次の文章は、毎年6月の環境週間に行われる「公害被害者総行動」の集会に対して、「道路住民運動全国連絡会」が提出し、集会パンフレットに掲載された活動報告書です。「公害被害者総行動」には、水俣病・カネミ油症・予防接種禍・大気・道路・空港・新幹線etc.などの公害被害者団体が参加し、「道路全国連」も参加しています。
後半部分は、「公害被害者総行動」で行われた中央省庁交渉において、「道路全国連」が国土交通省に提出し交渉した要請文です。
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2012年6月5日
道路住民運動全国連絡会活動報告
道路住民運動全国連絡会(道路全国連)
事務局長 橋本良仁
1 はじめに
ムダで有害な公共事業の代表格である道路事業は、一向に止まらない。「コンクリートから人へ」を公約に掲げて政権を担った民主党も自公政権下で進められてきた公共事業のあり方を見直さず踏襲している。政・官・財癒着構造の下で強行される大型道路建設で沿線住民は終の棲家を追われ、日本の美しい山、川、海の自然破壊は進行している。
こうした中、全国の道路住民運動団体は良好な住環境と自然環境を守るため、粘り強く運動を展開している。
2 東日本大震災を好機に高速道路建設を推進
2012年度の道路予算は、昨年度とほぼ同額の予算を確保し、東日本大震災の復興・復旧予算を加えると前年度を大きく上回った。これまで費用便益比が低く赤字路線として財源が付きづらかった地方の未開通部分の高規格幹線道路や東京外環道路(250億円)、圏央道(992億円)をはじめとした全国の高速道路の復活を含め多額の予算を計上した。
急速な少子高齢化社会の到来と産業構造の転換に伴う交通需要の減退を迎え2010年以降今後50年間の維持管理・更新費だけでも190兆円必要という状況下では新規高速道路建設を行うべきではない。
2兆6000億円を投じて2012年4月に開通した新東名(三ヶ日JCT~御殿場JCTの162㎞)は、1980年代のバブル期の計画でありその経済効果にも疑問の声が挙がっている。
3 増加する傾向の裁判
どうしても止まらない道路建設に対して全国の道路住民運動団体は、最後の手段として裁判を提起し、その数は年々増加している。しかし、司法は住民の主張に耳をかさず行政裁量権を最大限認める傾向が強い。暴走する行政に対し司法のチェック機能が働くことが求められる。
4 公共事業チェック議員の会
超党派の議員連盟である「公共事業チェック議員の会」の活動は重要である。しかし民主党が与党になって以降、国民の声に十分応える活動になっていない。議員の会の活動を活発にするため、市民からの働きかけを強める必要がある。
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別紙1
第37回 道路全国連・全国交流集会 集会アピール
第37回道路全国連・全国交流集会は40団体、103人が参加して、外環道路への建設反対運動が40年を迎えた千葉県市川市で11月5日、6日の2日にわたり開催された。
ムダで有害な公共事業は一昨年の政権交代後も一向に止らず、多くの国民に失望を与えている。公共事業費の中でも道路建設のための事業費は突出しており、住民を無視して進められる環境破壊の道路建設をストップさせることは急務である。
3月11日に起きた東日本大震災は東北地方を中心に東日本各地に甚大で深刻な被害をもたらした。国はそうした被害地域の住民を助け、1日も早い復旧、復興のためにこそ予算を振り向けるべきであったのに、今年度の当初予算における道路事業費は1兆4,536億円で昨年度とほぼ同じ規模であった。特に圏央道や外環道など大都市圏環状道路の事業費は大きく、この二つの道路だけで約1,200億円もの予算が計上されていた。これは津波で流された鉄道や地震で寸断されている生活道路の全てを復旧させるために必要な予算を上回る規模である。国土交通省は当初、公共事業予算の5%を震災復興費捻出に備えるためとして執行を保留にしてきたが、10月7日、それさえも解除してしまい、さらに災害対策を名目に高速道路建設を一層進めようとしている。国がこうした予算の立て方を改めずに、震災復興を名目に新たな税負担を国民に求めることは許されない。
福島第一原子力発電所の原子炉事故は政・官・業・学・報(メディア)がつくり上げてきた「安全神話」を一挙に崩壊させた。私達は道路建設をはじめとする公共事業の中に原発と同じ政・官・業・学・報一体の「安全神話」の形成と住民への押しつけを見て来た。建設を前提とし、道路建設の影響を故意に低く評価する環境アセスメントや道路建設の効果を過大に評価する事業評価などである。また必要な情報を国民に隠す手法や公聴会や説明会で行政が音頭を取って情報操作をしてきたことも原発と同じ構図である。さらに言えばこうした行政のあり方をチェックし、その暴走を止める司法がその役割を果たして来なかったことも厳しく追及しなければならない。
自動車排出ガスと学童の喘息発症との因果関係が大気汚染被害者の粘り強い運動の結果、環境省のSORAプロジェクト(自動車排出ガスと呼吸器疾患との関連についての研究調査)でも明確な形で証明された。これによって自動車排出ガスの影響で苦しむ全国の公害被害者の国による救済は急務となった。また道路建設によって自動車排出ガスが新たな健康被害者を生まないよう、安全側にシフトした環境アセスメント制度を確立し、新規はもとより建設中の道路についても建設を中断しアセスをやり直すことが必要である。
今回の集会では公共事業の現状を分析し、その抜本的な改革に向けて日弁連が提案する「公共事業改革基本法(試案)」について高尾山天狗裁判弁護団長・鈴木堯博弁護士が特別報告し参加者で議論した。試案の目的は公共事業における徹底した情報公開と市民参加の保障そして客観的で科学的・合理的な評価システムの確立である。私達はこの提案に大いに勇気づけられた。
福島第一原子力発電所事故という災禍を機に公共事業のあり方が改めて問われている。私達はまちづくりや自然保護の運動そして子ども達の健康を守りたいと願う人々と連帯しムダで有害な道路建設を止めさせ、自然と調和した真に豊かな社会を構築するため、今後も粘り強く運動を続けていく。
2011年11月6日
第37回 道路全国連・全国交流集会参加者一同
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別紙2
2011年度の公共事業を精査して、
不要・不急な事業の予算を震災復興費へシフトしてください
2011年7月20日
菅 直人 内閣総理大臣
平野 達男 復興対策担当大臣
野田 佳彦 財務大臣
海江田万里 経済産業大臣
細野 豪志 原発事故収束・再発防止担当大臣
木 義明 文部科学大臣
大畠 章宏 国土交通大臣
鹿野 道彦 農林水産大臣
全国自然保護連合
道路住民運動全国連絡会
ラムサール・ネットワーク日本
水源開発問題全国連絡会
3月11日の東日本大震災は、大地震・巨大津波・レベル7の原発事故が重なり、未曾有の大惨事となりました。とりわけ福島原発の危機は、持続可能でない私たちの社会を象徴しており、今までの日本社会のあり方に根底からの見直しを迫っています。
私たちは、被災した方々の生活再建について、市民として連帯と協力の意思を表明するとともに、国会と内閣が生活再建を最優先した政策・事業を採用すべきだと考えます。
2011年度の公共事業予算は約5兆円になります。その中には以下記述のとおり、必要性が明確ではない事業、あるいは必要性があっても直ちに実施しなければならない緊急性がない事業が少なからず含まれています。
東日本大震災の被災地の復興のためには、巨額の予算をすみやかに確保して、資材、人材等を集中的に投入しなければなりません。公共事業全般について真の必要性があるかどうか、緊急性があるかどうか、早急に精査し、必要性または緊急性が明確でない公共事業の2011年度予算を減額修正して、復興財源としてシフトすることが必要です。
- 幹線道路、空港整備、新幹線・リニア整備、湿地埋立などの公共事業は計画から完成まで数十年かかる事業であり、緊急性を要するものではなく、また、その必要性に疑問が呈せられているものが数多くあります。
- ダム事業は現在、検証作業が行われているように、その必要性が疑問視されているものであり、しかも、長期の建設期間を要し緊急性がありません。
- これらの公共事業には自然生態系に大きな影響を与えることが危惧されているものもあり、昨年10月の生物多様性条約締約国会議のホスト国である日本政府は、そこで議決された「愛知ターゲット」を守ることが求められています。よって、これらの事業の執行は慎重でなければなりません。
- 更なる原発事故の危険性を高める「もんじゅ」等の原子力発電開発関係の予算は凍結する必要があります。
不要・不急な公共事業予算の震災復興費へのシフトがなされないまま、大量の国債を発行したり、増税を行ったり、国民生活に直結する予算を削減したりすることには、国民が理解を与えません。
私たちは、国民の代表たる国会と内閣の主導によって、公共事業2011年度予算を緊急度の視点で徹底精査し、そこで捻出された予算額を震災復興費へとシフトさせることを、求めます。