横断車道―85―
大方の予想を裏切って、ヒラリーではなくトランプが第45代アメリカ大統領となった。トランプは56.9%の選挙人を獲得したという事で、接戦と言われているが、選挙制度が複雑で、国民の支持率がそうであったとは言えない。かなりの支持率があったようだ▼民主党の予備選挙では、サンダースが急速に支持を広げだした経緯がある。これに対して、民主党に党員登録しようとする急増した若者たちを、民主党が抑制的処置をとったとの批判がある。ヒラリーを民主党の候補にしようとする、何かの力が働いたようだ▼アメリカ事情に詳しい人ほど、トランプが大統領になるだろうという予想をしていたようだ。しかしながら、アメリカのマスコミだけではなく、日本のマスコミもヒラリー有利の報道姿勢であったのは、今に至っては疑念がある▼「横断車道84」では、ヒラリーが大統領になるのだろう予想をしていた。が、書いたのは10月の事で、11月にはトランプ優勢とは思っていた▼そして、トランプ大統領就任後も、トランプバッシングの嵐はやみそうもない。挙句の果ては、ロシアのプーチン大統領の命令で、アメリカ大統領選挙2016は不正操作されたと言いだす始末。証拠の提示は一切なく、分析したというのが、他国の政権を暗殺も含めて操作するCIAという事ならば、100%信用ならないのは明白▼さて、この大統領選出の事態を、如何に見るのが妥当なのか? 世界での報道はさておき、日本のマスコミは酷いもの。憶測のオンパレードと、アメリカ本国のトランプバッシングに泳がされたモノばかり▼安倍政権など、当初は天と地がひっくり返ったような、動揺を隠せない醜態。気を取直して、一目散で安倍首相は訪米し、ヨイショ・ヨイショのトランプ担ぎ。これを見て、マスコミも目の色を変えて、トランプ政権の下、日本の在り様を言いだす始末。マスコミの変身には驚く▼所詮、アメリカのリーダーであるからには、属国日本を如何に利用し服従させるかしか考えないのは自明。植民地を自認した部族長であれば、ヨイショも当然のことではあろうが…▼戦後70年の世界が、混沌とし出した中で、世界の中心思想(中華思想?)を持ったアメリカが、混乱し始めたとみるのが相当であろう▼悪徳弁護士の看板のような橋下徹が、大阪を席巻したのはなぜか? 有権者の半数くらいしか、選挙を信じられなくなった政治不信の渦の中で、変わったものに期待する投票者の心理と見るのは如何だろう。かつては、派閥が群雄割拠する自民党政権でも、選挙となると一枚岩となったものである。が、東京都では同じ自民党が仲間争いをしているではないか。小池百合子君も所詮は自民党。期待をするのは一夜の夢に過ぎない▼何もアメリカや日本だけに留まった出来事ではない。フランスのオランド大統領は再選されるだろうか? 極右翼のルペン党首の人気が急上昇している。ドイツのメルケル首相の座も、怪しいものだ。ネオナチが台頭しているのも気にはなる。イギリスがEUを離脱したのも、体制固定への反発であろう▼人類経済活動の今を考えてみよう。本来、より豊かで幸せな生活を求め、分業と技術の進歩を求めてきた筈であった。が、いつの間にか、豊かで幸せではなく、如何に儲けるかと言う、偏狭な要求で人々は右往左往しだしている▼経済活動には、製造業やサービス業のような生産事業と、本来、生産事業の補助となる金融事業が存在する。金融事業は、お金の余っているところから預金を集め、必要とする事業に投資するのが本業である▼経済活動の進展の中で、金融寡頭制(銀行優位)が生じてきたが、アメリカの巨大銀行のような、とてつもなく巨大化がみられる。一国政府の規模よりも、遙かに巨大な経済規模になっている。彼らは本国の金融制度を取り仕切るとともに、パナマやケイマン諸島の政府をのっとり、自らの活動をベールの中に隠してしまっている▼資本主義は過剰生産恐慌が付きまとうのであるが、情報能力と技術力で、モノの過剰生産恐慌は克服したかに見える。ただし、自動車は地球上で必要とする量を越えだしている。先進国はEV化やAI化でしのごうとしている。時にはフォルクスワーゲン・バッシングで、最大生産企業を叩いて、少しばかりの生産調整をしているのではあるが▼過剰生産は製造業の話だ。金融業が過剰生産(活動?)になると、如何いうことになるのか?「バブルの崩壊」である。日本では1990年に経験し、アメリカでは2008年にリーマンショックに陥った。金融業が、余っているところから集めて、必要なところに回している間は、このようなことは起こらない。しかし、金融テクノロジーの複雑化で、訳が分からなくなってしまっている▼株価が額面の何十倍、何百倍になることがバブルなのだ。株は所詮、額面の値打ちしかないのである。為替は通貨の交換でしかなく、貿易量の何万倍の取引があることが、不正常なのだ▼これらの金融取引をマネーゲームと言う。所詮マネーゲームは、富の発生はない。実態経済からの搾取が総てだ。マネーゲームは実態経済の寄生虫。寄生虫が大きくなりすぎると、宿主を殺して自らも滅ぶ▼アメリカの巨大銀行は、ヘッジファンドを操って、国内搾取をしつくして、日本などの属国から吸い上げてきた。が、そのことで国内でも属国でも、勤労層が疲弊しつくした。その反発が、トランプ現象と見るべきであろう。が、トランプに力量があるわけでもあるまい▼この歴史的変革期において、マルクス経済学者がみじめにも、経済が見えていない。組織・体制内の個別事情に拘束され、本来の研究が出来ていない。少なくとも日本国内では。この状況を如何に為すべきか? 有力な流れが見えないのは、何とも悩ましい。 (コラムX)