広島国道2号線公害差止訴訟について
広島国道2号線公害差止訴訟が最高裁で確定しました。その内容と意義について、同訴訟原告団・弁護団の声明を掲載します。また、その判決を騒音の環境基準に反映すべく、道路住民運動全国連絡会が環境省に対し「要請書」を提出しましたので、発表します。
声 明
2015年6月24日、最高裁判所第二小法廷は、広島国道二号線公害差止訴訟の上告を棄却し、上告を受理しない旨の決定を下した。最高裁は、理由の説明をしないまま控訴審判決を確定させた。
その結果、原告らが求めた公害(騒音・大気汚染)差止め、高架道路延伸差止めを求める訴えは、退けられてしまった。原告らは、提訴までして、騒音を軽減して大気汚染のない沿道の生活環境の改善と、そのための、高架道路の延伸の差止めを求めたのに、最高裁はこの願いを受け入れなかった。
最高裁は、原告らの深刻な被害実態をきちんと審理しようとする姿勢を持っていないものと言わざるを得ない。
ただ、損害賠償請求については、現行の幹線道路に面する地域での地域特例についての騒音の環境基準(屋外・昼間LAeq70dB・夜間LAeq65dB)に関し、この基準について、昼間屋外値Leq65dB、夜間室内値Leq40dBを越える場合は、受忍限度を超えて違法であるとし、現行の環境基準に従うだけでは違法とし、道路沿道の住民のみならず、勤務者に対しても損害賠償を認めた。
国道二号線沿道に居住・勤務する原告らは、高架道路の延伸が進められ公害が深刻化することから、1994年以降反対運動を始め、1999年に公害調停申立、2000年に仮処分申立、2002年に提訴するなどして、長年にわたり闘ってきた。その結果、国道二号線の高架道路延伸工事は、2003年10月に一期工事により約500メートル延伸したものの、二期工事2.3キロの工事は中止されたままとなり広島市の財政難も加わって工事再開の見込みは立っていない。
しかるに、最高裁は、国道二号線の沿道住民らに対する騒音被害についは違法と認めながら、差止めは認めなかったものであり、これは騒音被害の解決を抜本的に解決しないで放置することを改めて容認したことになる。今回の最高裁の決定は、司法の役割と責務を放棄したものであって遺憾である。
私たちは、これまで公害調停から訴訟までの活動を支援したり、公正審理を求める署名活動などに献身的に協力してくださった多くの市民や諸団体の皆様方に対し、深く感謝すると同時に、今後も高架道路延伸が再開される事態となれば、改めて新に闘い抜くことを決意する。
2015年7月2日
広島国道二号線公害差止訴訟原告団
団長 鍛冶川 俊治
広島国道二号線公害差止訴訟弁護団
団長 山 田 延 廣
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環境大臣 望月義夫 様
2015年7月24日
道路住民運動全国連絡会
事務局長 橋本 良仁
要請書
広島市中央部を通る国道2号線をめぐる騒音訴訟で、最高裁第二小法廷(山本庸幸裁判長)が本年6月24日付で住民らの道路使用の差し止めなどの上告を退ける決定を出した。しかし、二審・広島高裁判決のうち、騒音被害を認めて国と市に計約3,500万円の賠償を命じた住民らの勝訴部分は、国と市が上告していなかったためそのまま確定した。
広島高裁判決は、2014年1月29日、被控訴人国に対し、沿道の居住者のみならず、沿道の勤務務者に対しても、道路騒音に対して損害賠償を支払うよう命じる画期的な判断を下した。
さらに、同高裁判決は「夜間屋内値LAeq 40 dBを超える場合には、1審原告らに受忍限度を超える睡眠妨害としての生活妨害の被害が発生している」として、一審判決の基準を5 dB引き下げ、室内騒音レベルで40 dBを受忍限度の基準値とした。
また、「昼間屋外値がLAeq 65 dBを超える場合には、1審原告らに受忍限度を超える聴取妨害としての生活妨害の被害が発生していると認められる」とし、昼間屋外値がこの基準を超える場合に、居住者はもちろん、勤務者をも含んで損害賠償を認容した。
今回の訴訟の結果により、現行の「騒音に係る環境基準」では、受忍限度を超えており、違法なものであることが明確になった。
環境省は、1998年9月に改悪した「騒音に係る環境基準」で、「一般地域」、「道路に面する地域」の基準にかかわらず、特例として「幹線交通を担う道路に近接する空間」については、「昼間70 dB以下、夜間65 dB以下」を基準値としてきた。この値が環境影響評価の基準としても扱われ各地の道路騒音を激化させている。
しかし、確定した広島高裁判決は「夜間室内等価騒音レベル(LAeq)40 dB、昼間屋外値(LAeq)65 dB」を超える場合に受忍限度を超えるものとした。
1995年7月7日の国道43号訴訟最高裁判決「損害賠償が生じる被害の範囲として、距離の遠近にかかわらず65 dB以上、道路から20 m以内では60 dB以上」に続いて、司法がこのように受忍限度を引き下げた以上、騒音公害から国民の健康を保護し、及び生活環境を保全することを使命とする環境省は、速やかにこの広島高裁判決が示した受忍限度に従って「騒音に係る環境基準」を再改定し、少なくとも「幹線交通を担う道路に近接する空間」を廃止すべきである。
なお、昨年の広島高裁判決の後、国土交通省と環境省の間で環境基準への対応について調整会議が行われ、環境基準の見直しはしない旨の方針が確認された旨の説明があったが、この方針を決めた理由を含め、この会議録の公表を求める。
以上のことを要請する。