「母屋が雨漏りで床が抜けているのにサンルームを増設」するような道路行政に気がつかない世論
藤井隆幸
「道路が出来れば便利」といった単純な思いは、世間に一般的に定着している。「道路を新設すると渋滞が解消される」という誤った考えもまん延している。政・官・財の悪魔のトライアングルが、そうしたプロパガンダを普及させてきたのが実態。
井の中の局地的な現象では、「道路が出来れば便利」もまんざら嘘ではない。社会全体を見回すと、保有されている自動車を総ての車線に並べると、東京都では5m間隔に並ぶと言われたことがある。殆どの車が車庫に眠っているので、道路の効用がある。少しでも利用率が上がると、渋滞が発生する。新設道路は必ず利用率を上げてしまう。道路が延長するたびに渋滞が多発する統計から、明確に証明されている。
東日本大震災では、多くの人々が車で避難しようとして大渋滞に陥り、津波に呑まれて殆ど死亡した。盆や正月に高速道路が何十キロもの渋滞になったと騒がれるが、日交通量の数パーセントの交通量が減れば、論理的に渋滞は発生しないことになる。
江戸時代は各地の大名が謀反を起こさないように、馬車交通などは極力禁止されていた。明治維新後の富国強兵でも、鉄道網の整備に殆どの力は注がれた。戦前まで、日本中どこへでも、鉄道網を利用して行ける国土が完成していたと言っても過言ではなかった。戦後はアメリカの圧力で、道路整備にシフトし、鉄道は急激な廃止に追いやられることになった。
そんな日本の事情の中で、最近、NHKのウェブニュースに興味深い記事が二つ載った。NHKは世界情勢ではアメリカのプロパガンダ一色ではあるが、道路族連中には耳の痛い話であろう。高速道路が永久に有料になるという話と、修理が出来ずに供用を廃止している橋が多数存在するというニュースだ。
高速道路 有料期限を最大2115年まで延長する方向 無料化厳しく
NHK Web News 2023年1月14日 23時30分
国土交通省は、高速道路を有料とする期限を今の制度の2065年から最大で50年延長する方向で調整しています。高速道路の老朽化に対応するための費用を確保する目的で、今回、期限が大幅に延長されれば無料化の実現は一段と厳しくなります。
全国の高速道路は建設費などの借金を料金収入によって返すことになっていて、今の制度では高速道路の有料期限と借金の返済期間を2065年までと定め、その後は無料化するとしています。
関係者によりますと国土交通省は、有料とする期限と借金の返済期間を最大50年延長して2115年までとする方向で調整しているということです。
高速道路の有料期限をめぐってはおととし、有識者で作る国土交通省の作業部会が、高速道路の老朽化が進む一方、維持や更新などに伴う費用の財源が確保されていないとして、有料期限の延長に向けた検討を求めていました。
国土交通省は関係部門との調整を踏まえ、関連する法律の改正案を今月23日に開会する通常国会に提出する方向です。
高速道路の有料期限は2014年に、それまでの期限を15年延長し2065年までとなりましたが、今回、期限が大幅に延長されれば、無料化の実現は一段と厳しくなります。
そもそも戦後の財政がなかった時代に、道路建設費用を如何に捻出するか。アメリカの巨大銀行が支配する世界銀行から、高金利の借金をして東名・名神高速などを建設した。借金返済と新たな新設のために、「特定財源制度」「有料道路制度」などが出来た。「特定財源制度」は自動車税・揮発油税・重量税などを道路財源に使うというもの。そして、「有料道路制度」というのが、借金で道路を造っておいて、通行料金で借金を返済するというもの。
儲かる道路もあれば、採算の合わない道路も政治屋先生の為に造らねばならず、当初の30年で無料にする話は延期に次ぐ延期に。過剰に儲けた料金を新たに建設する道路の不採算に充てる「プール制」ということにした。
国鉄分割民営化の際、主に新幹線建設で出来た多大な借金24兆円を、国鉄清算事業団に負わせた。電電公社の民営化の際には、NTT株を売却して大儲けをしたことで、JR各社株と800兆円規模の土地の一部売却で、何とかなる筈だった。が、バブルの崩壊で、株も土地も売れなくなり、清算事業団の借金は36兆円に膨らんだうえ、国民負担の税金で解消したのは、忘れられたのだろう。
道路公団民営化も同じ運命で、高速道路資産と建設借金残高は、国の特別行政法人「高速道路保有機構」が所有している。各高速道路(株)に道路を貸し付け、通行料金の利益の一部を「保有機構」に納めてもらい、建設借金の40兆円を解消するというもの。しかし、現実は国鉄清算事業団と同じ運命。
高速道路が永久に有料だからと騒ぐよりも、こちらの方が大変だろう。それに関連して、もう一つの記事を紹介する。
修理や撤去できず 1年以上“通行止め”橋 全国265か所 NHK調査
NHK Web News 2023年2月9日 19時20分
インフラの老朽化が進むなか、国が義務づけた点検で緊急の老朽化対策が必要とされた橋のうち、修理や撤去の対応が取られず、1年以上「通行止め」が続いている橋が、全国で265か所にのぼることがNHKの調査でわかりました。
専門家は「老朽化が集中して予算が確保できない状況が国全体で起きている。すべて維持するのは不可能で、インフラ全体で対応策の優先順位を考えていく必要がある」と指摘しています。
「数が多く手が回らない」「費用が不足」
2012年に中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落し9人が死亡した事故を受け、国土交通省は橋やトンネルについて5年に1度の点検を自治体などに義務づけていて、必要な対応の緊急度合いに応じ4段階で判定しています。
NHKは、国土交通省が公開した去年3月末時点の判定結果のデータを基に、4段階のうち最も老朽化が進んで「緊急に対応が必要」と判定されたもののうち、「未対応」とされている全国の343の橋について調査しました。
その結果、去年12月の時点で、全国41の都道府県の合わせて265の橋で、修理や撤去の対応が取られず、1年以上「通行止め」が続いていることがわかりました。
さらに通行止めの期間が
▽5年以上の橋が131か所、
▽10年以上が33か所、
▽20年以上も7か所あり、
▽最も長いものでは1985年からの37年間にも及んでいて、各地で通行止めが長期化している実態が浮き彫りになりました。
「通行止め」が続いている理由を自治体などに聞いたところ、
▼「橋の数が多く手が回らない」が96か所と最も多く、次いで
▼「対応する費用が不足している」が80か所、
▼「地域住民との合意が形成できていない」が42か所でした。
通行止めの橋のなかには、腐食して一部が崩れたり、台風や大雨で流されたりするケースもありました。
≪途中略≫
専門家「インフラすべて維持するのは不可能」
インフラの老朽化問題について詳しい東洋大学大学院経済学研究科の根本祐二教授は、通行止めのままとなっている橋が全国で相次いでいることについて「現在、インフラの老朽化が集中的に起きていることで予算が確保できず、補修も撤去もできない状況が国全体で起きている。予算を工面できない以上は通行止めにせざるをえないのではないか」と指摘しています。
今後については「橋は1970年代に年間1万本架けられていて、コンクリートの耐用年数が60年だとすると、2030年には1万本を架け替えなければならない。インフラの老朽化は、始まったばかりで、今後さらに深刻になると考えられ、すべて維持するのは不可能だ」と話しています。
そのうえで、どう対応するかについて「日本は人口減少期にインフラの老朽化が集中的に起きているので予算の確保は簡単ではなく、いまあるインフラをたたむという発想が必要になる。その際には橋だけではなく、道路などほかのインフラの予算もあわせて考え、優先順位をつけて対応する必要がある」としています。
そして、利用者の意識も変える必要があるとして「自分の利便性ではなく、地域全体を持続可能にしていくために何ができるのかという観点で考えることが大事だ」と話していました。
もう、道路建設をしている場合ではないのは明白。とは言っても、国交省の予算では新設道路計画が予算の殆どを占めている。
「一人当たりの高速道路延長が欧米より短い」とか、「都市間自動車走行速度が欧米より遅い」などと理屈をこねる。少子化傾向と言うものの、欧米よりも人口密度が極端に多い日本において、一人当たりは短いのは当然。可住面積当たりの道路延長では、欧米より桁外れに群を抜いる。都市間は森林の欧米と比べ、都市が連結している日本で、高速移動できないし、その必要もない。
最近は役に立たない兵器を買えと言ってくるアメリカだが、公共事業の割合を増やせと難癖をつけてきたアメリカ。言われるままに公共事業費を増やしに増やしてきた日本。予算配分を差配できる政治屋が存在せず、官僚の掴み合いの喧嘩を制することも出来ず、「シーリング」という対前年度比しか決められない政治。
よって、公共事業費の7割は建設省(現国交省道路局など)、その内の4割は道路事業費と、半世紀にわたり変化がない。それも悪魔のトライアングルにとって、維持管理よりも新設が儲かるので……。
【投稿日 2023.2.26.】