『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』**「人道橋」とは(斑猫独語 86)**≪2022.秋季・冬季合併号 Vol.114≫

2023年03月31日 | 斑猫独語

「人道橋」とは(斑猫独語 86)

澤山輝彦

 10月初めの四天王寺大古本祭で「人道橋の景観設計」(関西道路研究会 道路橋調査研究委員会編 鹿島出版会 1991)というのを買った。「人道橋」という語句は初めてだが大体の見当は付く。一応、橋とはどのように説明されているか日本大百科全書(ニッポニカ)を見ると「bridge 道路、鉄道、水路、パイプラインなどが河川、湖沼、海峡、凹地や他の交通路などの上を乗り越えるために建設される各種の構造物の総称。橋梁ともいう」とある。鉄道橋や道路橋はあちこちに大小数々あり私たちが「橋」といえばほとんどこれらを思い浮かべるだろう。武庫大橋と東灘芦屋大橋は私達の例会で検証している。紀の川に掛かった水道橋が落ちたのは去年のことか。10月に入ってクリミア大橋の爆破は大ニュースだった。

 さて、あちこちの横断歩道橋、橋がついているし人しか渡れないからこれは人道橋なのか、私には横断歩道橋は立体的横断歩道に過ぎないとしか思えないのだが、この本によれば「人と自転車のみが通行する歩行者系道路にかけられた橋梁建造物」と定義しているから横断歩道橋も駅に付随する歩道デッキも広い意味で人道橋に入れるとしている。人道橋とは自転車はともかく車は通れない人のための橋なのだ。千里丘陵を開発して生まれた団地には道路を越える橋が何箇所もある。私が利用する駅への道には「竹見橋」という名の人道橋が府道121号吹田箕面線をまたいでいる。すこし離れて「にれの木橋」という人道橋もある。つい最近久しぶりに大阪中之島近くを訪ねる用があり、ついでにあたりを歩いた。その時渡った錦橋という橋、両側に階段があり橋上には花壇とベンチがある。これは「人道橋」だ、と思ったらこの本の資料27に写真入りで載っている(本をちゃんと読むというより見てもいない証拠だ)。

 道路を越え、川を渡る橋の機能をそなえた橋を「人道橋」と呼ぶためには、単なる橋の機能だけではなく、人を集め憩いの場を提供する、景観を創造する、サインあるいはモニュメントとして人に訴えかける、と言うような要素が必要になる。この様な観点から昭和50年ごろから今までの橋の分野に無かった建築家の発想から設計されたものが出来たりして人道橋に新しい衝撃や、強い印象を与えたといわれる。

 そこを考えると先の中之島の錦橋は昭和6年の竣工だ。現代風な人道橋の発想があったとは考えにくい。この橋の架橋目的は可動堰(水門)として造られたのであり、すぐ下流に肥後橋もあるのでその目的だけをはたしていてもよかったのだ。そう言えば堂島川にかかる水晶橋も同じ架橋目的を持ったもので、今では人道橋として大阪観光に寄与している。この両橋を人道橋に使わせた大阪市の判断は良かった。

 要するに人道橋とは、かっこを付けた歩道橋である。先に書いた私の利用する「竹見橋」には何のかっこもついていないが。この本に人道橋資料として53の橋が記載されていて、そのうち16が大阪、兵庫にある。

【投稿日 2022.10.26.】

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『みちしるべ』**母屋が雨漏りで床が抜けているのにサンルームを増設**≪2022.秋季・冬季合併号 Vol.114≫

2023年03月31日 | 藤井隆幸

「母屋が雨漏りで床が抜けているのにサンルームを増設」するような道路行政に気がつかない世論

藤井隆幸

 「道路が出来れば便利」といった単純な思いは、世間に一般的に定着している。「道路を新設すると渋滞が解消される」という誤った考えもまん延している。政・官・財の悪魔のトライアングルが、そうしたプロパガンダを普及させてきたのが実態。

 井の中の局地的な現象では、「道路が出来れば便利」もまんざら嘘ではない。社会全体を見回すと、保有されている自動車を総ての車線に並べると、東京都では5m間隔に並ぶと言われたことがある。殆どの車が車庫に眠っているので、道路の効用がある。少しでも利用率が上がると、渋滞が発生する。新設道路は必ず利用率を上げてしまう。道路が延長するたびに渋滞が多発する統計から、明確に証明されている。

 東日本大震災では、多くの人々が車で避難しようとして大渋滞に陥り、津波に呑まれて殆ど死亡した。盆や正月に高速道路が何十キロもの渋滞になったと騒がれるが、日交通量の数パーセントの交通量が減れば、論理的に渋滞は発生しないことになる。

 江戸時代は各地の大名が謀反を起こさないように、馬車交通などは極力禁止されていた。明治維新後の富国強兵でも、鉄道網の整備に殆どの力は注がれた。戦前まで、日本中どこへでも、鉄道網を利用して行ける国土が完成していたと言っても過言ではなかった。戦後はアメリカの圧力で、道路整備にシフトし、鉄道は急激な廃止に追いやられることになった。

 そんな日本の事情の中で、最近、NHKのウェブニュースに興味深い記事が二つ載った。NHKは世界情勢ではアメリカのプロパガンダ一色ではあるが、道路族連中には耳の痛い話であろう。高速道路が永久に有料になるという話と、修理が出来ずに供用を廃止している橋が多数存在するというニュースだ。

高速道路 有料期限を最大2115年まで延長する方向 無料化厳しく
NHK Web News 2023年1月14日 23時30分

国土交通省は、高速道路を有料とする期限を今の制度の2065年から最大で50年延長する方向で調整しています。高速道路の老朽化に対応するための費用を確保する目的で、今回、期限が大幅に延長されれば無料化の実現は一段と厳しくなります。

全国の高速道路は建設費などの借金を料金収入によって返すことになっていて、今の制度では高速道路の有料期限と借金の返済期間を2065年までと定め、その後は無料化するとしています。

関係者によりますと国土交通省は、有料とする期限と借金の返済期間を最大50年延長して2115年までとする方向で調整しているということです。

高速道路の有料期限をめぐってはおととし、有識者で作る国土交通省の作業部会が、高速道路の老朽化が進む一方、維持や更新などに伴う費用の財源が確保されていないとして、有料期限の延長に向けた検討を求めていました。

国土交通省は関係部門との調整を踏まえ、関連する法律の改正案を今月23日に開会する通常国会に提出する方向です。

高速道路の有料期限は2014年に、それまでの期限を15年延長し2065年までとなりましたが、今回、期限が大幅に延長されれば、無料化の実現は一段と厳しくなります。

 そもそも戦後の財政がなかった時代に、道路建設費用を如何に捻出するか。アメリカの巨大銀行が支配する世界銀行から、高金利の借金をして東名・名神高速などを建設した。借金返済と新たな新設のために、「特定財源制度」「有料道路制度」などが出来た。「特定財源制度」は自動車税・揮発油税・重量税などを道路財源に使うというもの。そして、「有料道路制度」というのが、借金で道路を造っておいて、通行料金で借金を返済するというもの。

 儲かる道路もあれば、採算の合わない道路も政治屋先生の為に造らねばならず、当初の30年で無料にする話は延期に次ぐ延期に。過剰に儲けた料金を新たに建設する道路の不採算に充てる「プール制」ということにした。

 国鉄分割民営化の際、主に新幹線建設で出来た多大な借金24兆円を、国鉄清算事業団に負わせた。電電公社の民営化の際には、NTT株を売却して大儲けをしたことで、JR各社株と800兆円規模の土地の一部売却で、何とかなる筈だった。が、バブルの崩壊で、株も土地も売れなくなり、清算事業団の借金は36兆円に膨らんだうえ、国民負担の税金で解消したのは、忘れられたのだろう。

 道路公団民営化も同じ運命で、高速道路資産と建設借金残高は、国の特別行政法人「高速道路保有機構」が所有している。各高速道路(株)に道路を貸し付け、通行料金の利益の一部を「保有機構」に納めてもらい、建設借金の40兆円を解消するというもの。しかし、現実は国鉄清算事業団と同じ運命。

 高速道路が永久に有料だからと騒ぐよりも、こちらの方が大変だろう。それに関連して、もう一つの記事を紹介する。

修理や撤去できず 1年以上“通行止め”橋 全国265か所 NHK調査
NHK Web News 2023年2月9日 19時20分 

インフラの老朽化が進むなか、国が義務づけた点検で緊急の老朽化対策が必要とされた橋のうち、修理や撤去の対応が取られず、1年以上「通行止め」が続いている橋が、全国で265か所にのぼることがNHKの調査でわかりました。

専門家は「老朽化が集中して予算が確保できない状況が国全体で起きている。すべて維持するのは不可能で、インフラ全体で対応策の優先順位を考えていく必要がある」と指摘しています。

「数が多く手が回らない」「費用が不足」

2012年に中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落し9人が死亡した事故を受け、国土交通省は橋やトンネルについて5年に1度の点検を自治体などに義務づけていて、必要な対応の緊急度合いに応じ4段階で判定しています。

NHKは、国土交通省が公開した去年3月末時点の判定結果のデータを基に、4段階のうち最も老朽化が進んで「緊急に対応が必要」と判定されたもののうち、「未対応」とされている全国の343の橋について調査しました。

その結果、去年12月の時点で、全国41の都道府県の合わせて265の橋で、修理や撤去の対応が取られず、1年以上「通行止め」が続いていることがわかりました。

さらに通行止めの期間が

▽5年以上の橋が131か所、
▽10年以上が33か所、
▽20年以上も7か所あり、

▽最も長いものでは1985年からの37年間にも及んでいて、各地で通行止めが長期化している実態が浮き彫りになりました。

「通行止め」が続いている理由を自治体などに聞いたところ、

▼「橋の数が多く手が回らない」が96か所と最も多く、次いで
▼「対応する費用が不足している」が80か所、
▼「地域住民との合意が形成できていない」が42か所でした。

通行止めの橋のなかには、腐食して一部が崩れたり、台風や大雨で流されたりするケースもありました。

≪途中略≫

専門家「インフラすべて維持するのは不可能」

インフラの老朽化問題について詳しい東洋大学大学院経済学研究科の根本祐二教授は、通行止めのままとなっている橋が全国で相次いでいることについて「現在、インフラの老朽化が集中的に起きていることで予算が確保できず、補修も撤去もできない状況が国全体で起きている。予算を工面できない以上は通行止めにせざるをえないのではないか」と指摘しています。

今後については「橋は1970年代に年間1万本架けられていて、コンクリートの耐用年数が60年だとすると、2030年には1万本を架け替えなければならない。インフラの老朽化は、始まったばかりで、今後さらに深刻になると考えられ、すべて維持するのは不可能だ」と話しています。

そのうえで、どう対応するかについて「日本は人口減少期にインフラの老朽化が集中的に起きているので予算の確保は簡単ではなく、いまあるインフラをたたむという発想が必要になる。その際には橋だけではなく、道路などほかのインフラの予算もあわせて考え、優先順位をつけて対応する必要がある」としています。

そして、利用者の意識も変える必要があるとして「自分の利便性ではなく、地域全体を持続可能にしていくために何ができるのかという観点で考えることが大事だ」と話していました。

 もう、道路建設をしている場合ではないのは明白。とは言っても、国交省の予算では新設道路計画が予算の殆どを占めている。

 「一人当たりの高速道路延長が欧米より短い」とか、「都市間自動車走行速度が欧米より遅い」などと理屈をこねる。少子化傾向と言うものの、欧米よりも人口密度が極端に多い日本において、一人当たりは短いのは当然。可住面積当たりの道路延長では、欧米より桁外れに群を抜いる。都市間は森林の欧米と比べ、都市が連結している日本で、高速移動できないし、その必要もない。

 最近は役に立たない兵器を買えと言ってくるアメリカだが、公共事業の割合を増やせと難癖をつけてきたアメリカ。言われるままに公共事業費を増やしに増やしてきた日本。予算配分を差配できる政治屋が存在せず、官僚の掴み合いの喧嘩を制することも出来ず、「シーリング」という対前年度比しか決められない政治。

 よって、公共事業費の7割は建設省(現国交省道路局など)、その内の4割は道路事業費と、半世紀にわたり変化がない。それも悪魔のトライアングルにとって、維持管理よりも新設が儲かるので……。

【投稿日 2023.2.26.】

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『みちしるべ』**「ロシアのウクライナ侵略」から「パレスチナ」を思う**≪2022.秋季・冬季合併号 Vol.114≫

2023年03月30日 | 川西自然教室

「ロシアのウクライナ侵略」から
「パレスチナ」を思う

――欧米のダブルスタンダ-ドについて――

川西自然教室 田中廉

 2022年の最大の出来事は「ロシアのウクライナ侵略」だと思う。ウクライナ側にロシアの安全を脅かすような行動があったとしても、それを武力で抑え込もうとするのは許されるべきことではない。国連総会でロシア非難決議が大多数の賛成で採択された。日本をはじめ世界はウクライナに同情的である。

 ウクライナ関連のニュ-スを毎日のように見ていて、大きく引っかかるものがある。それは、パレスチナのことである。他国を軍事的に侵略して領土を広げているのは世界に2国である。それは、ロシアとイスラエルだ。ロシアとウクライナの関係は、イスラエルとパレスチナの関係とそっくり同じである。ロシア、イスラエルの両国に共通なのは、武力で領土を拡大し、そのことが国連総会で圧倒的多数で非難決議が採択されても、全然意に介さないことである。

 しかし、両者に大きな違いが2つある。一つは、ウクライナには西側諸国から大量の武器が供給され、アメリカでは一部兵器の在庫不足がささやかれるほどの軍事援助が行われ、現在ではウクライナの方が軍事的に優勢なほどである。一方、パレスチナ側には武器援助はなく、ガザ地域の手製のロケット弾程度で軍事力に圧倒的な差がある。二つ目は世論、特に西側の関心である。道義的にはイスラエルに正義はないので非難はするが、制裁はしない。つまり、言うだけである。ロシアにはありとあらゆる経済、政治面での制裁が行われているが、イスラエルには、無法を見ているだけである。

 パレスチナ側の抵抗は時にはテロと呼ばれるが、ウクライナ側の行動をテロというのはロシアだけである。このことを、西側諸国、西側メディアはほとんど問題としていない。これはいじめっ子と被害者、そして事なかれ主義の学校との関係にも似ている。いくら子供や家族(パレスチナ)が教師や学校(国連、欧米諸国)にいじめを訴えても、学校側はいじめっ子側(イスラエルと保護者のアメリカ)の反発を恐れ、事なかれ主義で済まそうとする。そしていじめは続き、ますますエスカレートする。

 イスラエルのいじめは多々あるが、一例は水である。気候変動のために気温が上昇しており、パレスチナ人はかつてないほどの深刻な水不足を経験している。ヨルダン川西岸地区の水源地の85%がイスラエル当局によって管理され、パレスチナ人は自分たちの水源地から取られている水を、高い価格でイスラエルから買うことを余儀なくされている。アムネスティー・インターナショナルによると、「西岸地区に住むパレスチナ人は、国際標準の1日100リットルに満たない、1日73リットルの水しか利用できていないが、イスラエルの市民は1日240リットルの水を利用している。ガザの住民は沿岸の帯水層から水を汲み出しているが、限度を超えて汚染も進んでいる。」イスラエルはガザに流れ込む水脈を、ガザの手前でくみ出し、ガザに行く地下水を減らしている。

 もう一例は住宅破壊である。「イスラエルの人権団体ベツェレムは、イスラエルが占領するヨルダン川西岸と東エルサレムで、2021年にイスラエル当局に破壊されたパレスチナ人住宅が295戸に上り、895人が住宅を失ったと発表した。2016年の366戸に次いで多く、2017年以降最多となった。イスラエル当局は『許可のない違法建築』として住宅破壊を正当化するが、パレスチナ人に建設許可を出すことはまれで、ベツェレムは『イスラエルのアパルトヘイト(人種隔離)政策がパレスチナの発展を妨げている』と非難した。ベツェレムによると、2017年には164戸、2019年以降は毎年270戸以上が破壊された。」(共同通信2021/1/5)

 イスラエル政府は合法的というが、そもそも法律自体が占領地からのパレスチナ人排除のためのものである。パレスチナ人がなけなしの金を費やし建築するのを見て見ぬふりをして、完成後軍が武力を背景に潰すいやらしさである。家と資金を失った家族には絶望と憎しみだけが残る。

 欧米、特に米国のパレスチナ問題に対する行動は明らかなダブルスタンダードである。朝日新聞の報道では、「今年12月にパレスチナ自治政府のアッバス議長は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が起きた今年、国際的な支援の重要さに注目が集まったと指摘。その一方でパレスチナの占領が黙認されている現状は、『国際法違反に対するダブルスタンダードだ。すべての国は、パレスチナ問題解決のために支援してほしい』と訴えた」とある。

 2018年、イスラエル国会(クネセト)は「基本法:ユダヤ人国家」を可決成立させ、「イスラエル国家がユダヤ人の民族国家であって、民族自決権はユダヤ人によってのみ専権的に行使される」旨を明らかにした。この結果、従来はヘブライ語と並んで公用語とされていたアラビア語はその地位を失い、ヘブライ語のみが国家公用語と規定され、また、ユダヤ人入植地の建設・発展は民族理念の具現化として、積極的に推進されることが明記された。

 イスラエル建国時の独立宣言では、「宗教、人種、性別に関わらず、すべての国民が平等な社会的、政治的権利」をもつとされたが、今やこの建国の理念を覆し、国際法違反とされている占領地での入植地拡大(領土侵略)をさらに推し進めようとしている。イスラエルの人口900万人のうち20%はパレスチナ系だが、以前も政府からの補助、就職、インフラ整備などで差別を受けてきたが、今後ますます追い詰められる可能性が高い。

 今年、西岸地区におけるパレスチナ人の死者は、国連が2005年に記録を開始してから最悪となった。

 私達が今やることは、「ウクライナとパレスチナは同じだ。パレスチナを忘れるな!!!」と叫び続けることである。小さく、微々たる力しかないが諦めないことは力であると信じ続けるしかない。

【投稿日 2022.12.29.】

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『みちしるべ』**名神湾岸連絡線における環境アセスメントの不備について**≪2022.秋季・冬季合併号 Vol.114≫

2023年03月30日 | 単独記事

名神湾岸連絡線における環境アセスメント
の不備について

     藤本千恵子

1 名神湾岸連絡線とは

 名神湾岸連絡線は名神高速道路の西宮ICと阪神高速5号湾岸線の西宮浜ランプを結ぶ、道路延長2.7kmの上下2車線の自動車専用道路です。県道今津東線の上に建設される高架構造の道路で、その総事業費は1,050億円とされています。

 西宮市は2009年に阪神高速5号湾岸線西伸部(六甲アイランド~駒栄)が都市計画決定したことにより、同5号湾岸線につながる市内の南北の道路である、札場筋線・今津東線・小曽根線の交通量が増加することを懸念し、2011年に名神湾岸連絡線の建設を県に要望したとされています。2018年の環境影響評価概要書(方法書)の説明会では名神と5号湾岸線だけを結ぶとされていました。しかし、2020年の環境影響評価準備書の説明会では突如、阪神高速3号神戸線の大阪方面とも接続されると説明を受け、住民から「話が違う!」との声が上がりました。とはいえ、地元自治会が黙っていることもあり大きな反対運動は起こらず、2021年3月に国による直轄事業として新規事業化が決定しました。


図1 大阪湾岸道路西伸部と名神湾岸連絡線

 現在、西宮IC側では住民団体の「名神湾岸連絡線を考える会」が反対運動をしており、西宮浜では用地買収となる企業が組織する「名神湾岸連絡会」が納得のゆく代替地の確保を求めています。

2 名神湾岸連絡線の環境アセスメント

 名神湾岸連絡線はその規模において環境アセスメント(環境影響評価)が必要な事業ではありませんが、ルートとして住宅地を通り、近隣には小中学校や福祉施設等が点在するため、兵庫県と西宮市は2017年度兵庫県幹線道路協議会において、環境アセスメントをするよう意見を付けました。

 これを受けて事業(予定)者である国交省近畿地方整備局兵庫国道事務所がアセスを行うこととなり、調査をパシフィックコンサルタント(株)に1億円あまりで委託し、準備書の作成を目的とした阪神地域道路環境調査業務として2019年から2020年まで行われました。

 住民説明会等では「本来ならアセスを必要としない規模の事業にアセスをした」という意味の「自主的な手続き」「自主的なアセス」という文言が事業(予定)者によって度々使われ、この「自主的な」という扱いが、後述する問題への対応を曖昧にかつ不誠実にした、と思われます。

3 概要書と準備書で道路の長さが違う

 阪神地域道路環境調査業務報告書を開示請求したところ、「予測・評価の範囲変更について」の項に、「準備書に記載する対象道路が、概要書掲載の都市計画対象道路事業実施区域に収まらないことが明らかになった。」と記載があるのを発見しました。つまり、概要書に対して準備書では計画道路が長くなったということです。

図2 アセス対象範囲の変化(実線は概要書,破線は準備書段階)

4 県のアセスと国のアセスの違い

 手続き段階で道路の長さが違うという問題について、兵庫県の条例と国の環境影響評価法を比較し表1にまとめました。

 パシフィックコンサルタント(株)は概要書の事業実施区域から100m以上離れた区域が新たに事業実施区域となることから、「環境影響評価法」の規定によると、概要書手続きの再実施の対象となる恐れがあると指摘しています。

5 兵庫県環境影響評価室の見解

 パシフィックコンサルタント(株)の指摘に対し、2017年7月に兵庫県環境影響評価室は以下のとおり見解を示しました。

  • 計画路線が、概要書に示していた実施区域からはみ出すことについては、県条例に準拠して実施されているものであるため、区域について不足かは判断つきかねる。
  • 影響予測・評価の範囲については、事業(予定)者が準備書において、計画路線を全て満たす範囲で予測・評価が行われるのであれば、県条例を満足したと言える。

 つまり、県は環境アセスの準備書段階では、長くなった道路に対して行われているので問題はないとしています。

6 準備書段階でも対象事業区域の修正は反映されず

アセスの不備について兵庫県担当者に聞き取り

 この件について2022年12月に「名神湾岸連絡線を考える会」が磯見恵子県会議員(共産)の紹介で県水大気課環境影響評価官らと面会しヒアリングを行いました。県の担当官は事前に渡されていた質問書に答える前に、「名神湾岸連絡線のアセスは自主的にやっているアセスである。」「2019年7月のやり取りの記録は見つからなかった。」と述べました。質問及び県の答えのやりとりは以下のとおりです。

 概要書(方法書)よりも準備書のときの方が道路が長くなったという認識でよいか。
 事実です。
 長くなった部分の地域が環境に著しい影響を及ぼすおそれがないと判断した根拠を示していただくとともに、知事が判断された年月日を伺う。
 県としては判断していない。
 2019年7月に兵庫県環境影響評価室が区域について不足かを正しく判断しなかった理由を伺う。
 判断がつきかねる。こちら(県)の方が判断するものではないと推測される。
 長くなった部分の地域が加わったことで事業の利害関係者として位置付ける全ての範囲(町名とその番地)を伺う。
 確認できかねる。
 長くなった地域の公表とその地域のアセスを求める。
 事業者である兵庫国道事務所にこれから伝える。

 この場においても、県は準備書段階の長くなった道路に対しアセスを行っているので、問題はないと主張しました。

準備書段階でも対象事業区域の修正は反映されず

 しかし、準備書においては、都市計画対象道路事業実施区域の約250mの範囲は事業により土地の形状の変更や工作物の新設、増設、ヤード等の設置が予想される範囲と記述されています。その範囲に入っているにも係わらず、調査されず予測範囲にも入らなかった町などが存在し、明らかにアセスの不備といえます。

 つまり、対象事業の範囲が事実上修正されているにもかかわらず、準備書段階での調査や予測は、概要書の範囲内でのみ行われ、その是非について科学的な検証は行われていないということになります。

 実質的にアセスに含まれなかった地域の住民等にとって、建設前の環境数値も供用後の事業者によるモニタリング数値も与えられないこととなり、実際にどれだけ被害が生じ、若しくは拡大したかを知ることができません。環境基準内におさまるはずであるからそれでよいと簡単に済ませるわけにはいかないところです。住民は10年以上にもわたる長い工事期間を控え、道路供用後には道路がなかったときよりも明らか大きな被害を受け続けることになります。

 西宮市は準備書段階で概要書と準備書で道路の長さが違うことを知らされていなかったと言い、結局県も国に必要なチェックや指摘を行わず「自主的なアセス」という文言で曖昧に済ませています。

 ここ西宮IC付近では大きな住民運動も起こらず、国のすることだからといって諦めムードが漂っていますが、関係住民に対する説明責任として後から対象範囲を拡げた理由を問い正していきたいと思います。


図3 準備書での予測地点の状況(NO2)
      ※対象事業範囲の変化は反映されていない

【投稿日 2023.1.23.】

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2023年3月例会のご案内

2023年03月05日 | 月例会案内

 

阪神間道路問題ネットワーク
3月例会のご案内

2023年3月28日(火)13:30集合
集合場所 ⇒ 能勢電鉄 妙見口駅
旧黒川小学校(黒川公民館)等 見学会
雨天中止(荒天以外事務局は駅にいます)

少し春の気配が。昨年1月の西宮貝類館見学以来、今回はフィールド例会となります。文化財的価値のある木造校舎の旧黒川小学校を見学します。『みちしるべ』2022夏季号Vol.113が参考になります▼当日は川西自然教室の案内で、早咲きの桜も楽しめるかもしれません。他の見学ポイントにつきましては、メンバーや時間の都合で、案内の方にお任せします▼雨天中止ではありますが、事務局は集合時間に妙見口駅に行っています。決行か中止かは現地で最終決定します。参加の有無は皆さんでご判断を。中止の場合でも、集合した方が居れば、駅前か川西能勢口に引き返し、お店でのミーティングを考えています▼妙見口駅から現地までは2.5km程度です。舗装の十分な道ではありませんので、歩きやすい服装でお願いします。川西能勢口駅発13:04[日生中央行き]に乗り、山下駅で[妙見口行き]に乗換れば、妙見口駅に13:31到着です▼2月例会には、S画伯・「名湾線」Fさん・「みち環」H代表とYさん・「川西自然」T代表、それに私の6人でした。道路全国連から依頼のあった、「京都駅周辺の都市計画変更」を思いとどまる団体署名に賛同を決めました。名湾線情勢を聞き、道路財政の話にも▼『みちしるべ』114号は今月下旬に印刷予定です。(F)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする