新しいお札の誕生から(斑猫独語 93)
澤山輝彦
新しいお札が発行されたのは7月3日だった。私は今日(10月2日)まで、一万円札の渋沢栄一さんと千円札の北里柴三郎さんには出会ったが、あとのお一人、津田梅子さんにはまだお目にかかれないでいる。
お札になる紙があれば、新聞紙、画用紙、トイレットペーパー、ダンボールも紙だ。私が日本画に使う雲肌麻紙という紙もある。お札になる紙の特性とはどんなものだろう。『暮らし〈紙〉』という積読本を思い出し、その中の紙幣の章を読んだ。紙幣の歴史、紙の原料、印刷術など、思ったより長い44ページ。その中に、紙幣の形と美をつくる紙の条件として、紙の強靭さ、紙の硬さ、紙面の滑らかさ、外観の優美、印刷適正に優れる、偽造防止の趣向にとむ、とあった。財布に入ったと思ったら、もう出ていってしまっているお札だ。ぐるぐる回るものだから、強度が要求されるのは分かる。偽造防止策としては世界初の3Ⅾホログラムが使われている。
さて、先の本による紙幣の歴史をみていると、藩札の説明が案外多く図版もあり、その中に尼崎藩の藩札の写真があり、松本清張の初期短編の傑作「西郷札」、このタイトルの元になった西郷札の写真もあった。新札に絡めて、この事をある会で話そうと温めていた。その間、アメリカの南北戦争話に関する記述のある本を読んだのだ。
そこには私が今まで知らなかったことが書いてあった。南北戦争は1861年から1865年、エイブラハム・リンカーンの奴隷解放運動は我々がよく知っているところだ。だがリンカーンの本当の歴史的功績は、南北戦争で文民初の軍最高司令官になったことにあると言う。彼は軍事戦略家として優れており、総力戦という戦法を初めてとった。それまでは、雇兵対雇兵、軍人対軍人の戦いだったのが、リンカーンは南軍だったら女も子供も高齢者も容赦はしない。皆殺しにする、生産拠点もつぶす、そしてアトランタが壊滅する。南軍は伝統的な戦法をとるから、勝てるはずはない。南北戦争以来、この総力戦という戦法が世界に広まってしまう。
この戦法を広める元になったリンカーンは恐ろしい人でもあるのだ。そして南北戦争のために作った武器が大量に余ってしまう。それを戦争のあるところに売りつける。その戦争の一つが1877年の西郷隆盛の西南の役(西南戦争)なのだ。西郷軍は負けるが、その理由の一つに、明治新政府が南北戦争で余った兵器を、大量に買い入れていたからです。歴史にもし(if)は禁物だが、この兵器の流入がなければ、日本はまた違った歴史をたどっていたかもしれないと考えられる。武器買い、売りつけかも、は現代にも通用する話なのだ。西郷札を作らねば金の調達が出来なかった西郷軍。新札にこだわって、西郷札の写真を見つけたことから、話はここまできた。
現在進行形の戦争は総力戦であることは誰の目でもわかる。ベトナム戦争を子供時代に経験したベトナムの老人がこう言ったのを、最近のテレビでみました。「戦争は死と貧困と停滞しかもたらさない、戦争はしてはいけない」と。我々は世界に誇る憲法九条を持っている。今度の自民党の総裁選に立候補した人は、誰一人「憲法九条」を口にもしなかった。戦争で儲ける奴がいるのだから。奴らが敵愾心をあおるのだ。騙されてはならない。
【投稿日 2024.10.3.】