500日を迎え、敵も本土からの「本格的」機動隊を寄こす、と刻々情報も変わってきた。こちらも、強硬な作業再開に、何より早朝の資材搬入を少しでも遅らせ、手こずらせ、あの手この手で何とか工事を先延ばしさせたい。11月18日、坐り込み開始から500日のキャンプ・シュワブゲート前は、過去最大の千人が結集。この日、機動隊の姿は見えず、資材搬入も無く、ゲート前は「止めた、止めた!」と歓声を上げ、「千人集まれば機動隊もこれない」と、喜びの声をあげた。嬉しくても涙、悔しくても涙、黙々と組んだスクラムから、一つ一つ指をはがされ連れ去られるのにも涙……、これでは涙が枯れてしまう。
翁長知事が「埋立承認の取り消し」をした事を違法として、国は県を訴えたという。へぇっ? 国みたいに絶大な権力を持ったものが、県を訴える!? そんなこともありなのか。国がそんなことをする程、へこまされたりもありなのか。事はそう簡単に済む訳もないが、まあそんな事はエライさん達に任せておくしかない。その任せ方を左右するのは、現場の力関係だ。という切実な実感に迫られる。
ゲート前7時の資材搬入を阻止するスクラム要員になるには、6時半過ぎに現場に着いて、何とか駐車場に車を割り込ませるため、遅くとも5時半に読谷を出なければならない。先日は「すまん、すまん、寝坊した」と、拾ってくれた車はガンガン飛ばし、高速道路をすっ飛ぶように……。途中、機動隊(?)を積んでるとおぼしき装甲車を2~3台抜き……。何とか車の空きスペースを見つけて、不恰好承知で突っ込み、ゲート前スクラムに割り込む。那覇からは2時間はかかる筈……、でもいつも那覇勢が主力。人口が多いのだから当たり前か……!
なるべくなら男性と男性の間に入ってスクラムを組みたいが、それも若い男性の……。そんな贅沢は言ってられない。片方オジンならまだマシとして、圧倒的に多いオバア達とガッチリ組む。初め、私は怖かった。どうしても60年安保時の、剣をチクチクと向けてくる機動隊の、そして仲間の激したスネイクデモに振り落されるかもしれない恐怖……が。あゝ今は何と年相応に、穏やかなこと! 仲間達とたゞ黙々と無抵抗で、しっかり組んだ筈のスクラムの腕を、脆くも剥がされてゆく切なさを、只々受け止めて、言うなりに連れ去られ、一時オリの囲いに入れられて待つ……。その屈辱に耐えるだけだ。
だが、この屈辱を忘れまい。国とは? 国民あっての国家の筈だけど、都合の悪い国民は引き剥がし、とっ捕まえてオリに入れて一時なりとカクホする……。その脇を、道を作ってくれた警官に守られて、資材を積んだトラックがゲートを入って行く悔しさ。しかし、一人一人剥がされてゆく事に抵抗もしなければ、進入するトラックの前に立ちはだかる者もいない。云う、これが無抵抗主義なのか……、と複雑な思い。悔しさに涙にくれる風景もない。いつも鼻をすすり涙をぬぐうのは私くらいのもの……。これにまた感心しきり。いちいち、これしきの事に涙したり激怒しては、来れなかったのであろう。永い屈辱の歴史を今更ながら見る思い……。
<あの手この手>の立ちんぼアピール
作戦会議で、現場に行かれない多数の人たちと、何とか連帯感を……と、編み出した毎週木曜日の行動。読谷と隣り町の嘉手納、その境に大きなロータリーがあり、四方からの車が順に信号待ちで止まる。そこに朝7時半から1時間、基地反対のノボリ・プラカードを振りながら立ち、ハンドマイクで安倍の不当、辺野古基地の不当性を訴える。初め、やや怪訝そうに眺めるドライバーも多かったのが、回を重ねる度、目礼したり手を振ったり、深々と頭を下げるドライバーが増えてきたことに、又もや目頭が熱くなる。勿論、プイと顔をそむけたり、一心に前の方を見るドライバーも相変わらずだが、着実に緩やかな変化が嬉しい。
これは、中年からジジババの10人足らず。片や別曜日の夕方には、「ママぐるみ」と称するグループが、保育所から連れ帰る子供共々、この地に立つ。この方がアピール力は強い筈。「命がけで産んだ子供を殺されてたまるか!」と彼女らは叫ぶ。先日は、どっさりパンの包みが車から差し入れられたとか。着実に連帯の意識は広がっている、と感じる。
『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』の上映会
赤字覚悟で三上智恵監督の反基地映画第2弾を上映。入場料は千円、黒字に納まった。読谷文化会館の会場。折しも降ってきた雨にもめげず、続々の来場者達。「やぁ、やぁ、ご苦労さん……」と声を掛けられながら、私はご近所さんが無償提供してくれた「自分で焼いた焼物の小物類」を、100~300円で売っていた(全売上寄附)。
今朝、電柱に貼っていたポスターを見て、「今夜? 行こうかなぁ」「来て来て」と言葉を交わした人に、「来たわよ」と肩を叩かれる。このドシャブリに有難う!
こうした嬉しい涙の傍らで、「……でも……、日当もらって、あの連中、辺野古に行っている」の噂に相変わらず落ち込む人も。「いいじゃん、言いたいように言わせておこうよ、言う事に事欠いている証拠……」とは言うものの、2月からの皆勤者は、10ヶ月越えで、ゆうに4万円を超える出費。僅かの見返り日当でも欲しいものだ。